第14話【人魚姫】
入学式が終わって、ホームルームのためにクラスごとに校舎へと移動する。
大学と一緒になってる広い敷地を移動するからか、入学初日だっていうのに、早くもあっちからもこっちからも、女子の集団特有のキャッキャッした会話が聞こえる。
あたしと桜井さんはお互い他に知ってる人もいないから、2人で歩いて行く。
「桜井さんはさぁ…」
「姫でいいよ」
「ひめ?」
「うん、中学の時も、みんなにそう呼ばれてたし」
あ、呼び方か。
そういえば、言われてみりゃ確かに「ひめちゃん」って呼ばれてるの聞いたことある気がするかも。
あたしなら絶対に全戦全敗で名前負けする呼ばれ方も、学校No.1美少女の桜井さんなら何も違和感がない。
「オッケー、じゃあ姫ちゃんね」
「…うん」
ん?
あれ?なんか今……
「どうしたの?」
「ん?……あ、何話そうとしたか忘れた」
「えぇ!?ヤダ、マツコお婆ちゃん!!」
「あははっ、ヤバッ!!」
あたしが何話そうとしたか忘れたのを、姫ちゃんが「お婆ちゃん!!」ってツッコんで2人で笑ったけど……
何だろ、さっきちょっと、「姫ちゃん」って呼んだときの姫ちゃんの顔が、なんかちょっと困った顔っていうか…
最近、似たような雰囲気感じたことあった気がするな。
あ、ユリちゃんだ。
春休み、コンビニで会った時のユリちゃんみたいな、何か元気ないのを無理に元気にしてるみたいな、そんな感じに見えた。
あの日は、あたしにとっちゃけっこうヘビーな話を聞かされて、ユリちゃんの元気のない理由はわかったけど……
姫ちゃんも何かあったのかな?
中学の時の彼氏と別れたとか?
でもそのあと、教室に着くまでの姫ちゃんはずっと楽しそうに話してたから、気にしすぎかなってことにして、気にしないことにした。
教室に着いても出席番号順に座るから、姫ちゃんは私のすぐ後ろに座る。
おお!!これから毎日、振り返るとこの美少女がいるのか。ヤベェな。
「姫ちゃんてさ、美少女で名前が“姫”って、なんか少女漫画の主人公みたいだね」
「え?」
ん?
つい思ったことを口走ったら、なんか、姫ちゃんまた困った顔…ていうか、ちょっと引き攣った顔になった。
あ、もしかしてコレ系のネタでずっと弄られてきて、ウンザリしてるとか?
それなら申し訳ないな…。
「姫ちゃん、ゴメ……」
ゴメンねって謝ろうとしたら、同じタイミングで姫ちゃんは徐ろに手帳を出した。
何だ?
そして、手帳のまだ何も書いてないページを開いて、そこにシャーペンで
『人魚姫』
って書いた。
なんだ?
「なんて読むと思う?」
「え?急に何?……んと、“にんぎょひめ”…だよね?」
見たまま答えたけど、姫ちゃんは微妙な笑顔で顔を横に振る。
「リトルマーメイド……って読むんだよ」
「…ああ、なるほど」
あれか、あの世界的に有名なアニメブランドの古き良き名作か。
ていうか、急にどうした?
あたしが名前のネタ振って、それが嫌だったから無理に話題を変えて来た……のか?
「で?リトルマーメイドがどうしたの?」
とりあえず、話の先を促すと
「これ、私の名前」
「………え?リトルマーメイドが?」
え?名前?でも「姫って呼んで」ってさっき…
んんん?
「びっくりしたでしょ」
あたしが何が何だかわからず、困った顔をしてたら、姫ちゃんはちょっとだけ無理したような、でも楽しそうな笑顔でおどけて言った。
「えっと、うん、びっくりしたっていうか……」
そっか、いわゆるキラキラネームだ。
って、思っても、流石に本人に「キラキラネームだね!」とか言えないよな。
「でもじゃあ「姫」って呼ばれてるのは、あだ名かなんか?」
とりあえず、当たり障りのない方向に話を持って行こう。
「『人魚姫』は、お母さんが付けたの。もう離婚して、お父さんしかいないけど……」
おうっ、話がいきなりヘビーだぞ。
初めてまともに話すっつーのに、なんかちょっと展開がなんかアレなことになってるぞ。
「お父さんは、私の名前が普通じゃないからって、学校とかには『姫』だけで通るようにしてくれてるけど…『人魚姫』よりはマシだけど、『姫』も恥ずかしいもんだよ」
ああ、なるほど。なんて言うんだっけそういうの。通り名?通称?
キラキラネーム過ぎて、名前が原因でイジメられたりした人達が、そういうの使うって聞いたことあったけど、まさか知り合ったクラスメイトにいたとはビックリだ。
「なんで、あたしには本名話してくれたの?」
なんか、いろいろ難しそうな過去がありそうなのに……
「ん~…マツコだからかな」
そう言う姫ちゃんの笑顔は、もう無理しそうな感じがしなかった。何でかわかんないけど。
なんだ?マツコだからって。
マツコわけわかんないぞ?
「あ、先生来た」
担任の男の先生が入ってきて、あたしたちの会話は中断した。
HRの最中、姫ちゃんからメモが来てた。
『今日、一緒に帰ろう』
あたしは少し戸惑いながらも、OKの返事を書いた。
駅に向かう道は、あたしたちの学校だけじゃなく、いくつかの高校が途中から合流して来る。
うちは女子高だけど、他には共学もあって、男子もたくさんいた。
そんな男子たちは、うちの制服を見ると、あからさまな視線を向けてなんか話してる。
ま、話題の対象になるのは可愛いコだけで、デラックスなあたしには関係ないけど、こっちを向いてる視線は沢山あった。
そんな男子の視線の先にいるのは、もちろん中学で学校一の美少女だった姫ちゃん。そんな美少女となぜかデラックスなあたしが一緒に下校している摩訶不思議wwww
姫ちゃんは顔だけじゃなくて、ブレザーの制服の上からでもわかるぐらいスタイルいいし。
もしかしたら、熊沢女子高でも学校No. 1美少女かもしれないって、周りの子を見て思った。
そんな男どもの視線を無視するように、姫ちゃんはさっきからずっと喋ってる。
帰り道でも、話題は自然と姫ちゃんの過去の話に。
姫ちゃんのお母さんは、精神病院に通ってたんだって。
よくわからないけど、鬱病とかそんなようなのらしい。
姫ちゃんが生まれる頃、お母さんはディズニーにハマってて、その中でも1番好きな映画から、姫ちゃんに『人魚姫』ってつけたんだって。
「なんで主人公の名前をつけなかったかなぁ」
と、ぼやく姫ちゃん。
お母さんにもそうやって聞いたことあったみたいだけど、それだとまんま映画から取ってつけたみたいで嫌だったとか。
主人が何て名前だったか忘れたけど、確かにリトルマーメイドよりはマシかもだけど、日本人の名前としてはどうなんだろ?
結局、お母さんのそういう暴走しまくるとこが原因で、姫ちゃんの両親は離婚。
お母さんの精神的な不安定が理由で、姫ちゃんはお父さんに引き取られたらしい。
それが、姫ちゃんが小学校に上がってすぐ。
それからなんやかんやあって、夏休みの前に転校したらしい。
元の小学校では『人魚姫』で既に知られていて、いじめにもあっていたから、転校した時に校長先生とかと相談して、『姫』で通るようにしてもらったらしい。
「本名じゃなくてもできるんだね」
「私の場合、名前でいじめられてたからね。それをお父さんが新しい学校に説明して、『人魚姫』から一字とって『姫』にしたんだって」
「そっかぁ、いろいろあんだねぇ」
同じ中学に3年も一緒にいたのに、高校生になって初めて喋った姫ちゃんは、いろんな意味で想像以上だった。
ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。




