第10話【泣いてもいいよ】
ユリちゃんは、恋愛圏外のあたしからしたら、ものすごく大人な経験をしてた。
それこそ、陽キャな1軍グループの子達が話してる内容みたいな。
そんな大人な経験までしたキミが、今さらあたしみたいな猪女に何を聞いてほしいんだい?
「彼、優しいからさ、私にずっと嘘ついてたんだ…」
ええっと………
優しいから、嘘ついてた?
「……どゆこと?」
あたしゃ全然わからないよ、ユリちゃん。
「彼、本当は好きな人がいたんだって」
「うん…ん?」
え?ユリちゃんと付き合ってるのに?
ああ、もしかして、初恋の人が忘れられない……とか?
その人を忘れるために、ユリちゃんと付き合ったとか……
そうすると、ちょっと不憫かも
「私と知り合う前から好きだったみたいで、でもその人はたまにしかオフ会来ないし、美人でみんなから人気だったから、なかなかチャンスがなかったんだって」
「…え?」
ちょっと待って、最近の話?
「私と付き合ってからも、気になってたみたいで……たまたま今年の初詣にみんなで行ったときに、その人も来てたんだって」
「……え?」
付き合ってからも、気になってた?
え?どういうこと?
「お詣りして、その人に何お願いしたか聞かれて、『君と付き合えますように』って、言ったって……」
「はあ!?マジで!?」
なんだと?
ユリちゃんと付き合ってるのに、他の人も好きで?
ユリちゃんと付き合ってるのに、君と付き合えますように?
どういうこと?
ていうかユリちゃん、あたしのリアクションにも何か反応しておくれよw
けどまあ、今の話の最後の方は、ユリちゃんの声は涙で途切れ途切れになって、なんとか聞き取れるぐらいだったから、がんばって話してくれてるのが精一杯なんだろな。
溢れ出した涙を拭って、気を取り直したユリちゃんは、また語り始める。
「でも、みんな私と付き合ってるって知ってたから、冗談だと思ったって」
「冗談だよ、たぶん」
そうじゃないと、理解できない。
でも、そんなあたしの無意味な相槌に、ユリちゃんは小さく首を横に振る。
「あとから…聞いたんだけど、私は、受験があるから……来れないって、言ってたって……」
「ふぬ?」
「私……初詣の、話、なんか……聞いてなかった……」
「え?…それって」
気を取り直して頑張って話してたユリちゃんは、ついに嗚咽混じりの涙声になった。
「その人が…来るって……解ったから……私を…誘わなかったって……ううっ…」
「なんじゃそりゃ!?」
堪え切れなくなって、ついに顔を伏せて泣き出すユリちゃん。
もうなんか、頭の中で状況を整理できなくなってる恋愛圏外のあたしだけど、そんな大人のドロドロに巻き込まれて、ユリちゃんがものすごくツラい恋愛してるのはわかった。
ていうか
「それが、『優しい嘘』なの?」
さっきからずっと気になってたこと。
──彼、優しいからさ、私にずっと嘘ついてたんだ──
いやいやいや、どう考えても優しさのカケラもないでしょ!!
なんでそれを「優しいから嘘ついてた」なんて言えるんだい!?
実際、キミはそんなにも泣いてるじゃん!!
ユリちゃんは、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、こっちを向いてなぜか笑った。
「はっ、バカみたい!!優しくなんかないよね」
「そうだよ!!だいたい、優しい人なら嘘つかないよ!!」
ユリちゃんは、ちょっとだけ力強く「うん」て頷いて、涙を拭った。
「この前、久しぶりにオフ会に行ったんだ」
少し、気を取り直したように、嗚咽の止まったユリちゃんはまた語りだす。
「彼と付き合うようになってからはね、私への連絡は彼がしてくるようになってたから、私、ずっとオフ会やってないと思ってたの」
「…ん?」
どういう意味……
「でも、たまたま主催の人が連絡くれて…卒業式の日に「卒業おめでとう」って連絡くれて、そのままちょっとやりとりしてたら、今も…最近もオフ会やってるって言われて、それを彼氏に聞いたら、言うの忘れてたって」
「…どういうこと?」
「なるよね、どういうこと?って。なんで教えてくれなかったの!?て言ったら、なんか逆ギレされて、そのことでケンカになったんだけど…」
ああそっか、そういうことか。
ユリちゃんには、オフ会の連絡は彼氏から来るはずだから、彼氏からオフ会のこと何にも聞いてなかったユリちゃんは、オフ会ずっとやってないと思ってて、でも主催者さんに聞いたら本当はオフ会やってたってことか。
でも、なんで彼氏はユリちゃんにオフ会のこと伝えなかったんだ?
彼氏が伝えることになってたんだよね?
「とりあえず、次のオフ会は一緒に行くってことで落ち着いたんだけど…」
「うん…」
「彼氏、その日急に行けないって言い出して、でも、それは、私の卒業祝いも、兼ねたオフ会だったから、どうしたら、いいか……主催の人に聞いたら……迎えに来てくれて……」
ユリちゃん、また泣きそうなのを堪えながら話してる。
泣いていいよあたしで受け止めてあげられるかは、わかんないけど……
「オフ会行ったら、私たち……」
涙で言葉が止まるユリちゃん。
また何か、よっぽどツラい事を言おうとしてるのかな…
「わた、したち…ううっ……別れた…ことになってて……彼氏は……」
ユリちゃんの嗚咽を堪えた涙声に、あたしの目頭も熱くなってきた。
別れたことに?
いろいろ混乱して聞いてたけど
よく考えたら、卒業式の日に彼氏はユリちゃんを迎えに来てたんだ。
見るからにラブラブそうな感じで、キスまでしてたのに
あのあと、そんなケンカしてて
別れたことになってた?
頭の中は混乱しっぱなしだけど、たっくんにあたしは殺意すら湧いてきたよ。
ユリちゃんは、小さな拳を膝の上でぎゅっと握って、がんばって泣き崩れるのをこらえてるのか、その手が震えてる。
あたしは、思わずユリちゃんの震える小さな拳を握ってた。
下を向いてたユリちゃんは、ちょっとだけ顔を上げた。
「彼氏は……あたしが…いない間に……その美人さんに猛アタックしてるって…」
「なんじゃそりゃ!?」
ちょっと待てちょっと待て
えーっと
ユリちゃんと彼氏は別れたことになってて
彼氏は美人さんに猛アタックしてて
でも、卒業式には迎えに来て、あんなラブラブなキスしてた!?
マジで意味がわからない……
「美人さんは、そんな風に言い寄られるの慣れてるから……のらりくらり、かわしてるって言ってた、けど」
……もっと別世界の人だ
「自分が悪くないのに、ごめんねって言ってくれて、私とまだちゃんとケリがついてないんなら、そっちが先だよねって、彼氏を呼び出しくれて」
うわぁ、めちゃくちゃ大人な世界だ。
ドラマでしか見たことねぇよ、そんな修羅場www
「いろいろあったけど、その日はもう遅かったから、また明日ちゃんと話すって言って終わりになって…」
「ふんふん」
「それが昨日」
「へぇ……え!?昨日!?じゃあ今日は……」
「うん、本当は彼氏とちゃんと話す予定だったんだけど、逃げられた」
ユリちゃん家からローソンまでは、あたしん家からより倍ぐらい遠い。
歩いて来てたのを変だなって思ってたんだけど…車持ちの彼氏との約束で来てたら歩きだわね。
「マツコ…、私……どうしたらいいかな?」
やっとこさ頭の中で状況が整理出来てきたあたしに、どうしたらいいなんて聞かれても
「いやあ、あたしにゃ遠い世界過ぎてなんとも…」
本物のデラックスなマツコさんなら、何かいいアドバイスくれるんだろうけどね。
彼氏どころか、恋愛として人を好きになったことすらない私には、何も言ってあげることができないよ。ごめんけど。
「だよね…」
「あ……ああ」
そんなあたしの心の内を知って知らずか、ユリちゃんはサクッと肯定する
いや、事実だけどさ、アッサリ認めないでくれw
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