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Health Control  作者: ZIRO
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プロローグ〜グラビアアイドル〜

目覚まし時計代わりにしているスマホから、規則正しいアラーム音が鳴り、私は目覚める。


「ふんにゅうっ」


と、我ながらわけのわからない声を出し、ぐぐぐっと伸び。


スマホのアラームを止めるてベッドから体を起こし、カーテンを開けると、眩しい朝日が差し込んでくる。


手をかざすと、木漏れ日のような小さな光が、軽く閉じた指の隙間から入り込み、イタズラ好きな妖精のように寝起きの瞼を刺激する。


指を強くぎゅっと閉じても、光は完全に遮られることなく、指の付け根を紅く染める。


そしてまた少し緩めると、イタズラ好きな光の妖精は、私の顔をつついて遊ぶ。


それを幾度か繰り返すのが、学生の頃からの私の習慣。


実家を離れて、一人暮らしをしている今でも、この『指の隙間』を観賞し、自己満足に浸る癖は変わらない。




「ももちゃん、おっはー!今日も最っ高に、きゃわうぃ~ねぇ~」


「やだぁ、篠田さんチャラ男とか何十年前ですかぁ。おはようございまぁす」


事務所に出勤すると、さっそく声をかけてきたチャラ眼鏡の男性は、私のマネージャーの篠田純平さん。こう見えても私より15以上も歳上のミドルサーティー。


いつも、私の服やメイクを誉めてくれて、私を上機嫌にさせてくれる、チャラいけど、真面目で頼れるマネージャーさんなのだ。


彼のおかげで毎日楽しくお仕事させてもらってる私は、営業控え目のナチュラルスマイルにハートマークまでおまけして、挨拶を返した。


え?マネージャーってなんのって?


申し遅れました。 私、小松百華(こまつももか)はキャンディースマイルに所属する、只今絶賛売り出し中の……


「ももちゅわ~ん、佐伯さんがちょっと予定早めたいっていうから、さっそくスタジオ向かっちゃうけどOK?」


「あ、はぁ~い。すぐ行きまぁす。」


佐伯さんというのは、超有名出版社の編集部の人で、ヤング漫画雑誌のグラビアを担当している人。


つまり、私のお仕事は……




カシャッ


ピピピッ


という独特の電子音がしてフラッシュが一斉に光り、水着姿の私を照らす。


数枚撮るうちに、私は少しずつポーズを変えていく。


「いいねぇ、ももちゃん!セクスィーだよ。そこで、もうちょっと胸寄せてみようか。」


カメラマンさんや佐伯さんたちの指示で、更にポーズをとると、佐伯さんが親指を立ててグーサインしてくれる。


誉められて調子にのるタイプの私は、ギリギリ全開のセクシーを、惜し気もなくアピールしていく。




では、改めまして


私の名前は小松百華(本名)


もうすぐ19になる18歳


身長は168cmで、体重は49kg


スリーサイズは、上から95、59、88。


バストは自慢のHカップさ!


高校3年の秋に、引退した部活の仲間達と原宿に来ていた時にスカウトされて、決まっていた就職先を蹴ってそのまま事務所に登録。


芸能事務所キャンディースマイルから、絶賛売り出し中の期待の大型新人です!!


なんて、自分でいうのも恥ずかしいけど……


そう 、私はいわゆる『グラビアアイドル』ってやつなんです。


みんなよろしくね(ハート)




撮影が一段落してガウンを羽織り、ドリンクをいただきひと息つく。


「百華さん、お疲れさまです」


優しい笑顔で声をかけてきたのは、メイクスタッフのまりちゃん。


幼い顔立ちだけど、実は私より2コ歳上。


ちょっとふっくらした、可愛い女の子。


「そういえば百華さんて、お姉さんいます?」


「うん、2つ上だから、まりちゃんと同い年かな」


私のメイクを直しつつ、歳下の私になぜか敬語で話しかけるまりちゃん。


けど、童顔と低姿勢のせいか、それも違和感がなく、私もついついタメ口になってしまう。


「へぇ……」


と、答えて何か考え込むようなまりちゃん。


何か言いたいのか…


ま、姉の話題というだけで、なんとなくわかるけど。


「百華さんのお姉さんて……歌ってます?」


やっぱり。


「うん、シルトクレーターってバンドのボーカルだよ」


最近、よく聞かれるから先に答えてしまった。


私の姉、咲は、動画投稿アプリによく自分の歌をupしていて、投稿仲間と組んだバンドで3ヶ月前にメジャーデビューした。


なんとまあ


姉妹そろってメディアに出てしまったのである。


「わぁ!!やっぱり!! あのボーカルのコすっごい可愛いなぁって思ってたんですよ。で、今日百華さんの顔見たときに、あれ?シルトクレーターのサキちゃんに似てる?って思って。 へぇ、やっぱり!!わぁ、なんか超嬉しいです!!」


ふむ……


まだ、ついこの前デビューしたばかりのバンドなのに、もうこんな熱烈なファンがついているとは……


咲め、我が姉ながらなかなかやるではないか!!


まりちゃんが言うように、私たち姉妹はよく似ていると言われる。


だから、グラビアアイドルでしかない私は、姉を超危険なライバルとして見ている。


私と似た容姿の上に、彼女は歌まで歌えるのだ。


私も歌うが所詮カラオケレベル。


昨今、ちょっと見た目が良ければすぐに雑誌やらなんやらに取り上げられるじゃん?


本職のグラビアで抜かれる前に、なんとかメディア露出を増やし、バラエティーとかで活躍しなくてわ!!


一人ぐぐぐっと拳をHカップの胸の前で握る私に、まりちゃんはそんな私の心境など知らずにまだ話しかけてくる。


「でも、姉妹そろって芸能界で活躍できるなんて、羨ましいですね。二人とも美人で……」


そう言って微笑むまりちゃんの笑顔は、どこか寂しそうだった。


その寂しい笑顔に、数年前の記憶がフラッシュバックする。



── あんた、悔しくないの!?デブで悔しくないのぉお!!?──



「まりちゃん」


「はい?」


「絶賛売り出し中の新人グラビアアイドルと、デビューしたての話題のバンドの美人ボーカリストが、3年前まで『マツコシスターズ』って呼ばれてたって……信じられる?」


予想通り、まりちゃんは「?」って顔でキョトンとしている。


マツコシスターズの『マツコ』とは、言わずと知れたデラックスなあの御方。


「4年前まで、私とお姉ちゃん、今の2倍の体重だったんだよ」




「…………………え?」




まりちゃんの時が止まった(笑)


この話しをすると、必ずみんな同じ反応をする。あんまり話すことはないけど。



そう



私もお姉ちゃんも 、『小松』という苗字と、170cm近い身長と90kg級の体重のせいで、デラックスなあの御方の名前で呼ばれていたのだ。


あれは、忘れもしない3年と数ヶ月前の、2月14日……


小松百華、卒業を間近に控えた中学3年のときでした。 つづく

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