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悪導師  作者: かけはし
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1.火鳥マキと悪導師

 幼い頃から、俺、火鳥マキはいわゆる幽霊というものが視えていた。

 ごく普通に生活していく中で、俺は霊が視えることに対して特に困ったことは一度もなかった。

 が、今日その平穏な日常がぶっ壊れた。


 俺は今、悪霊に追われています。


 




「くそっ、あんなこと今まで一度もなかったのに……」

 全力で走っているが、体力的にもそろそろ限界だった。下校中に『それ』と目があってから、もう一時間くらいずっと逃げている。

 そもそもあんなに禍々しい霊は見たことがなかった。

普段視る霊はごく普通の人型で、足元が透けていなければ人間そのものだ。

 

しかし今回は違う。明らかに人型ではないし、人間である自分を襲っている。

 

集中して走っていなかったせいか、迂闊にも何かにつまづいて転んだ。


というか多分何もないところで転んだ。


だっせぇな、俺……。

 

情けなくべしゃりと前のめりに転ぶ。疲れているのもあるが、恐怖で足がすくみ立ち上がることは無理だ。


しかも、マキが止まったことで、霊は味を占めたかのようにものすごいスピードでこちらへ向かってきた。


(喰われる……!)

 

反射的に目を閉じた、その時だった。

 

異形の霊が何者かによって真っ二つに割れ、霧のようなものを出しながら徐々に人型へと変わっていった。

 

「間に合ったな」

 

霧が晴れると、見知らぬ男が立っており。さっきの霊はどこにも見当たらなかった。

 

男は大学生くらいに見えた。黒い羽織を羽織っていて、右手には槍のようなものが握られている。

 

( ……あれ、この人、霊か?)


一瞬疑ったものの、霊特有の足の透けがない。だが、なんとなくこの人は人間ではない気がした。

 

凝視しているマキに気付いたのか、男が声をかけてきた。

 

「? お前、俺が視えるのか」

 

うわっ、気づかれてる!

 

「……何ビビってんだよ。別に隠さなくてもいいぞ。俺はさっきの化け物みたいにお前を襲ったりしない」

 

「……」


黙っているマキに、男は予想の斜め上を行く事を言った。いや、最初から予想なんてしていなかったのだが……。

 

「そうだ。お前が襲われたのは俺のパトロール不足だ。お詫びをさせてくれ。ついてこい」

 

「ぜ、絶対行かねぇ! 助けてもらった手前、あまりにも失礼な言い方だが、この人? は明らかに不審者だ。なんか武器持ってるし、変な格好をしているし。俺は小学校に入ってから誰よりも早く「いかのおすし」を熟知したんだ。舐めんじゃねぇぞコラァ!」


 と、言いたいのをグッと堪え、マキは平静を装い立ち上がった。


「助けてもらったのは感謝するけど……。俺は知らない人にはついて行かない主義なんだ。悪いが帰らせてもらう」

 

マキの渾身の拒否に、男は欠伸をしながら頭を掻いて聞いていた。


「はぁ? 何言ってんだお前。どう見ても俺が不審者な訳ねぇだろ。……しょうがねぇなあ。よし、来い!」


「えっ? うわっ!」 

 

男はマキの手を引っ張って、空中に浮かび、そのままどこかへ連れ去った。


(ど、どうなっているんだ。俺飛んでいるのか? しかも降りられない!)

 

「飛んでいる!? これ大丈夫なのか!? てか落ちるぞ!」


「落ちないよ。俺と手を握っているってことは、お前は今俺と同じ性質になっているってことだから」

 

( えっとそれはつまり……霊?)

 

「霊とはまた違うな。おっ、ほら着いたぞ。ここが俺の家だ」

 

 連れて行かれた先は、ごく普通のアパートだった。

 

 俺、もしかしてここで監禁とかされるのかな……。終わった……。グッバイ、俺の人生。

 






「それでは質問に答えてください」

 

謎の男の家に連れて行かれたマキは、監禁なんてされることはなく、なぜか質疑応答をさせられていた。

 

「えーっと、まず名前と年齢は?」


火鳥(ひとり)マキ。十六歳、高校一年生」


「霊はいつから視えている?」


「覚えていないです。でも多分小学生くらいかな?俺、親がいないんで先祖に霊感がある人がいるのかわからないんです」


「なるほどね。じゃあ今は施設かどこかで暮らしてんの?」


「施設は高校入学と同時に出て、今は一人暮らしをしています。あと、俺からも質問させてください。あなたの名前は?」

 

男はにィっと笑い、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。


「俺の『名前』は冷鬼(れいき)真津(まづ) 冷鬼だ」

 

冷鬼、さん……。不思議な名だ。

 

「よしっ。質問大会はここまでだな。しっかしお前なぁ、見ず知らずの野郎に必要以上の情報を言っちゃあ駄目だよ。こんな奴にこんなこと伝えるのは正直不安だけど、ほっといたらほっといたでいずれ冥界にバレるしなぁ」

 

この男……冷鬼は、ブツブツと何かを言いながらボールペンをカチカチしていた。

 

「……うん。やっぱ言うわ。いいか、今から話すのはお前にとって超大事なことだから、よーく聞けよ。あっ、あと俺別に特定の宗教とか信じているわけじゃないからな。これから話すことは、『そうできていること』の話だから」






 「全ての生き物は、死んだら霊になる。霊は冥界、つまりあの世へ行って、『冥界裁判』というものにかけられる。生まれ変わるか、地獄に落ちるか、冥界の役所に就くかなど、さまざまな判決が言い渡されるんだ。

 そんな霊でも、冥界に行く時に道に迷うことがある。まぁ彷徨っているって言い方だな。そんな奴らを冥界へ導くのが、『導師』っていう奴らだ。導師は冥界裁判で言い渡される判決の一つだ。

 導師には幾つかの種類に分かれていて、ごく普通の霊を導くのが『白導師』。今日火鳥が襲われた、怨念やなんかがこびりついている悪霊や地縛霊を導くのが「悪導師」だ。俺は後者の方な。悪導師は霊に付いた『穢れ』を『浄化』してから冥界へ導く。さっきやったのはその浄化だ」

 

浄化……あの異形が人型に戻ったのも、浄化のおかげなんだ。

 

「そう。で、ここからが大事な話だ」

 

冷鬼は真剣な顔になり、衝撃的な事を言った。

 

「火鳥の体は原因不明だがほぼ霊体に等しい。ギリギリ人間の肉体を保っているが、このままだと寿命が尽きる前に強制的に死ぬ」

 

(は? だって俺、今まで普通に生きて来れたぞ?しかも見知らぬ人にいきなり誘拐されて、お前はじきに死ぬって言われてもなぁ……。)

 

「受け入れられないならそれでいい。お前が早死になるだけだからな。ただ、お前がもし生きたいのなら、解決方法を一つ教えてやろう。火鳥マキ、お前は悪導師になれ」


「……えっ?」


「お前が半霊なのは、お前の中にある何かが浄化できていないからだ。悪導師になって、浄化の方法や経験、知識を積んで、一人前の悪導師になって自力で己の穢れを浄化できたら、火鳥は半霊じゃなくなり、人間に戻れる」

 

(悪導師……。詐欺か何かではないのだろうか。きっと騙されているんだ。)

 

「あんな物を見て尚、夢だのなんだのと言い張って誤魔化すのか? はぁ……。こうなったら最終手段だな。これは最後に言おうと思っていたんだが、導師や冥界に務める奴らは全員年齢に関わらず給料が発生するんだぞ」

 

( 何!?)

 

 マキの目の色が変わった。


「高校生はお金が大好きなんだろ? だったら悪導師になって稼いだ方が自分に得がいくんじゃないか?」

 

ちょっとその考え方は理解できないが、給料が発生する、という一言が、マキの迷いを打ち消した。

 

「なります。悪導師やります!」

 

少々不安もあるが、給料がもらえるんだったらなんでもいい。それに、いざとなったらこの冷鬼と名乗る男を訴えればいい話だ。

 

そんなマキの考えも露知らず、 冷鬼は満足そうに微笑んだ。

 

「よし。そうと決まればまずは申請からだな」

 

冷鬼は引き出しを漁り、何やら書類を取り出した。

 

「これが申請書だ。冥界の当局に届けば受理される。必事項を記入して、書いたら俺のところにもってこい」

 

マキは借りた万年筆で書類を書き始めた。

 

「あの、冷鬼さん。保護者のサインが必要って書いてあるんですが……」

 

「ああ、そこは俺が書く。火鳥は今日から俺と暮らせ」


「なっ何言っているんだアンタは! 俺、引越しの手続きとかしてないし、学校にも連絡しなきゃだし。いきなりは無理ですよ!」

 

(いくら何でも話が飛びすぎている。やっぱり詐欺なんじゃないか……?)

 

「大丈夫大丈夫。記入した申請書を提出すれば、冥界が現世に対していい感じに都合改変をして申請書通りの都合にするから。それに、寂しく一人暮らしをするよりはいいだろ。あと、曰く付きの半霊を一人にしておくのはシンプルに危険だ」


(はあ……。そうですか。)

 

 なんだか色々適当に流されている気がするが、とりあえず書類は書けた。


「書けましたよ」

 

書類を冷鬼に渡す。すると、冷鬼は何かが書かれたメモを貼り、契約書で紙飛行機を作り始めた。

 

「えっ、なんで紙飛行機なんか折っているんですか?」  

「これを折って適当に空へ向かって投げると冥界に繋がって当局に届くんだ。書類は申請する人が飛ばさなきゃならないから、火鳥が飛ばせ」

 

冷鬼がベランダを開けた。


よし!


マキは紙飛行機……じゃなくて、申請書を空へ向かって思いっきり飛ばした。 が、申請書な情けなくヘロヘロと飛びながら暗闇へ消えた。

 

「ぶはははは! 情けねぇ〜、なんだそりゃ。ヘロヘロじゃねーか!」


 ……思いっきり馬鹿にされた。

 

「んふははは。まあ、これで書類は冥界へ行ったな。さあ、そろそろ届く頃合いだ」

 

すると、何時からあったのだろうか。テーブルの上にぽつんと黒い羽織が置いてあった。冷鬼さんが羽織っていたものと同じだ。

 

「これは冥界羽織。悪導師は皆これを羽織っていて、これを羽織ると霊とほぼ同じになる。まあ要するに、視える人間以外には俺たちが視えなくなるって事だ」

 

さっき冷気が言ってた、「霊と同じ性質」って言うのはこういうことだったのか。

 

「まあ来るものも来たしとりあえず今日は休め。明日になったら冥界が都合改変してくれるから安心しろよな」

 

冷鬼はそういうと、寝室へ案内した。

 

「俺はソファで寝るからお前はベットで寝ろ。じゃ、おやすみ」

「ちょっ、何で泊まる前提で話が進んでいるんですか! 俺は一旦家に帰らせてもらう!」

「あー、ぎゃーぎゃー騒ぐな、近所迷惑だぞ」

 

 冷鬼は騒ぐマキにデコピンをお見舞いした。

 

 すると、マキは気絶したかのように倒れ、そのまま眠った。

 



 『おやすみ火鳥ぃ。良い夢を。』


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