先代勇者とその仲間たち
拝啓。今世のお母様。お父様。
私、早乙女百合は。なんの因果か……前世の俺がいた世界に召喚されました。
しかも帰る方法がないそうです。
そりゃそうです。なにせ“相棒”も帰ることが出来なかったのですから。
前世の俺。と聞くと、なんのことだかちんぷんかんぷんでしょうが、私もまだこの状況を深く飲み込めていませんし、前世のことを話すとなるとかなり長くなってしまいます。
ネット小説が何個か書けるくらい。
ですのでこのことは後々、順を追ってご説明させて頂きたく……
「ふざけんなッ!」
俺が両親に心の手紙を送っていると、誰かが叫ぶように言った。
クラスの問題児、佐江健太である。
髪を後ろに流して赤く染めている、不良ってやつだ。
「俺たちを勝手に召喚とか意味わかんねぇことした上に、帰る方法はねぇだぁ…?冗談じゃねぇよッ!」
「そうよ!こんなの拉致監禁と同じじゃない!?」
「そうだそうだ!僕たちを帰せー!?」
佐江の声に呼応するように、クラスの皆が批判の声を上げる。
……気持ちはわかるが、ここは日本ほど治安の良い世界じゃない。上流階級に逆らおうとすれば、その家臣が黙っちゃいない。
「そこまでだ!」
そう声を上げたのは、腰まで伸ばした美しい銀髪を持つ、170センチ半ばの長身の女性騎士であった。
重厚な鎧を身に付け、右手には槍。左手には円形の大きな盾を持った、耳が長く尖った人で……は~~~???
ちょっと待て。なんでアイツがここにいんの???
「ソナタらの不満は尤もだろう。しかし。姫様への無礼はそこまでにしてもらおう。さもなくば……」
女性は右手の槍を佐江に突き付ける。
「っ!?」
「如何に勇者と言えど、少々強引な手段を取らせてもらうことになる」
「チィッ!卑怯だぞテメェ…。こっちが丸腰だからって…」
「え~…?」
あれは───ラウラか?……いや。にしてはおかしい。
アイツが本当に俺の知ってる“エルフ”のラウラなら、どちらかというとこちら側の味方のはずだ。そもそも勇者召喚の儀なんかに立ち会うはずがない。
ラウラは勇者召喚反対派だったからな。二度目ともなれば無理矢理にでも止めに掛かるだろう。
それにラウラは毛先が宝石のエメラルドのように綺麗なグラデーションがかかっている。対してあの娘は全て綺麗な銀髪だ。
ということは別人という訳で……
「おやめなさい“シルフィ”!勇者様たちは、私たちの勝手な都合で召喚してしまったのです。怒りや不満を抱いて当然です。こちらは謝罪しなければいけない立場なのですよ。それを武力で強いたげるなど、言語道断です!」
「も、申し訳ございません姫様!出すぎた真似を…」
「その言葉は、私にするべきではないでしょう?」
「……申し訳ございません。勇者の皆様。先ほどの無礼、どうかお許しください…」
うん。やっぱりそうだ。ただの他人の空似だったようだ。よくよく聞いたら声が違う。
ラウラの声はもっと凛としてて透き通った声だ。あと騎士の職業に就くような柄でもないし、あんな動きづらそうな鎧は絶対着ない。
それに俺がこっちで死んでからのことを考えると、年数的にそもそもラウラはまだ育休中で、きっとエルフの里にいるだろうしな。申し訳ないことに…。
エルフは寿命が長い分、成長がめっちゃ遅いし。確か150歳で成人だったかな?
……会いに行ったら、俺だって気付いてくれるだろうか…。
「誰が許すかよ!そもそも俺らは、無礼だなんだのの話以前のことをだな……」
「待つんだ佐江!」
佐江に待ったを掛けたのはクラスのリーダー的存在である、相馬亮太である。
男なら誰もが羨み、憎むほどに超イケメンの陽キャ代表みたいな奴なのだが、個人的に親近感が湧く名前をしているので、少しばかり羨ましくはあっても別に憎くはない。
前世の俺も、人のことを言えない立場な方だったと思うし…。
「佐江の言うことは正しいと思う。いきなりこんな所に連れて来られて、勇者とか魔王とか、理解が追い付かないことばかりだ。でも相手は一応の誠意を持って接してくれているんだ。帰る方法がわからない以上、まずは一度ちゃんと話し合った方が良いと思うんだ」
「……チッ!わぁったよ」
素行の悪い佐江だが、別にバカという訳ではない。
頭に血が昇り安いが、言われれば状況を改めて理解出来るくらいの頭はしている。
ここで下手に言い合いを続けても埒が明かない。
元の世界へ帰れないとわかったのならば、まずはこの世界のことを知ることから始めるべきだろう。
「あの……姫様。まずはこの世界について、詳しく聞かせて頂いてもよろしいですか?勇者や魔王の詳細は、その後にでも」
「かしこまりました」
相馬が比較的冷静なおかげで、これ以上余計な争いが生まれずに済みそうだ。
「この世界。アクアスは、先ほど少し触れたように、勇者様たちとは別世界。つまり、異世界ということになります。勇者様たちがいた世界と異なる点は幾つかございますが、その最たる例が『魔法』や『魔物』。そして獣人やエルフなどの『亜人』の存在でしょう」
「魔法に魔物……それに、亜人…」
チラッとシルフィと呼ばれていたエルフを見る相馬。
エルフっていうのは地球でも有名な存在だったからな。ヲタクじゃなくても知ってる人は多いだろう。
「勇者様たちの世界には、そういった物が存在しないことは先代勇者様から伝え聞いております。貴方様方にとって、それらは空想上の物であると」
俺もそれは聞いてたけど、実際に見聞きした時の衝撃はヤバかったけどな…。
この世界の魔法とは桁違いの魔法やスキルとか、いっぱいあったよ。先代勇者でもあそこまで化け物じみた能力は無かった。
地図を書き直す羽目になるであろう破壊力を持った魔法だったり、数十体のドラゴンを剣を一振りするだけで葬ったり…。
あっちの人たちの想像力マジやべぇ。
「この世界の人々は、その魔法を含むスキルを駆使して生活をしています。農家では農業スキル。冒険者であれば戦闘スキルなど、様々な能力を持った人ばかりです。……中にはごく稀に、スキルを取得出来ない方もおりますが。あとは皆様の世界にあった家電?という物が、こちらには存在しません。こちらの生活に慣れるまで大変な苦労をお掛けすると思いますが、何卒ご容赦ください…」
「なるほど…。わかりました。皆聞いたな!スマホなどの携帯機器がある人は、念のため電源を切っておくんだ。必要になる時が来るとは思えないけど、一つでも何かしら手段は残しておいた方が良いと思う」
相馬の言葉に従って、スマホをポケットに入れたままだった人たちは電源を切っていく。
俺も一応切っておくか。精々がこっちの世界の写真を撮るくらいしか役立たないだろうし。
あとは売り払うとかか。こっちには無い技術だし、魔道具屋でそれなりに高値で売れるだろう。
「ここまではよろしいでしょうか?」
「はい。なんとなくですが、わかりました。皆は特に聞きたいこととか無いか?」
「……亜人はどれくらいの種類がいるのでござるか?」
少しばかりヲタクの血が騒いでしまったのだろうか?
皆からヲタやヲタくんと呼ばれている、グルグル眼鏡が特徴的な田中真央。
彼はそこそこコミュ力があるタイプのヲタクで、たまに誰か彼かに漫画アニメの布教をしているのを見掛ける。
それで俺もそういうヲタク趣味を持ち始めた口だ。
たぶんヲタのせいと言うべきか、この場合はおかげと言うべきか。クラスの半分くらいは異世界系というジャンルを知ってるはずだ。
「そうですね…。たくさん、としか…。この世界にはシルフィのようなエルフ。先代勇者様のパーティーにもいらした鬼族や蟲人など、多種多様ですからね。具体的な種類となりますと、専門家の方でないと把握してないと思います」
「チュウジン…?なんでござるかそれは?」
「蟲人というのは、虫の亜人でございます。エルフよりも自然を好む為、あまり人里には姿を現しませんが、非常に友好的な種族でございます」
「そうそ……おっと…」
ヤベッ。蟲人の話になって思わずテンションが上がってしまった。慌てて自分の口を塞いだ。
「早乙女くん?どうしたんだい」
「え?いや~、その……虫の亜人って聞いて、ちょっと驚いたというか…」
「「「あ~…」」」
俺の言葉にクラスの皆が、「わかる」とでも言いたげな声を上げた。あっちの世界には虫嫌いの人が多いせいか、蟲人なんて設定のあるキャラいなかったしな。
あっても宇宙で進化したゴキブリ退治のやつとか…。
俺の誤魔化しはなんとか効いたようだ。
……それとごめん。蟲人の皆……出会ったらいっぱい“褒める”から許してくれ…。
「? とりあえず、他に質問はございますか?」
「……………」
「……無いようですね。では続いて、勇者と魔王について説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
勇者と魔王。
と言っても俺は元々知ってるし、説明を聞いた感じ。恐らく地球のRPGでよく見聞きする物とあまり変わらない。
こっちの世界を我が物せんとする魔王を打ち倒す為に、勇者がなんか色々活躍する。
その色々がマジで冗談にならんくらい楽し……じゃなかった。大変なのだが、姫様の説明を超簡単に纏めるとそんな感じだ。
「なんだかゲームみたいな話だな…」
「魔法とか魔物とか聞くと、そう思うよな…」
「……でもさ。結局のところ戦争でしょ?ゲームみたいに甘くないって…」
「セーブ機能なんてある訳ないだろうしな…」
ふむ。やはり同じ世界の人間だからか、先代勇者のアイツと感想は似てるな。
先に進むのはもっと強くなってからで良い?とか聞いて来るくらいには慎重だったし、意外と皆現実的だな。
こういうのってあっちの創作物みたいに、ゲームみたいだからって調子に乗る奴が一人くらいはいるもんなのかと思ってた。
「……………あ」
そこでふと、創作物云々で思い出した。
……そういえば、こっちの世界は俺が死んでから何年経ってるんだ!?
さっきはつい自分の感覚で年数を数えて、ラウラは育休中だろう~とか色々勝手に思い込んでしまったけど、こういう『同じ世界で二度目の人生を歩む』系は、総じて一度目の人生から何百年とか経っているのがお決まりじゃねぇかっ!
ちょうど今は勇者の話になってるし、先代勇者が何年前の人物なのか聞いてもいいよな?
「今の話で、何か質問はありますか?」
「は、はいっ!」
思わず元気よく手を上げてしまった。
「なんでしょうか?」
「えっと……先代勇者って、何年くらい前の人なんですか?あと、名前とかもちょっと気になります」
さっきから先代勇者が俺の知ってる奴だと思い込んでたけど、もしかしたらこっちも俺の思い違いかもしれない。
いやまぁ、鬼族とか蟲人の話が出た時点でたぶんアイツだと思うんだけどさ?
「はい。先代勇者様のお名前は、リョウタロウ・イズミ。約500年前の勇者様でございます」
ほっ。よかったアイツだった……えっ?
「………………ご、500…?」
「はい。500年前でございます」
……………。
「えーーーーーー!?!?!?」
「きゃっ!?な、なによもう!急に叫ばないでよ早乙女!」
あまりの経過年数に、思わず驚きの声を上げてしまった。
「あ、ああすまない。えと、え~っと……そう!家電だのなんだのって話が出てたから、てっきり意外と最近の勇者なのかと思ってさ。ほら!名前的に日本人だし、500年前つったら戦国時代とかその辺だろ?時間の辻褄が合わないっていうかさ…」
「別にそんなことどうでもいいでしょ!うちらの今の状況わかってんの?」
「ご、ごめんって…。俺らの世界とは、時間の流れがそんなに違うんだな~って、マジでビックリしちゃって…」
「……まぁ。確かにそうだけどさ。にしても驚きすぎ」
な、なんとか誤魔化せたか?
ふぅ~…。まさかこっちじゃそんなに時間が経ってただなんて…。
そうなるとラウラは670~690歳くらいか?エルフの寿命は確か1000年前後。病気とかに侵されてない限りは、今もそこそこ元気にやってるくらいか。
……………え?待って待って?ということは、そこにいるラウラそっくりのシルフィってエルフはもしかして…。
「他には何かありますでしょうか?」
「え?え~と……じゃ、じゃあ。その勇者と仲間のことをもう少し詳しく聞いても?ここまで聞いたんだし、どうせならそこまで知っておきたい」
「はい。いいですよ。私も母から伝え聞いただけなのですが。まず、勇者リョウタロウ様。彼は神の武具と揶揄される神器を、たった一人で多数扱える非凡な戦士でした。その中でも特に、我が国の宝剣でもある聖剣エクスカリバーは非常に優れており、広範囲の敵の殲滅を得意とし、魔王の首まで断ったとのことです。彼がいなければ、今頃人類は魔王によって世界は支配されていたことでしょう…」
ふむ。なるほど。特にリョウタロウに関して情報の齟齬はそんなに無さそうだ。
実際。集団戦ではアイツのエクスカリバーにはめちゃくちゃ助けられたし、魔王戦でも大いに貢献した。
首を断ったのは別の剣だけど、それは聖剣でもなんでもないし、どこかでその剣のことは忘れ去られてしまったのだろう。
「ちなみに。勇者リョウタロウ様は、私のご先祖様であらせられます」
知ってた…。
だってなんかアイツの嫁さんに似てるな~って思ってたもん。
王族なんて政略結婚が常なのに、当時の王女様と普通に恋愛して結婚なんてした珍しい事例だったのをよく覚えてる。
……さっき500年前の話ってのを聞く前は、曾孫か玄孫辺りだと思ってたけど。
それ以上はなんて言うんだ?
ちなみにリョウタロウが勇者であったことと、その王女様は第三王女だったから意外とすんなり結婚出来たのであって、王位継承権に大きく関われる第一王女だった場合、色々と面倒臭い政に巻き込まれてたに違いない。本人にそんな意思は全くなかったけど。
「次にエルフのラウラ様。この方はエルフ流・盾槍術の第一人者で、魔法特化型であるエルフに近接戦の心得を伝えたとされています。というのも、彼女はエルフであるにも関わらず、魔法を使うことが出来なかったそうなのです。そこで彼女が編み出したのが盾槍術。大きな盾で味方を守り、長槍で敵を貫き、凪払うという物理面では非力なエルフが普通は出来ないことをやってのけ、勇者パーティーを勝利に導いたと聞いております」
いや。別に魔法自体が使えなかった訳じゃなかったんだが…。ただエルフ独自の魔法が使えなかっただけで。
魔力が潤沢なエルフの利点を活かして、槍と盾をぶんまわす時は身体強化魔法を常時発動してたしな。姫様が言った通り、ラウラもエルフの例に漏れず非力だったし。
しかも彼女は一般的なエルフよりもかなり魔力が多かったからな。長期戦も普通に得意だった。てかアイツと戦う時は長期戦に持ち込まれる方が嫌だった…。
……あと。ラウラが守りに入ったことなんてあんまり無い。あの盾は特注の“仕込み盾”だったし、防御用ではなかった。
「それとこちらのシルフィですが、なんとそのラウラ様の子孫……孫に当たるのです」
「……………ああ。そ、そうなんですかぁ…。……そっかぁ~。やっぱりか…」
最後はボソッと呟くように言う。
う、うーんそれにしても。なんかラウラのことが割りと間違って伝わってるな?もう虹の橋を渡っちゃった後なんだろうか…。
まぁあまり自分語りするような奴じゃないし、生きていようともうこの世を去っていようと、色々漏れていても仕方ないか。
それにしても孫か~。すげぇ近い血縁だな。
でもエルフは通常、300~400歳辺りで子孫を残すからな。大体そんなもんか。
当時180歳くらいの時に子どもを作ったラウラが例外すぎるんだよな…。
「次に鬼族のギルガ様。一流の鍛冶師であり、魔道具師だったそうです。彼は戦闘スキルで秀でた物はありませんでしたが、戦場では自身で作成した大量の武具と魔道具を駆使して戦ったそうです。その武具と魔道具で、ギルガ様は当時の魔王軍最高幹部……四天王の中で最強とまで謳われていた、竜王・グランを単独で撃破したと言われています。さらには頭もキレた為、一部の間では知略のギルガとも呼ばれてたそうです。今この世に存在する神器のほとんどは、彼の作品だと聞き及んでいます」
お?ギルガのことはちゃんと伝わってるんだな。
……知略の~以外は…。
彼はとにかく直感が鋭く、別に知略で戦っていた訳ではない。ただその場のノリと勢いと得意の直感で、その時の状況に合わせて自身の作品を振るっていたんだ。
その戦い方が四天王最強と言われていたグランと相性が良く、単独撃破が出来たという訳だ。
「続いて。蟲人のサソりん様ですね。」
「さ、サソりん…?」
誰かが思わずと言った感じで、サソりんの名前を復唱した。
「はい。サソりん様です。蟲人の方々のお名前は少々変わっておられるのですよ」
そうなんだよな~。まぁそれがまた可愛いんだがな!
……おっと。本人がいないのについまた感情が爆発しかけた…。
「サソりん様は蠍の蟲人でして、毒のスペシャリストだったそうです。彼女は自身の魔力で生成した毒で敵の動きを鈍らせ、両手の鋏で一気に仕留める戦法を得意としていたそうです。ただ、寡黙で謎多き御方だったようで、あとは“ある御方の第一夫人”であったという以外は伝わっていないのです。魔王討伐にも当然大きく貢献したはずなのですが、具体的な記録がどこにも残っておらず…」
「え……」
そんな……サソりんっ!君の活躍がほとんど伝わってないなんて!?
他の奴らのことは間違いはありつつも、そこそこちゃんと伝わっているのに!?あんまりだよこんなの!
蟲人は褒められるのが生き甲斐みたいなとこがあるのに!不条理だっ!不公平だッ!
(……あ。でも褒めることをねだって来ても、自分から「私凄いでしょ?ふふん」なんて言うことは無かったわあの娘…。くっ!それでもあんな愛い娘が寡黙で謎が多い女性で終わるなんて、やっぱり可哀想だわ!?何をやってるのよ子孫たちは!?)
※ここまでオカマ口調。
「……あの。大丈夫ですか?顔色が少々優れないようですが?」
「え?あ、ああ大丈夫大丈夫…。なかなかエグい戦い方をする人なんだな~って思っただけだから」
「ふふっ。そうですね。その毒でもしかしたら、味方からも恐れられてたかもしれないですね」
あ。それはご明察。
臨時でパーティー組んだ人たちは大抵ビビってた。だって毒だもん。
自分たちに被害が出ないか、警戒するのは仕方ないだろう。
「最後に……先代勇者様たちを語る上では、絶対に外せない御方でございます」
「へ?」
最後?
えっと……リョウタロウ、ラウラ、ギルガ、サソりんって来たから……あ。確かに最後だな。
いやでも、そんな仰々しく紹介するほどの奴でも…。
「その御方は勇者リョウタロウ様の右腕、相棒と言われておりました。剣の腕だけで見れば勇者様を上回り、勇者様に剣を教えた御方でもあり……」
え?いやあの、“剣の腕だけ”だったらあっちの方が上だったけど?
戦い方は教えたことあったけど、剣は別の人が教えてたよ?
「世間からは“闘神”、“自由人”と揶揄された。世界最強の英雄……」
は~~~???
ちょっと待てちょっと待て!?なになになになにその伝わり方!?
同業者たちからは確かに自由人とは言われてたけど、トウシン?とか世界最強とか、そんな仰々しい呼ばれ方されたこと無いって!
「勇者リョウタロウ様に並び、もう一人の勇者とまで言われていたそうです」
「……………(呆然)」
「その御方のお名前は───ノヴァ様。闘いの神に愛された人間、もしくはその化身とまで呼ばれた彼は、闘神ノヴァと人々に言い伝えられて来ました。彼こそ英雄の中の英雄……」
「……………も……」
もうやめてーーー!?やめてくれーーー!!!
死ねるうぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!
「そんな彼を称え、リョウタロウ様自ら。ノヴァ様が亡くなった後、彼の銅像まで作られる程でした。今では我が国のシンボルでございます。これはリョウタロウ様から先祖代々伝えられてきた、伝聞でございます」
「……………な……」
なにやってんだアイツーーーッ!?!?!?
───もし俺の心情を覗いている奴がいたならば、もうとっくに気付いていることだろう。
そう。闘神だとか、世界最強の英雄だとか、そんな仰々しく呼ばれている“ノヴァ”という男は……
(“前世の俺”を拡張して伝え過ぎだッ!あんのバカ野郎ーーー!?!?!?)
他でもない。俺である…。
「ちなみに。ノヴァ様は第一夫人にサソりん様。第二夫人にラウラ様を迎えておりますので、シルフィはノヴァ様の子孫でもありますね」
あ。それは全部本当です。ありがとうございました…。
そのシルフィって娘は前世の俺の孫です…。