ただいま?異世界
「や、やったぞ!成功したぞー!?」
「勇者を……召喚出来たんだーッ!」
───ざわざわ…。
学校の教室にて。今日も今日とて、魔物も魔族もいない。平和な世界でのんびり幸せに過ごそうかと思っていたこの頃。
ワシ……じゃなかった。俺、早乙女百合は。
とてつもない既視感を覚える出来事に巻き込まれ、気付けば石床の上に倒れていた。
……椅子が無いなったせいでケツから落ちたんだが…?痛い…。
痛みと驚きでジジイだった頃の一人称が出ちまったよ。もう少し元老人を労ってくれよ世界…。
「え?なに?勇者?ど、どういうこと!?誰よ貴方たち!」
「なんなのよこれ…。何かのドッキリ?」
「これは一体…。ッ!?み、皆っ!まずは落ち着くんだ!?この人たち、腰に剣を差してる!」
俺のクラスのリーダー的存在である男子の一言で、さらに緊張が走った。
重厚な鎧に武骨な剣を携えた騎士の様な人たちが、俺を含めたクラスメイト全員を囲んでいた。
数にしておよそ2、30人ほど。
なんだか魔族の拠点に乗り込んだ時を思い出すな~。あの時の方が数も質も上だったけど。
「おいおいマジじゃねぇか…。あれ本物かよ」
「完全に銃刀法違反じゃん。あんなヤバい連中が日本にいたの?」
「……いや。そもそもここは日本なのでござろうか?」
グルグル丸眼鏡を掛けた男子の言葉に、一瞬だけクラスが静まる。
「ヲタくん?それは一体、どういう……」
───カンッ!
「静まれ!姫の御前であるぞ」
豪華な装飾がされている杖を持った老人が、その杖で石床を突く。
これ以上下手に騒ぐべきではないと判断したのか、誰も何も喋らなくなる。
そして少し間を開けてから、老人が言っていた姫と思しき人物が前に出て来て……ん?
「突然のことで混乱している中、大変申し訳ありません。ですがどうか……私たちの願いを聞いて頂けないでしょうか!?」
「ね、願い…?」
恐らくこの時。クラスのほとんどがこの状況に困惑してる中、俺だけ別のことに困惑していたと思う。
だってあの姫様。俺のよく知ってる奴にあまりにもそっくりで…。
「どうか……この世界を救ってください!」
腰まで伸びたプラチナブロンドの髪を持ったその姫様は、俺たちにそう言った。
──────────
まず。俺たちの身に起きたことを整理しよう。
まぁ簡単にまとめると、異世界召喚ってやつだ。しかもなんの因果か、俺のクラスがその対象になってしまった。
漫画やアニメを観た時は驚いたが、あちらではただの作り物。娯楽の一つであるとわかってからは、『こっちの人たちの想像力すげぇな…』と感心したものだ。
「今この世界は、魔王の脅威に晒されているのですっ!」
そして姫様の説明も簡単に纏めるとこうだ。
魔王がこの世界を支配しようとしている。だからその対抗手段として、勇者召喚の儀を行ったということらしい。
要は姫様は俺たちに、戦争の道具になれって言ってる様なものだな。
俺もよく知ってる儀式だし、あっちでもさんざんヲタおすすめの創作物を観たり呼んだりもしてたからか、こんな状況でも平静は保っていられるけど…。
それでもこれは……召喚された側って思った以上に……
「な、なによそれ…」
「ふざけんなよ!?なんの冗談だよそれ!」
「そうだよ!?俺たちは戦争なんて一度も経験したことねぇんだぞ!」
「元の世界に帰してよー!」
「お母さん……お姉ちゃん…」
……思った以上に、堪ったもんじゃないんだな…。
『うっひょー!!!これ異世界召喚ってやつ!?え?魔王を倒してくれ?……うーん…。俺、戦いの経験とか無いんすけど…。それでもいいって?……わかりました!どうせ俺、あと少しで熊に殺されるところでしたし。救ってくれた恩返しってことで、ドーンと任してください!……悠長にレベル上げとかしてからでも良いんだったら…』
“アイツ”が例外なだけだったか…。
ずっと平和な世界で暮らしてた人間からしてみれば、クラスの皆の反応が自然だよな。
てかさっきからずっと思ってたけど、この世界って…。
「……本当に、申し訳ありません…。我々には、皆様を元の世界へ帰す手段はありません」
「は?それってまさか、どっちにしろ私たちは……」
「はい。皆様にはこの世界、アクアスに留まって頂くことになります…」
やっぱりそうだ…。この世界、アクアスは。
───前世の俺がいた世界じゃねぇか…。
「……ただいまって言った方が良いのかな…」
誰にも聞こえない声で、ボソッと呟いた。