三大魔導師達の密談
「スピカにどれだけ驚かされるんじゃろな、わしらは」
白いふさふさの髭をなでながらルドルフが呟く。
「まさか、本当に影の精霊がいたとは」
トルッドはぽっちゃりしたお腹をなでながらため息を吐く。
「女神の使者と呼ばれる虹色の蝶まで従えて」
背の高いカルアは髪を撫でながら遠い目をして言った。
今日彼らはスピカと会ったことを反芻するように噛み締めていた。
まず事の初めはスピカの父で魔法局の部下であった辺境伯から緊急の魔法書簡が送られて来たことだった。
その内容を一目見て腰を抜かした。
スピカが影の精霊と契約を交わしたかもしれないというまさかの一文。
3人は仕事も何も放り出し、取るものも取らずに学園に飛んだ。
影の精霊なんて本当にいるのだろうか?
しかし、伝説の竜までいるのだから実在してもおかしくはない。
はたして・・・
「どうしたんじゃ!スピカ!」
あせる3人に対してスピカはどうしたのか?と首を傾げる。
すぐに結界を張り、スピカに駆け寄る。
「スピカの尊い光が・・・」
「何が起きたんじゃ!」
「体調は大丈夫なのか?」
焦る三大魔導師は、スピカの背後のレグルスに詰め寄る。
「レグルス!おまえが付いておきながらスピカがなぜ?!」
「お三方落ち着いてください。スピカ、キラを魔導師様たちに見せてあげてくれるか?」
苦笑いでスピカに頼むレグルス。
スピカはキョトンとした顔をしたあと、何ともないことのように「え?ええ。ここにいるわよ?!キラ」と呼び掛けた。
スピカの耳たぶにイヤリングの様にぶら下がっていた小さな黒いコウモリが、スピカの声に応じて羽を広げる。
ふわりと耳元から飛んで離れた瞬間、いつもの柔らかな温かい真珠のような光がスピカを包んだ。
「この子がキラよ」
スピカが人差し指を出すとそこにぶら下がるコウモリ。
すると、またスピカの光が消えた。
「ど、どうなってるんじゃ。いったい」
キラと呼ばれる小さなコウモリがスピカに触れると光は消えて、離れると光は現れる。
「こ、この精霊はスピカと契約しても尚黒いだと?」
「スピカの周りの守護精霊達も光を消すだと?」
「これじゃまるで古の影の精霊ではないか!」
「ええっと、おじいちゃま達?」
興奮する三大魔導師達に困惑するスピカ。
「い、いや。その、珍しい精霊なので興奮してしまったわい」
「スピカを驚かせてすまんかったの」
口々に言い訳を口にしてスピカの不安を取り除こうとしたその時、再びキラがスピカから飛び立ちスピカの周りを飛び回る。
「ひ、ひー!」
悲鳴をあげたのは誰だったか。
三人で跳び跳ねてお互いの口を押さえ込む。
「おじいちゃま達?」
三人で雁字搦めにお互いの口を塞ぎながら極限まで目を見開く先は・・・。
「ス、スピカのまわりの七色の蝶々は・・・」
「え?!」
言われて初めて気がついたというように、スピカが自分の頭上を見上げる。
「え?あら。赤、橙、黄色、紫、青、緑、黄緑・・・わぁ、さっきの蝶々達、付いてきちゃってたのね」
「あわわわわ」
「女神の使者」
「虹色の蝶々」
三大魔導師は、お互い支え合いながらなんとか立っていた。
「そ、それらと契約したのか?」
「えぇ?!契約ってそんなに簡単じゃないわよね?」
スピカの問いに首がとれそうなほど、ブンブン頷く三人。
ヒラヒラ舞う蝶々が、まるで色とりどりのリボンのようにスピカの髪に止まり、キラがスピカの耳元に戻れば鮮やかな七色の光りもスピカの真珠のような光りも消えた。
「も、もう賢者の森に書簡を送るしかないの」
「こんなの、あれじゃないか」
「けれど、散々皆で違うと確認したではないか」
三人を不安そうな顔で見るレグルスとスピカに気付き、取り繕うように笑顔を浮かべる。
「あはは、スピカ守護精霊が増えて良かったの」
「うんうん、かわいすぎるんじゃ」
「それじゃあの!」
ばっと結界を解き、三大魔導師達は逃げるようにその場を後にしたのだった。
「スピカは、本当に『女神の娘』では無いんだよな」
「それはスピカが生まれた時に散々話したではないか」
「賢者のリオンちゃんが守護者が先触れを出さないから違うと」
たった今、賢者の森から届いた魔法書簡を三人で頭を付き合わせるように見つめる。
【『女神の娘』は、生まれ落ちると共にどこからともなく守護者からの手紙が届けられる。女神の娘である、迎えに行くまで大切に育てるようにと。歴史書を紐解いても、今まで一人の例外もなく生まれ落ちると同時に守護者を名乗る手紙は届けられている。私達はスピカを一目見てその輝きに『女神の娘』に違いないと思ったけれど、一晩立っても、三日三晩待っても、7日待っても10日が過ぎても手紙は届かなかった。だから違うと話し合ったのを忘れたの?】
「そうは言っても、女神の使者と呼ばれる虹色の蝶々まで現れてるんじゃぞ」
「影の精霊様がスピカと共にいてくれれば、あの子の非凡さは隠されるじゃろうが・・・」
「しかし本当に『女神の娘』ならば・・・スピカの命は・・・いや、これ以上憶測で物を言うべきではないの」
三人は顔を見合わせて切な気に溜め息を吐くのだった。




