黒く塗りつぶされるものは
「レグルス、君の末の妹はずいぶんと恥ずかしがり屋なんだね。それとも僕は彼女を驚かせて嫌われてしまったのかな」
「いえ。スピカはその・・・」
レグルスお兄様が困ったように言い淀みレオンにしがみついて隠れている私を見て駆け寄って頭を抱き寄せた。
「すみません、スピカの具合が良くないようなので案内は他の者に任せます。悪いがウィル、頼めるかい?」
お兄様に包まれるように抱かれて、私はしがみつくように震えながら必死に抱きついた。
「それは仕方がないね。せっかく会えたのだから仲良くなれるように少しは話したかったけれど。僕は聖女ミアプラの方に戻らせてもらうよ」
少しも残念そうには聞こえないさらりとした声で彼は去っていく。
ガタガタと勝手に震える体のせいで神官達の気配が無くなっても私はレグルスお兄様から離れることが出来なかった。
そのせいで私は小さい子供のようにレグルスお兄様に抱き抱えられる。
「スピカ、大丈夫だよ。ゆっくり息を吐いてゆっくりと吸うんだ」
言われて自分が息をつめていた事に気付く。
お兄様の言う通りに息を吐き吸う内に体の震えは止まって行った。
落ち着いてくると冷静になり「お兄様。下におろして。皆の前で子供みたいで恥ずかしいわ」と訴える。
レグルスお兄様は私を降ろして、そっと顔を覗き込んできた。
「あの人は・・アルヴィン神官は・・・」
「知らないわ」
私は再び不安に苛まれそうになり顔をしかめる。
「・・・そうか。ならいいんだ。ケイレブ、少しいいか?」
お兄様は私をレオンに任せてケイレブ先輩と少し離れて話をしていた。
「あの方って、神の子アルヴィン様よね」
アメリアが声を弾ませて興奮したように話し出した。
「神の子?」
レオンが訝しげに問う。
「アルヴィン様の肩にいたのは貴重な精霊獣よ。使い魔じゃないのよ。だから神官様の中でもアルヴィン様は特別なの」
うっとりと語るアメリアは敬虔な信者で家族でよく神殿に詣でるらしい。
そうね。あの鳥は精霊獣だった。
けれども、あの人は神の子なんかじゃないわ。
私はあの人が怖い・・・いいえ、そうじゃない。
あの人を目にして震える程の怒りを感じた。
今までに感じたことの無い怒りを。
私はあの人の事が、きらい。
鳥肌が立つほどの嫌悪感。
思い出してはダメだと頭のどこかで警鐘がなる。
暗く黒く塗り潰されるのはなに?
その先を見ようとする気持ちと目をそらしたい気持ちがせめぎ合う。
「スピカ!」
はっとして顔を上げるとレオンが眉を寄せて私を見ていた。
「大丈夫か?」
「え、あ、うん」
私の返答にホッと息を吐き出すレオン。
足元のプロキオンが私に身を寄せてくるので、しゃがみこんで抱き上げる。
ポケットから、ラベンダーちゃんの香りが漂って私は深呼吸をした。
今は何も見ないにしよう。
今はまだ・・・。
キラが私の耳元から飛び立ち、顔の周りをパタパタと飛ぶ。
そうして、再び私の耳元へとぶら下がる。
「スピカ!」
お兄様を振り向くと、ケイレブ先輩と共に駆け寄って来た。
「その・・・耳元の漆黒のそれは・・・」
「あ!お兄様、お願い。この子はキラよ。私また名付けてしまったみたいなの。お父様に飼っても良いか聞いて欲しいわ」
キラが再び飛び立って私の周りを飛んだり、耳たぶにぶらさがったりを繰り返す度にレグルスお兄様とケイレブ先輩は、顔を見合わせたり頷き合ったりしていた。
「お願いね」
私が念を押す様に頼めばお兄様はその場で魔法書簡を飛ばしてくれたのだった。




