洞窟の不思議な光
洞窟の中に入るとポツンポツンと水の落ちる音が響いていた。
どこまでこの洞窟は伸びているのかしら。
ヒカリゴケはどの辺りにあるの?
奥からは水の流れる音もする。話に聞く地底湖があるのかしら?
ワクワクが止まらない私は、レオンの手をぎゅっと握りしめてしまう。
レオンもそうなのか、私の手を握り返してきた。
何だか最近のレオンとは上手く仲良くやっていけそうな気がする。
私をちび扱いしなくなったし。
たまにすごく優しい感じで私を見るもの。
そうするとノアとやっぱり似てるわって思うの。
湿り気のある薄暗い洞窟内を歩いて
いると、シャーロットが「なんだか黒い羽の魔王がその辺りから出てきそうね」と楽しげに声をあげた。
その瞬間、レオンがビクリとして私は少し笑いそうになってしまう。
「ゲオ・バルク先生の『後ろの正面』読んだことあります?」
シャーロットの声が弾んでいる。
「民俗学者のゲオ・バルク先生の本当にあった恐い伝承シリーズのNo.4!」
カレンが振り向いて話に飛びついてくる。
「これはある地方で本当にあった話だと伝わっているって語り口から始まる本恐シリーズよね!ゾクゾクするのがヤミツキで『後ろの正面』勿論私も読んだわ!」
「ゲオ・バルク先生は実際に各地を訪れて現地で昔からある伝承やら不思議な話、怖い話を聞き集めているらしいね」
「まぁ!ウィル様もご存知?それなら、洞窟の魔王の話わかるでしょう?」
「漆黒の羽を持つ、封じられた魔王の話だね」
「きっとこのような洞窟なのでしょうね」
レオンが私の手を握る力が強くなる。
「へー。女子はオカルトなんて怖がって読まないかと思ってた」
ケレイブ先輩がそう言うけど、怖がるのはレオンよね。
「最新刊の『闇森』も相変わらず恐くて面白かったわ」
「特に森を彷徨う白い光って言うのが幻想的かつ恐ろしかったわ」
あら。
なんだか、白い森の精霊達のことのようじゃないの。
一瞬懐かしさにかられてしまう。
カミーユの森は一部の人に緑の魔境と言われてるらしいけど素敵な森よ。
闇森も穏やかな森なのかもしれないわ。
そろそろ恐い話を終わらせないとレオンが可哀想かしら。
ここらで一つ盛大に怖がって、この話を終わりにしてもらわなければ。
「幻想的な話なら『女神の落とし子』の話が私は好き。うっすらと光輝く少女。見てみたいわ」
「えーっ!恐いわ!」
私が声をあげるとケレイブ先輩がバッとこちらを振り向いて眉間に皺を寄せながら目を細めてこちらを見ていた。
あら。そんな目をさせる程の声をあげてしまったかしら。
慌てて後ろを振り向くとウィル様も信じられないものを見るような目で私を見ている。
えっ、どうしよう。あまりにもわざとらしい感じだったかしら。
「うふふ。スピカは怖がりだったのね。可愛らしいわ」
カレンが優しく笑って私を見てくれたので少しホッとする。
「スピカが恐いなら、もうこの話は終わりにしましょう」
シャーロットも笑って私の欲しい言葉をくれた。
何とか話をおさめられたわ。
私はどや顔でレオンを見上げる。
本当はちっとも恐くないけどあなたのために怖がってあげたのよ。
うふふ、あなたが怖がりということは秘密にしてあげる。
ニヤニヤとする私をレオンはなんとも言えない顔で見つめ返した。
「この先かなり滑るから気をつけて」
ケレイブ先輩の注意の言葉と共に「きゃ!」と言う声が前後から上がった。
体制を崩したカレンはケレイブ先輩に掴まり支えられ、後ろでは仰け反ったシャーロットがウィル様に腰を支えられていた。
私はというと森の中もこのぐらい湿っていたりぬかるんだりしていたから全然平気。
「ご、ごめんなさいー」
「キャ!申し訳無いですわ!」
カレンやシャーロットの恥ずかしそうな声にケレイブ先輩やウィル様は「気にしないで」
「ゆっくり行こうか」
と紳士的に対応していた。
あまりに二人が頼りな気なので、ぴったりとくっつくように支えられて歩くことにしたようだ。
それを見てレオンが私を引き寄せようとしたけれど「うふふ。全然大丈夫よ」と断る。
レオンは先輩達のように紳士的な振る舞いをしたかったのか拗ねたような顔をした。
ポトポトと岩盤から水が染み出して落ちている。
横に天然の溝ができていてそこをチョロチョロと水が流れて行く。
空気も冷たく感じ始めた時前方にうっすらとした蛍光の緑色の光がまばらに見えた。
「この先地底湖があって足を滑らせると危険だから、ここから見学するぞ。じゃ、火を消そうか」
魔法の火を消し、レオンの松明の火までも手を振って簡単に消した。
真っ暗になった洞窟内でそこかしこに蛍光の緑色の光が見えた。
「わぁー!!!」
思わず歓声をあげてしまう。
洞窟の床や天井や壁のあちらこちらにある無数の光。
なんて美しくて幻想的なのかしら。
夢の中にいるみたい。
こんなに素敵な景色を見られるなんて!
周囲を見回していたら岩壁の一部が虹色にキラリと光った気がした。
黒々とした岩が染みだしている水に濡れて光って見えるのかしら。
そーっと手を伸ばして触れてみる。
え?うそ。温かいわ。
私が驚いていると、ケレイブ先輩やウィル様の焦った声がした。
「スピカ嬢?!」
「どこへ行った?!」
二人は火魔法で周囲を照らす。
キョトンとした顔の私を見て二人が息を吐き出す。
「一瞬見えなくなったから」
まぁ、あのうっすらとした蛍光の光しか無いのだから見えないのは当たり前だと思うけれど。
逆にそれまで私の姿が見えてたということに驚く。
二人が再び火魔法を消すと、先程の幻想的な景色がまたやってくる。
そうすると先程触っていた岩がやっぱり黒いのに虹色に光って見えた。
慌てて離してしまったけれど先程の温もりを確認したくて、もう一度そーっと手を伸ばす。
やっぱり温かいわ!
流れ落ちる岩清水は冷たいのに、ここの部分は温かい。
「スピカ嬢!」
ケレイブ先輩とウィル様の焦った声にビクリとして再び明るく照らされた洞窟内で二人の顔を見る。
ケレイブ先輩とウィル様はお互いに目を見交わせ「今は光っている様だが」と頷きあった。
ヒカリゴケはずっと光ってると思うのだけれど。
本当はもっとヒカリゴケを見ていたかったのに私達は変に焦った二人に急かされ元の道を戻って行った。




