入学式
雲一つ無い澄み渡った青空の下、私達は学院に足を踏み入れた。
入学式の来賓でやって来た三大魔導師のおじいちゃま達。いつもの如く私を褒め回したけれど、ノアのことを抱き締めて入学おめでとうと口々に述べたので、皆の注目はノアに刺さっていた。
ノアの魔力が無くなったことを嘆いていたおじいちゃま達は、ノアが賢者候補として入学したことを心から喜んでくれた。
前回の時は私にばかり祝福の言葉をかけていたから、皆の視線が痛かったのだけど。今回はノアのおかげで悪目立ちせずに助かったわ。
ノアはおじいちゃま達の熱烈歓迎を受けた上に百年以上ぶりの賢者候補生であり(賢者のおばば様は一体何才なのかしら)肩には真っ白い森の精霊リズが乗っていたのだから学院中の注目を浴びたと言っても過言では無い。
リズがノアの肩にいるのは、ノアが毎日欠かさずリズに月光を浴びせた木の実をあげ続けた成果とも言えるし、私のお願いをリズが良く聞いて守っているとも言える。
時々私の肩にもリズは登ってくる事があるけれど、その度にフサフサの毛を優しく撫でると満足したようにノアの肩へと帰っていくのが可愛いらしい。
リズはノアの使い魔として皆に認識されたと思う。
体験入学でプロキオンを見ている皆は、リズのことも受け入れた様だった。
入学式では聖女のお言葉という式辞も加わってミアプラお姉様が壇上で入学を寿祝ぐ言葉を述べられた。
勿論前回には無かった事だけれど、ミアプラお姉様は以前よりも美しさや清らかさが増した様に思える。
あまりの美しさに新入生達はざわめき、チラチラと私と見比べる人もいたけれど気にしないようにプロキオンを撫でながら背を伸ばす。
いちいち比べられて傷つくよりも、私は前を向いて進むのだから。
ノアが気遣う様に私を見たけれど、私は微笑んで見つめ返した。
軽く目をみはったノアはその後フッと優しく笑った。
たったそれだけのことなのに私は嬉しくて口元に笑みを浮かべたまま二度目の入学式を終えたのだった。
普通クラスの担任はやっぱりアンナ先生だった。
先生は私と目が合うと笑って、プロキオンにも久しぶりねと声をかけてくれた。
前回と違うのはこの普通クラスにノアがいる事。
私は懐かしさと嬉しさが混ぜこぜになって、胸がいっぱいになってしまう。
ポケットからふんわりとラベンダーの香りがして。
そうね。今回はあなた達もいてくれる。
ラベンダーちゃんをそっと覗いて、足元のプロキオンを撫で、ノアの肩からこちらを見つめるリズを見つめ返す。
なんて幸せな学院生活かしら。
もう一つ前回と違うのは・・・。
ふっと廊下を見るとレグルスお兄様と目があった。
お兄様は優しく微笑んでこちらを見ていた。
なんと今年から学園の安全を担う為、魔術省から数人が当番制で派遣される事になったそうなのだ。
何故騎士ではないのか?と疑問に思ったけれど、どうやら三大魔道士のおじいちゃま達が魔術省をゴリ押ししたらしい。
この学院には聖女も賢者候補生もいるのだから、国として警護を強めることにしたのだそうだ。
レグルスお兄様の魔術省の制服姿は妹の私から見ても惚れ惚れしてしまう程の格好良さだ。
白いワイシャツに黒のベスト黒のズボン。その上に羽織るのは、やはり黒の光沢のあるマントで。胸元に金糸の刺繍で魔術省のマークが縫われているのがシンプルなのに品があって素敵。
ノアが着たらさぞ似合ったでしょうに。
ため息と共にノアを見る私は、なんて諦めが悪いのかしら。
レオンが休み時間に顔を出した。
「あら。珍しい」
私の言葉に「約束したからな」と、喧嘩腰に言ってきた。
「約束・・・」
私がキョトンとした顔でオウム返しに呟くと、レオンは眉間を寄せ私を睨んでくる。
「えっ?あっ!もしかして、入学体験の時の話のことなの?」
ノアが入学できるようになったのだから、あの時の話なんて無効になっていると思っていたのに。
驚いた私に軽く舌打ちをして教室を去っていく後ろ姿を見て、レオンは私が思っているよりも生真面目なのかもしれないわねとぼんやりと思った。
それから後もレオンは普通科に顔をよく見せるようになるのだけれど。
もしかして、双子としてノアの事が心配なのかもしれないわ。
あの2人って、私がついていけない程仲良しなところあるわよね。
そうやって、私の2度目の学院生活は前回とは少しずついろいろと変わりながら始まったのだった。




