SIDEレオン2
本当にスピカは残酷だ。
俺はスピカを守ろうと決めていたのに。
スピカが死に戻る前に、俺がスピカの護衛騎士になると言ったのだと言う。
それを聞いて自分の目の前に道が開けた気がした。
そうなるべきだ!と思ってしまった。
そうしたらスピカを誰からも守ってやれる。
・・・それに四六時中一緒にいられる。
あまりに良い案過ぎて未来の俺を褒めてやりたい気分だった。
未来を夢見ていた。
すぐ泣いてすぐ怒って、頼りなげな様子なのにどこか強いスピカに振り回される日々。
それは今と大して代わり映えしない日々だけれど何物にも代え難い日々。
そんな未来を掴めると思っていた。
スピカが、たかが体験入学なのにノアがいないと嫌だとグズるから、俺がノアの代わりに傍にいると何度も言う羽目になった。
ノアの代わりと言うことが地味に胸にきたが、そんなことは見ないふりをして俺がスピカを守っていこうと思っていた。
そんなにノアのことが良いのかよ、と拗ねなかった自分を誉めてやりたい。
イライラしたけど、俺を見上げて泣きじゃくるスピカは可愛かった。
俺が一緒にいてやる、と馬鹿みたいに何度も何度も繰り返す。
泣きじゃくるスピカに誓いを立てるように。
最後にスピカが頷いた時、信じられないほど嬉しくなった。
そんな風だったから、俺は勝手にスピカの護衛騎士のつもりで体験入学を終えたし、戻って来てからもスピカの横で過ごしていたのだ。
スピカは魔力回復薬をノアじゃなく俺に渡して来た。
その味みたいに甘くて堪らない気持ちになり、飲み干した瓶を顔を背けたままスピカに返した。
それなのに、ノアがスピカの護衛騎士になると突然言ってのけた。
「は?!ノアが護衛騎士?スピカの?」
あまりにも驚いて呆然とノアを見つめた。
何でお前がそれを言い出すんだよ。
「な、何言い出してるんだよ。スピカの護衛騎士は・・・」
スピカの護衛騎士になるのは俺なのに。
そう言いたかった。
そうだろ?スピカ!
けれどもスピカの瞳は喜びに潤んでいた。
顔を赤らめ、手で口元を覆うスピカ。
手放しでノアの発言を喜ぶスピカを見て頭の中を嵐が吹き荒れる様な怒りと悲しみに襲われる。
両手で口許を覆ったまま、首をコテンと横に倒して俺を見る。
「スピカの護衛騎士は・・・」
もう一度同じ言葉を口にして。
その続きを告げられずに固まる。
スピカの護衛騎士になるのは俺だろ?
未来の俺がそう言ったんじゃないのか?
でも、それを言ったのは未来の俺で。
「レオン?」
スピカが心配そうに声をかけてくる。
「俺が・・・」
俺が言葉にしたことは、本当は一度も無いのだ。
言わなければ何も始まらないのに。
未来の俺が言ったからとそれに乗っかって、大事なことは何も口にしていない。
言わなければ。
俺が護衛騎士になるのだと。
今の俺が口にしなければいけないのに。
ノアに言われて余りにも幸せそうなスピカに、焦るばかりで何も告げることが出来ない。
グッと息を呑むと一度天井を仰ぐ。
それから白けた視線をノアに向けた。
「大体何でスピカの護衛騎士だよ。俺よりも全然弱いのに」
俺の発言は完全な八つ当たりだった。
何で俺よりも弱いくせに俺より先にスピカの護衛騎士になる等と言い出すんだ!
八つ当たりだとわかっているのにノアを非難する気持ちが治まらない。
そんな俺に追い打ちをかけるようにスピカがノアを庇う。
「酷いわ!ノアは凄く頑張っているもの。そのうちきっとレオンよりも強くなるわ!」
何だよ、その言葉は。
ノアではなく俺に魔力回復薬を渡すことを選んだんじゃなかったのか?
「勝手にしろよ!」
そう言い捨てて部屋を去って行く。
絶望と怒りが混ぜこぜになって頭も心もぐちゃぐちゃになりそうだった。
訓練に加わり、ただ一心不乱に剣を振る。
後から加わったノアを見ないようにすればする程、思考はノアに囚われる。
最悪なことに、模擬戦をやらされた。
ノアなんて簡単に打ち負かしてやる。
そう思って臨んだのに予想以上に
ノアが腕をあげていた。
その事実にもカッとなって、俺はガムシャラに剣を振った。
ノアを叩きのめすことしか考えていなかった。
無我夢中でノア以外何も見えていなかった。
いや、ノアさえも見えていなかったのかもしれない。
俺が我に返ったのは、冷水を頭から被せられた時だった。
それは辺境伯様の放った水魔法で。
凍える様に冷たいだけで、俺を止める為だけの魔法だった。
「レオン!演習の意味がわかっているのか?!動けない者に、更に振るうとはどういうことだ?!」
辺境伯様の叱責の声よりも、地に倒れ伏すノアの姿に狼狽える。
ノアの近くに回復術を扱える者達が駆け寄る。
俺は痺れるように熱い掌から剣を落とした。
俺は自宅謹慎を言い渡され、何も言えずにその言葉に従った。
ノアも回復術を施されたとはいえ訓練を続けられるまで治っていなかったから家に帰って来た。
「レオン!いくら訓練とは言え、やりすぎです!」
母様に部屋で反省するように告げられる。
「可哀想に」
ノアの青あざの残る体に回復術をかける母様の背中を見る。
キュアが近くに寄って行ったが、ノアがキッパリとキュアの手を拒んだ。
ノアに、謝らなきゃと思うのに言葉がうまく出てこない。
喉の奥に詰まってしまって。
そんな俺をノアが見る。
刃を潰した剣で切られるというよりも叩きのめされたノアは顔にも青あざができていた。
ごめん
そう一言、言わなければ。
ようやく口を開いた俺の言葉はノアによって塞がれる。
「謝らなくていいよ」
射抜くような瞳で見つめられる。
「やっと本気のレオンとやりあえたんだし」
「なっ!何だと?!」
「本気を出さなきゃ倒せないって認められたってことだろ?」
ノアの言葉にカッと血が上る。
「もう!やめなさい!レオン!あなたには自室で反省するように言った筈よ!」
母様がいなければ、俺はノアに掴みかかっていただろう。
ノアも俺ともう一戦しても良いという目をしていた。
俺達は双子で。
だけれどもノアは小さくてか弱くて。
掴み合いの喧嘩になんて発展したことは無かったんだ。
俺は簡単に力付くでノアから欲しい物を取り上げられたし、ノアも全く物に執着などしていなかったから、今迄そんな喧嘩をする必要も無かったのだ。
けれどもノアにもどうしても譲れないモノがあった。
俺と張り合ってでも手に入れたいものがあった。
魔力を失った無力なノアの筈なのに。
筋力も胆力も無いノアの筈なのに。
いつの間にか背が伸び俺に迫ってきて。
俺の得意とする剣術にも必死で追いつこうとしていて。
似てないはずの俺達双子は、まるで鏡の様だっただろう。
お互いが譲れないものを抱えて立ち回っていたのだから。
そんな俺達のいざこざ等何も知らずに、ようやく自宅謹慎を解かれた俺と怪我が回復したノアとでスピカのもとにむかえば、数日間顔も見せずに訓練に明け暮れていたのか?とむくれられた。
むくれた顔まで可愛いと思うなんて、相当やられているとしか思えない。
訓練に明け暮れるどころか、寝ても覚めてもお前のことばかり考えていたと言ったらノアよりも一歩前に立てるだろうか?
心の中なら饒舌に語れるのに、現実の俺はとても言えそうもない。
それでも退くつもりは無いんだ。
ノアが努力をするなら、俺はそれ以上に努力しよう。
未来の俺を待つのではなく、俺がスピカに言うのだ。
スピカを守りたいと。
ずっとスピカの傍にいたいのだと。




