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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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森の帰り

そろそろ帰ろうと森を歩いていると、森の入口の方で口論のようなものが聞こえてきた。


「何だか騒がしいな。様子を見てくるからここにいろ」

レオンが私とノアを置いてサッと身を翻していく。


私は思わずノアの手を握って立ち止まった。

ちょと怖いなって思ってしまったから。

ノアは私を見て大丈夫だよ、というように頷いて握り返してきた。


私はふぅっと息をはいた。

レオンはおばけや幽霊を怖がるけど、こういうのは怖くないのかしら。


ノアとは逆の手に何かが触れる。

横を向くとそこにいたのは、レグルスお兄様に良く似た白い森の精霊だった。

彼は私の手を握っていた。

少し驚いたけれど嫌では無かった。

それどころか温度の感じない彼の手に安心してしまった。


ノアと森の精霊に挟まれて、私の不安は小さくなっていく。


足元のプロキオンがふわふわの毛を擦り付けて来る。


私の周囲はぐるりと白い動物の姿をした森の精霊達が囲っていた。


ラベンダーちゃんの香りが辺りに漂い風が吹く。


気持ちを落ち着けるとその風にのって言い争う声がくっきりと聞こえてきた。


この森に入る入らないで揉めている二人の男の声だった。


「恐ろしい!俺は行きませんぜ!」

「お前がカミーユに詳しいと言うから連れてきたと言うのに!いい加減にしないか!」

「詳しいからこそ、この森にだけは入りたくないんで!」

「ふざけるな!」


「あんた達、何騒いでるんだ?」

レオンの声が加わる。


「ほら、見ろ!こんな子供が一人で入っていける様な森じゃないか、何を恐れる事があるのだ!」


「見たこと無い顔だけど、この森に入ろうなんて馬鹿な大人だな」


「何を?!無礼者が!私は神官だぞ!」


「行きたきゃ一人で行ってきなよ。何の目的で入るのか知らないけどさ。そうすればその人が何で森に入りたく無いって言ってるのか意味がわかるんじゃない?」

レオンの小馬鹿にしたような声が静かに響く。


「ここは賢者の森へ続くカミーユの森。だからといって賢者に会えると思ったら大間違いで何日も何日も彷徨ってぼろぼろになっても生きて戻ってこれれば運が良い方だから。羅針盤も役に立たない緑の魔境って呼ばれてることくらい知っているだろ?」


緑の魔境?なんだかレオンの話を聞くとこの森がとてつもなく恐ろしい場所の様に聞こえてしまうんだけれど。


「あぁ恐ろしい!緑の魔境!とにかく俺は行きませんから!行くなら一人で行ってくだせぇ!」


「こっこのぉ!役立たずめっ!わ、私だって行きたくなど無いのだ!仕方無かろう!アルヴィン様に言われて確認してこねばならんのだ!もう他の皆は王都の神殿に向かって出発してしまったと言うのに、カミーユの末娘が見当たらんばっかりに!」


その言葉を聞いて、ノアが私の手を強く握った。


私を探しにこの森に来たの?


「小僧!お前もカミーユの民だな?カミーユの光り輝く娘とは聖女のミアプラ様なのか?それとも末娘のスピカ様なのか?」


「何言ってるのかわかんないんだけど?確かにミアプラ姉様は光り輝くように美しい人だけど。何と言ってもカミーユのアクアマリンと呼ばれる人だからな」

レオンが得意気に答える。


「ほら、旦那。他の使用人達に聞いても他の領民に聞いても答えは一緒だったじゃないですか。光り輝くように美しいのは聖女のミアプラ様で間違い無いと。それに比べスピカ様は地味な方だと。わざわざ森に出かけた人を探しに行くまでも無いですって」


私がここで彼らの方へ行くべきかしら?

ちらりとノアを見ると険しい顔で首を振った。


突然、カラスがアーッアーッと激しく鳴き喚いた。

森の木々が嵐のように葉を揺らしはじめる。

狼の吠える声が響き、森の中が暗くなる。


「ひぃーっ。俺は行きませんぜっ!」

「ええぃっ!小僧!聖女のミアプラ様は回復術を得意とされる魔術の遣い手だそうだが、スピカ様は何を得意とされる?」

「何って。魔術なんて使えねーけど」

「何だと?それはまことか?」

「嘘ついたってしょうがないだろ。それこそ皆に聞いてみろよ」

「それならば長居は無用だ!急ぎ神殿に帰るぞ!」

「ええ!すぐに戻りましょう!」


彼らの声が聞こえなくなると、森は静かになり明るさを取り戻す。


それでもノアが緊張を解かないので私もじっとして動かなかった。


そうして長いような短いような時間の後にレオンが戻って来た。


「あいつら馬に乗って去ってったから、もう平気だぞ」

レオンったら、そこまでちゃんと見て戻って来たのね。

「神官のくせに威張ってる嫌なやつだぜ」

「レオン、屋敷はどうだった?」

「そっちは見てないけど知らない馬車も停まってなかったし、見たこと無い馬も外には居なかった」

「なら、屋敷に戻ろう」

「一応、裏口から入ろうぜ」

私は二人の決定に頷いて森を出た。


二人の緊張はまだ続いているようで、辺りを見回しながら屋敷の裏口へと入った。


何だか、屋敷の中の空気が気のせいかいつもと違うような。


中を進むとメイド達が居間の前で心配そうに顔を見合わせていた。


私達に気づくと、サッとドアの前から離れる。


レオンが扉を開けると、中には泣き伏すお母様とそれを見守る心配気なガスパーがいた。


「あっ!」

私は思わず声を上げて横を見た。

何故なら、森から出れないはずの森の精霊がいたから。

他の森の精霊はいないけれど、手を繋いだレグルスお兄様に似ている彼だけは私の横にいたのだ。

そういえば、あの時のままずっと手を握っていたのだったわ。


私の声に驚いて皆がこちらを見たけれど、私は何も言えなかった。


「あぁ、スピカ。私、どうしましょう。ミアプラを行かせてしまったわ」

こんな風に泣いて取り乱すお母様を見て驚く。

「ミアプラお姉様を?」

「神殿に行かせてしまったのよ。だって、だって。あの子が・・・アルタイルがいたのよ」

私は驚いて横の森の精霊を見た。

「神官達の中に、アルタイルがいたのよ」

「お、お母様、アルタイルお兄様は亡くなったのよね?」

「でもアルタイルだったのよ」

私はもう一度、森の精霊を見る。

レグルスお兄様に似ている彼が、もしかしたらアルタイルお兄様かもしれないと思っていたけれど。

そうでは無かったの?

私は森の精霊の手を離すことが出来ないのだった。


読んでくれてありがとうございます。

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