家族会議2
私の発言に驚いた声をあげたのはミアプラお姉様だけだった。
私は驚かないお父様やお母様、レグルスお兄様、ベンジャミン叔父様を順番に見廻す。
「やっと、告げてくれたね」
お父様が悲しげに微笑んで、私を見た。
「辛かったわね、スピカ」
お母様がポロリと涙を一粒こぼした。
「大丈夫。僕が守るよ」
レグルスお兄様が慈しむ様に言った。
「どうも、うちのノアとレオンは知っていたようだな」
ベンジャミン叔父様がノアとレオンの様子を見て苦笑する。
「黙っていて、ごめんなさい」
私は皆に頭を下げる。
「薄々そうではないかと思っていた。話してくれるのを待っていたんだよ」
「お父様・・・」
「えぇ、いいのよ。スピカ、どんなに辛かったことでしょう」
「お母様・・・」
私は皆を見回す。
「私は死に戻っても大した記憶を持っていないの。歴代の死に戻りの聖女様のような奇跡をおこせやしないわ。私がなんで死んでしまったのかさえ覚えていないの。ただ、17になる一ヶ月前にユリウス王子に私との婚約を解消して欲しいと頼まれたの。ユリウス王子が見初めたのはミアプラお姉様だったのに、お父様が真珠のような娘と言われ私だと勘違いしてしまったのだと」
お父様から再び陽炎のような物が出るので、落ち着くように手のひらを向けて待った!のポーズをしながら話続ける。
「諦めようとしたけれど、どうしても諦められなかったと。ユリウス王子に謝られミアプラお姉様に謝られるまで、私少しも気づいていなくて。お父様やお母様にも謝られ国王夫妻にも謝られたわ。皆が婚約解消に賛成だったの。私は婚約解消のショックを受けてその後のことはあやふやで死んでしまったことはわかるのだけど何で死んでしまったのかは覚えていないの」
話していて少し切なくなったけれど、気持ちの整理がついているせいか淡々と語ることが出きた。
でも。
「宙に上がっていく途中で私を引き止める声が・・・」
その後の話をしようとすると胸が詰まって苦しくなった。
「何度も何度もノアが・・私を呼ぶから・・・」
泣きそうになって、言葉を止めて息を吸い込む。
「私は14才の誕生日の一ヶ月前に戻ってきたの。賢者のおばば様がノアが魔力の全てを使って私を死に戻らせたのだろうって。だからノアの魔力は無くなってしまったの」
滲む視界で話し続ける。
「私は死に戻っても何もしたくなかった。前回をなぞって過ごして3年後に死ぬのだと」
私はギュッと目を閉じてから、息を吐いて涙を追い払ってから瞳を開けた。
くっきりと、私を見つめるノアが見えた。
「でも。ノアのおかげで死に戻ったのならば、私は生きたいと思ったの。前回をなぞるのはやめたのよ」
私を眩しがらないあなたの茶色い瞳が私の心を射抜くかのよう。
「だから、早くユリウス王子と婚約解消をすることにしたの。体験入学の時に話をして、婚約解消になったと思ったのよ。けれども、こんな事になってしまった」
肩を落として立ちつくす私を立ち上がった両親が抱きしめた。
初めから、二人に告げれば良かったのかしら。
それは、できなかったわ。
だって・・・。
「死に戻ったのが私でごめんなさい。アルタイルお兄様でなくてごめんなさい」
私の掠れる言葉に二人はビクりと体を震わせた。
「何を言うんだ!」
「そんな事をあなたは考えていたの?」
「アルタイルお兄様が生きていたらって、会ったことの無い私でも思うのですもの。お父様やお母様なら尚更でしょう?」
「スピカ。アルタイルは確かに死なすのが惜しい息子だった。けれどもスピカもかけがえのない娘なんだよ」
「そうよ。あなたが死に戻ってくれて良かった。死なせやしないわ」
掻き抱くように抱き締められて。
私は両親にこんなにも愛されていたのだとわかった。
皆にはミアプラお姉様さえいればいいのね、と思っていた前回の私はなんて愚かだったのかしら。
私はちゃんと愛されていたのね。
目隠しをしたように周りを見ていなかったのだわ。
死に戻れて良かったとしみじみ思った。
「私、王家には絶対バレたくないの。このことは。プロキオンが精霊獣だということも。竜のラベンダーちゃんと契約していることも。森の精霊達が守護してくれていることも。おばば様が、ばれたらユリウス王子どころか皇太子の側妃にされるかもって。そんなの嫌だわ」
「聖女として皆に崇められなくてもいいんだね?」
「もちろん!そんなの望んでないわ」
私の言葉にお父様は頷くと、ミアプラお姉様を見た。
「あのクズ王子の伴侶にさせたくはないがミアプラ本人が望むのだから仕方あるまい。ミアプラ、お前が死に戻りの聖女になるのだ」
「え?」
お姉様は困ったようにお父様を見上げた。
「確かに!凄く良い案だわ!それなら私と婚約解消してミアプラお姉様と結ばれるわね」
私の賛同の声にミアプラお姉様は首を振る。
「そ、そんな無理よ。スピカ、あなたが皆に崇められるべき存在なのに」
「私そんなの望んでないわ。んー、何か国王を納得させられる様な事を思い出せないかしら。小さなことでもいいのよね。あの橋の崩落のような。いくつか頑張って思い出すわ。そうして、ミアプラお姉様が死に戻りの聖女としてそれを告げればいいわね」
私はお父様にこの案を授けたであろう賢者のおばば様は、さすがだと思わずにいられなかった。
読んでくれてありがとうございます!




