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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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賢者の森へ

「なんで、レオンまでいるのかしら?」

私を迎えにやってきたノアの横には、ノアの双子の兄のレオンが立っていた。

双子なのに全然似ていないのだけれども。

二卵性双生児なのだ。

ノアは濃い茶色の髪と瞳なのに、レオンは薄い茶色の髪と瞳。

体の大きさもだいぶ違う。

小さく未熟児で産まれたノアと大きく産まれたレオン。

私も未熟児で産まれた小さい子供だったので、ノアとゆっくり成長した。

レオンはやることも早く、どんどん成長していくのを後からノアと追いかける様に大きくなっていった。

そんな関係性の為、昔からレオンは私やノアに対して無駄にいばるのだ。

ミアプラお姉様には格好をつけて優しくするのに。

レオンのそういうところがまた気に入らないのだけれど。

「おいおい。森に行くって言うから護衛としてついて行ってやろうっていうのに、その口の聞き方。なってないな」

偉そうなレオンの口ぶりにカチンとくる。

「誰も頼んでませんけれど」

「可愛くないな。こっちだってノアに頼まれなきゃ来ないし」

レオンの言葉に驚いてノアを見る。

ノアは丸眼鏡を押さえながら「ユリウス王子の婚約者となった君と二人で出かけるわけには行かないだろう」と真面目な顔で言う。

「そんなの破棄されるって言ってるじゃない」

カッと頭に血が上って話した言葉に、レオンがギョッとする。

「お前、婚約式あげたの半年前じゃないか。なんだよ。トラブルでもあるのか?」

「え?あ!べ、別に無いけれど」

慌てる私を意外にも心配そうに見てくるレオン。

「それじゃ行こうか」

ノアが先頭に立って歩き出す。

私はごまかすようにそれに続いた。

「なーなー。やっぱりミアプラ姉様は来ないのか?」

あー、またレオンのミアプラお姉様が始まった。

レオンはミアプラお姉様が大好きでいっつもこの調子なんだから。

ミアプラお姉様を好きな人はレオンだけではないけれど。

皆、私よりもミアプラお姉様を好きなことくらいわかっている。

私だってミアプラお姉様が好きなのだから。

「来るわけないじゃない。大の虫嫌いなのよ。ミアプラお姉様は今日もお家で刺繍をやるそうよ」

「淑女だなー、誰かさんと違って」

「ふん。悪かったわね」

私はツンとそっぽを向いて歩く。

だからレオンは嫌いなのだ。


先を歩くノアは大人しい。

私の前を歩くのは、私よりも背が小さいノア。

けれども3年後には、ノアはレオンよりも背が伸びて私を遥か上から見下ろすようになるのだから。


成長期って怖いわ。


「こんなに小さくて可愛かったのに」

ポツリとこぼした言葉に、音がしそうな程の勢いでノアが振り向いてくる。

「何か言った?」

「いいえ。何も」

私は澄ました顔で返事をする。

「・・・。ならいいけど」

ノアは私の顔を見て、また目を眇めるのだろうと思ったのに。

「ノア」

私は一歩ノアに近づき顔を寄せる。

ノアは、真顔で私を見ていた。

「あなた、今日はどうして私を睨まないの?」

「え」

「このぐらいの距離で話していると、いつも目を眇めてきてたわよね?」

ノアの目が揺れる。

「具合でも悪いの?」

「そんなことないよ」

私だって、別に嫌な顔をされたい訳では無い。

けれどもいつもと違う態度は気になるのだ。

「眼鏡が・・・」

ノアはそう言って眼鏡を外して私を見る。

「やっぱり。眼鏡が要らなくなったのかも」

私の顔をまじまじと見て、そう言った。

「え?」

私との会話を打ち切るように前を向いて歩き出したノア。

今のどういうこと?とレオンに目を向けると、レオンはさあ?と肩をすくめるジェスチャーをする。

双子にわからないことが私にわかる訳は無いわね。


カミーユ辺境伯邸の裏の森は、賢者の森へと繋がっている。

賢者のおばば様に会えるのは、森に選ばれた人だけ。

幼い頃に森に連れて行かれ、一人で放置されるのだ。


勿論、後ろから大人が見守っていてくれているのだが、そんなことを知らされず広い森にぽつんと唯一人取り残される不安はとても大きい。

おばば様の家に辿り着くことですごくホッとしたことを覚えている。

お父様の世代では、お父様だけだったそうだ。

私の世代では亡くなったアルタイルお兄様と私とノアがそうだった。

おばば様の家は他の人には見えないらしい。

そして、おばば様の家の中に入っている時私達は神隠しのように姿を消すらしい。

見ている人はとても不安に思うそうだけれど、レオンは平気かしら。

「ねぇ、ノア」

声を掛けながらノアの手を引き「レオンはわかってるのよね?私達消えちゃうこと」とこっそり尋ねると、「何コソコソしてるのかな?おチビちゃん達」とレオンがやっかんで来た。

「おチビちゃんて言わないでって言ってるでしょ!」

「なんだよ、お前らいつもいつもチビでつるんで俺を除け者にして」

「そっちこそ!いつもいつもチビってバカにしてくるけど!言っとくけど、レオンなんかよりノアの方が大きくなるんだから!」


私は言い捨てて、ノアの手を掴んでおばば様の家のドアを開けた。

「おばば様、お久しぶり」

私は奥に向かって声を掛ける。

「あらあら。久しぶり」

私やノアよりも小さい、賢者のおばば様がひょっこりと顔を出す。

「何かあったの?」

おばば様は、とりあえずお座りなさいと木のテーブルに招く。

大きな切り株のテーブルの周りにはおばば様特製の大きなクッションがたくさんあり、腰掛けるとあまりにも心地良くて立ち上がりたくなくなってしまうのが難点の場所なのだ。

私はお気に入りの熊のようなクッションに身を預ける。

ノアはその横の雲のようなクッションが定位置だ。

おばば様がアップルティーを入れるわねとキッチンに消える。

「ねぇ、さっきの本当?」

「何のこと?」

「僕がレオンよりも大きくなるって」

「あぁ、本当よ。びっくりよね」

ノアが嬉しそうに笑う。

こういう顔は可愛いのよね。

あぁ、和むわ。

これから深刻な話をおばば様にするのに。

キッチンからアップルティーの香りが漂い、リラックスしてしまう。

「レオン、私達が消えてびっくりしてるわよね。ふふ」

情けない顔して固まるレオンを想像してしまう。

おばば様がアップルティーとクッキーを私達の前に置く。

「さぁ、何があったのかお茶を飲みながら話してくれる?」

「えぇ。聞いて欲しいことがあるの」

私は先日の話をした。


ユリウス王子と婚約破棄したこと。

よく覚えてないけれど死んでしまったということ。

誰かに呼ばれて、地球に落ちたと思ったら三年前に戻っていたこと。


おばば様は私が喋り終えると私の手をギュッと握って「スピカ、辛かったわね」と言った。


その言葉を聞いたら涙がボロボロと溢れてしまった。


あぁ、私は辛かったんだわ。


「大丈夫だよ。死に戻りの聖女様は幸せになるために戻ってくるのだから」


「私、やっぱり死に戻りなの?」


「そのようね。ねぇ、スピカ。やり直せる時間は三年よ。長いようで短いわ。あなたは何をやり直したくて戻ってきたのかしら」


「私は」

一度呼吸を整える。

「私は何もやり直したく無いわ」

それが今の本心なのだ。


「私は他の死に戻りの聖女様達のように、何かを変えたいと思えないの」


だって、あのミアプラお姉様からどうやってユリウス王子の心を私に向けさせられるというの?

そんなの無理だわ。

だからといって私から婚約解消を願うこともできないのだから。


「私は以前の私と同じ様に生きて、そして死ぬのだとしても仕方ないかなって思うの」

力無く言うと、おばば様が首を振った。


「誰かの声が呼び戻したのなら、スピカの代わりに強く強く願ったのだろうね。スピカに死なないで欲しいと」


「ミアプラお姉様ならユリウス様が願うだろうけれど。ううん、他の誰もが願うわね」


「それでも、誰かいたのよ。あなたのために強く願った人が」


その言葉に、再び涙がポロリと頬を伝って落ちていく。


「死に戻りの聖女様は、名乗り出れば国に手厚く扱われるわ」


「いいえ。私はそんな風にはなりたくないの。私は何もしたくないのよ」


おばば様は、ふわふわのタオルで私の顔を拭って優しく微笑んだ。


「ええ。いいのよ。今はそれでも。あなたの心はとっても傷ついているのね。前を向きたくなったら、またいらっしゃい」


私は泣きたいだけ泣くとスッキリしておばば様の家から出た。


後ろで、おばば様とノアがまだ何か話していたけれど私は自分のことで手一杯で、そのことを気にもしていなかった。


「なんだよ!二人急に消えたりして!凄い待ったんだからな!」

レオンが泣きそうな顔で突進してきた。

目が赤くなっていたから、本当に泣いたのかもしれない。


「ごめん。ごめん。忘れてたわ、レオンのこと」

「心配させるなよな!」

ぷいっと横を向いたレオンは少し可愛いかった。








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