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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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一緒にいて

楽しい日々は飛ぶように過ぎ、あっという間に二人の冬休みが終わってしまう。


レグルスお兄様とミアプラお姉様は学院へと戻ってしまった。


淋しくて泣く私に次は体験入学で会おうねと微笑んで去って行く。


体験入学。


二人には会いたいけれども、体験入学で学院のことを教えてくれるペアの先輩がユリウス王子だった。


ユリウス王子は案内もスマートで、優しかった。

私がユリウス様に見惚れて転びそうになった時、風魔法で優しく包んで腕をそっと引いて立たせてくれた。

あの時、風からハーブのような香りがした。

爽やかなユリウス様にぴったりの香りだと思ったのだったわ。

体験入学はただユリウス様の横で笑っているだけで過ぎてしまった。

夢見るような幸せな一週間だった。


でも、今回は告げなければ。

笑顔で。

あなたの好きな方はミアプラお姉様でしょう?婚約を解消しましょう、と。


できると思うの。

もう何回も何回も頭の中で練習したもの。

イメージはできている。

あとは、勇気を出すだけよ。


私は決意を固める為に、ノアとレオンに宣言する。


「私ね、今度の体験入学の時にユリウス王子とペアになるの。その時、ちゃんと婚約解消を告げるわ」


ノアはふうんと頷き、レオンは「いいんじゃねーの」と頷いた。


「もしも、だけど。私の心が折れそうになったら、横からアシストしてね」


「任せとけ」と胸を叩くレオン。


ノアは眼鏡の縁を触ってチラリと私を見た。

「僕は行かないよ」


「ノア、体験入学にあなたは行かないの?」


「学院には入学しないって言ったよね」


私は呆然と開く口を手で押さえてノアを見つめる。


「そんな…」


「そんな顔をしなくても平気だよ。レオンがちゃんとやってくれるさ」


ショックを受ける私とは違いノアは平然としていた。


「だって、体験入学は一週間もあるのよ。学院まで往復で早くても10日はかかるわ」

「そうだね」


「そんなに私達離れたこと無いじゃない。前回だって、そんなことなかったわ。二週間以上も。あなた、平気なの?」

「平気も何も。スピカ、学院に入ったらもっと会えなくなるじゃないか」

じっと私を見て淡々と告げるノア。


「だって…」


それ以上言葉が告げなくなる。


だって。

なんでノアはそんなに平気なの?


そして、私は何をこんなに不安がっているの?


私ばかりがショックを受けているの?


ノアが魔力を無くして学院に行けなくなったのは、私のせいだけど。


「でも・・・嫌だわ」


私が絞り出すように言った言葉は、ノアの表情を変えさせることは出来なかった。


「その内慣れるよ」


その言葉が胸に突き刺さる様だった。


私は潤む瞳を見せないように背を向ける。


「プロキオン、お外で遊びましょう」


何でも無い風を装って、プロキオンと外へ出る。


冬の冷たい風が髪をさらう。

私の顔を覆うように、長い髪がたなびく。

鼻がつん、と痛くなり涙がじわりと浮かんだ。


「そんな格好で外に出るのは寒いだろ!」

私の上にコートを被せて来たのはレオンだった。


ノアが追いかけてきてくれないことにも悲しくなってしまう。


「なんだよ、ぐずぐず泣いてんのか?」

レオンが遠慮もなく人の髪を払うから私の泣き顔が晒されてしまう。


私を見てレオンは一瞬動きを止めた。


なんで、まさか本当に泣いてたとはみたいな顔で見てくるのよ。


私はプイッと顔をそらす。


「な、なんだよ。ノアが行かないぐらいで泣くとか」


「レオンには関係ないでしょ!レオンにはわからないわよ!」

私はプロキオンを抱き上げて白い毛に顔を埋めた。


泣くのを堪えようとする私をプロキオンがなめて慰めてくれる。


「ありがとう。プロキオン」

そう言ってようやく顔を上げれば、怒っていなくなっていると思っていたレオンが私の前に立っていた。


「…ノアがいないと、なんでイヤなんだ?」

責める口調では無いレオンに、私はポツリと告げる。


「だって。ノアは一緒にいてくれるもの。ノアがいないと寂しいわ」


私は末っ子の内弁慶で、家族や親しい人には強くいられるけれど、他の人の前では萎縮してしまいがち。


レオンが続きを促す。


「私は人見知りだし。初めての人ばかりのところに行くのは緊張するわ」


「初めてじゃないだろ。死に戻る前に体験入学したんだろう?学院は既にスピカが知ってる人達ばかりの場所じゃないのか?」

「あ!」

確かに。

良く考えればそうだわ。

クラスの子の名前も顔もしっかり覚えている。


でも、そういうのではないの。 

「それでも…」

胸に沸き上がるこの寂しさをどう言えば良いのだろう。


「ノアがそばにいないと、淋しいのよ」

言葉と共にポロリと涙がこぼれる。

「私達、ずっと一緒にいたのよ。いつもいつも。それなのに…」


「それなら俺が代わりにいてやる」


私はびっくりしてレオンを見上げる。


「俺がノアのようにお前とずっと一緒にいてやる」


レオンの怒ったような真剣な顔。


私はフルフルと首を振る。


「無理よ。あなたなんて学院で私の顔を見に来たことさえ無いじゃない。騎士クラスの友達といつも楽しそうにして、私のことなんて気にしたことなんて無いじゃないの」


「戻る前の俺がそうだったとしても。俺が一緒にいてやる」


強く言いきるレオンに、ただただ首を振る。


「ノアは朝も昼も私のクラスに顔を出してくれた」

「俺もそうしてやる」

「私が泣くと、ずっと隣にいてくれた」

「俺もそうしてやる」

「ノアはノアは…」

泣きじゃくる私の話をレオンは辛抱強く聞いてくれた。

うつむいて泣く私に何度も同じ言葉を掛ける。


「俺が一緒にいてやるから」


頭の上から聞こえたレオンの声は、いつもと同じぶっきらぼうだったけれど、何故なのか優しく聞こえた。


だから、私はそれ以上何も言えなくなったのだった。









読んでくれてありがとうございます

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