お帰りなさい
「イグルスお兄様!ミアプラお姉様!」
私は今か今かと待っていた馬車に駆け寄る。
降りてきたイグルスお兄様もミアプラお姉様も少し大きくなって成長していた。
「スピカ!会いたかったよ!」
イグルスお兄様にハグしてもらい、次はミアプラお姉様にハグをしてもらう。
「元気だったようね」
「えぇ!お姉様達も!」
なんだかお姉様、美しさも増しているみたい。
「レオンとノアも大きくなったね」
レグルスお兄様に頭をなでられて、嬉しさを隠しきれない様子の二人。
「あら!ノア!もしかしてスピカと同じくらいになったんじゃないの?」
ミアプラお姉様の声に嬉し気に顔を上気させたノアと違い、私はムスっとしてしまう。
何故なら先日お父様も同じことを言って、二人で背比べをさせられたのだ。
そしてあろうことか、私はノアに少しだけ身長を抜かれてしまった。
ノアが大きくなるのはわかっていたことだけど。
でも、それは学院に入ってから急激に伸びたのに。
少し成長が早まって無いかしら?
あ!もしかして私特製の魔力回復薬に成長を促す何かが秘められているとか?
今度おばば様に訊いてみよう。
もしかしたら、私、薬師としての才能があったりして。
だってこの間、プロキオンの傷を治してしまったし。
空想に顔が緩んでいた私にレグルスお兄様が声をかけてくる。
「この子がプロキオン?」
「えぇ!」
「可愛らしいわ!」
ミアプラお姉様も興味津々に顔を輝かせる。
プロキオンが私を見上げてくるので、頷くと二人の足元に行き撫でてもらいに行く。
「うん、良い子だ」
「なんて手触りなの。可愛い子」
プロキオンが二人に可愛がられるのを見て、私は鼻が高くなってしまう。
ハッとして鼻を隠してレオンを見る。
「な、なんだよ」
「なんでもないけれど」
私がじっとりした目で見ているので、レオンは口をつぐんだ。
「スピカ。そう言えば助かったよ」
プロキオンに顔を舐められながらレグルスお兄様が私に顔を向ける。
「もしもサラウト河ルートで帰っていたらと思うとゾッとするよ」
「スピカありがとう」
「ううん!二人に早く会えて嬉しいの。帰ってきてくれてありがとう」
「プロキオンが可愛すぎて困ると思ったら、スピカがそれを超えてくるとは」
「本当ね、レグルスお兄様。スピカがやっぱりカミーユで一番可愛らしいわ」
私はもう一度二人からハグを受けたのだった。
場所を居間に移動すると、お父様やお母様もやってきた。
「疲れただろう。元気だったか?」
「おかえりなさい。会いたかったわ」
「あっちの生活はどうだ?」
「食事はちゃんと取れているの?」
やっぱりレグルスお兄様とミアプラお姉様がいると一気に賑やかになるわ。
私が微笑んで会話を聞いていると、お父様が「スピカ何か聞きたいことはないのか?」と話をふってくる。
「いいえ。何も」
だって、学院の寮の生活も、先生も何もかもちゃんと覚えている。
「あら。あなたったら余裕なのね。それならユリウス王子の話でも訊いてみたらいいじゃないの」
お母様の言葉に、私の笑顔が一瞬消える。
その瞬間、ミアプラお姉様と目が合った。
ミアプラお姉様も真顔になっていた。
「ユリウス王子の話も聞かなくて平気よ」
私は引きつりながらも笑顔で言えた。
それなのにミアプラお姉様は泣きそうに顔を歪めた。
ごめんなさい。ミアプラお姉様。
きっと、私笑って言ってみせるから。
ユリウス王子に、本当に好きなのはミアプラお姉様で、私は間違えだったのでしょうと。
きっと言ってみせるから。
だからそんな泣きそうな顔をしないで。
「あらあら。スピカはなんて余裕なのかしら」
「まぁ、来学期早々に体験入学があるしな」
体験入学。
「忘れてたわ」
そんな行事があった事。
一週間だけ学院で生活するのだ。
前回はあんなに楽しみにしていたのに。
今回は頭の片隅からも飛んでしまっていた。
それからの私は皆の話は上の空で、体験入学のことばかり考えてしまっていた。
読んでくれてありがとうございます。




