プロキオンと私
プロキオンはあっという間に我が家のマスコットになった。
だって、愛らし過ぎるんですもの。
ふわっふわの白い毛も円らな赤い焔を灯す瞳も。
何よりも私の後を一心に追いかけて来る姿が可愛くてたまらない。
お父様、お母様は勿論、使用人一同も目尻を下げてプロキオンを見ている。
プロキオンのおかげで一昨日ぶりに会ったレオンとも気まずくならずに済んだ。
「わぁ!まじで真っ白で可愛い!」
満面の笑顔で現れたレオン。
私はホッとしてレオンに、青い小瓶を渡す。
「え。なんだよ、これ」
「ただの滋養強壮ドリンクよ。一昨日はあなたに迷惑をかけたから。はい、これはノアの分。ちゃんと飲みなさいね」
素直にごめんなさいと言えなかったけれど伝わったかしら。
ノアに無理矢理飲ませながら、ちらりとレオンを見るとなんだか少し嬉しそうに瓶をあおって飲んでいた。
「どう?」
私に感想を訊かれて、相変わらず顔をしかめるノアにがっかりしながらレオンの方を向く。
「・・・甘い」
そう言って顔を背けて空の瓶を私に返してくる。
横を向いていても、レオンの口元が笑っているのがわかった。
レオンはやっぱり甘い物が好きなのね。
「さーてと、ノア行こうぜ」
「うん。じゃあねスピカ、プロキオン」
来て早々二人が去って行くので慌てて後を追う。
「待ってよ。どこに行くの?」
私の問にレオンが得意気に鼻を擦りながら答える。
「じゃじゃーん!なんと、今日は辺境騎士団の訓練に参加させてもらうんだ!」
何をそんなに嬉しそうに。
全然面白そうじゃないじゃない。
「ノアは行かないわよね」
私が当たり前のように言ったのに、首を振った。
「そんな!無理でしょ。レオンでさえついていけないと思うわよ、私は」
「なんだと!」
レオンはムッとして声を荒げるけれど、私は気にせずノアから目を離さず言う。
「ノアには無理よ。私と一緒に過ごしましょう」
「スピカなんて放って行こうぜ、ノア」
ノアは、何も言わずにレオンを追いかけて行ってしまった。
後に残されたのは私とプロキオン。
「なによ」
呟きが虚しく宙を舞う。
プロキオンが慰めるように私をペロンと舐めた。
私はプロキオンを抱きかかえて、こっそりと訓練場を覗きに来た。
大人の中で、レオンはヒョロリと小さく頼りなく見えた。ノアなんてさらに小さくて細いのだ。
心配で見守る私は、ハラハラしてしまう。
私の心配をよそに二人は汗を流しながら騎士達の訓練を必死で真似ている様子。
「プロキオン、どう思う?私だったらあんなに汗だくになるの嫌だわ。何が楽しくてあんなに体を動かしてるのかしらね。男ってわからないわよね」
プロキオンは、くぅんと可愛く鳴いて私の頬をなめる。
つまらないわ。
前回の時にはこんなことあったかしら?
レオンは騎士科を受けるから基礎訓練に混ぜてもらうこともあったけれど。
ノアはいつも私といたのに。
プロキオンがもう一度私の頬をなめる。
「あぁ、そうね。あなたが今回は一緒にいてくれるのだものね」
私はプロキオンに頬擦りして、目を閉じる。
ふわふわのプロキオンは炎の精霊獣だからなのか、とっても温かかった。
「大好きよ、プロキオン」
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