表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/69

目を覚ました世界

「スピカ!お父様がわかるか?」

「スピカ、お母様よ!」

目覚めた私の手を握りしめる両親は、やっぱり少し若返っていた。


「気分はどう?」


「…なんともないわ」


目眩はすっかり治まっていた。


「スピカお嬢様、こちらの指は何本に見えますかな?」


私の顔の前で指を二本立てて揺らすのは今年の冬に亡くなったはずのお爺ちゃん医師のショーン先生。


「二本ね」


私は努めて冷静に答える。


その後もいくつか質問されて、何なく答えていたが、日付のことだけはわからなかった。


ショーン先生は頭をぶった一時的なものだろう、と診断した。

しばらくは安静にして様子をみましょうと去って行く。


私の指には相変わらず婚約指輪が光っていた。


顔に傷がないか見たいの、と理由をつけて鏡の前に移動する。


私もやっぱり若返っていた。


それを確認して、ごくりと唾を飲み込む。


冷静に冷静に。


これは、所謂あれじゃないかしら。


私はたぶん、あの昔語りのように死に戻りをしたのだ。


絶対に悟られてはいけない。


私は死に戻りの聖女になどなりたくはないのだから。


心配症な両親に「ほら、傷などついてないのだから安心して横になっていなさい」とベッドへ押し込められる。


私は森の賢者のおばば様の所に行きたいのだけれど。


今は、落ち着いたふりをしていなければ。


レグルスお兄様やミアプラお姉様、ノアが部屋に入ってくる。


「大丈夫か?」

心配気に尋ねるレグルスお兄様に頷き、涙を浮かべるミアプラお姉様に泣かないでと囁き、無表情でこちらを見下ろすノアには「絵本を読んで頂戴」と合図を送る。


「え?なんで僕が?」

「絵本なら私が読んであげるわ」

きょとんとした顔をするノアと、優しげなミアプラお姉様を見比べて。

「今日はノアに読んでほしいわ」と我を通す。

「そこの赤い表紙の絵本を読んでほしいの」

私は固唾を飲んで、ノアの様子を伺った。

「えー、なんでー」

私の期待を裏切るノアの嫌そうな声。

この合図をを決めたのはノアだったではないか。


私がこの現象が死に戻りではないかと気づいたのは、ノアが昔からこういうお話が大好きで、賢者のおばば様にねだって何度も何度も一緒に話を聞いていたからだ。


『このお話はね、決してお伽噺じゃないよ。実際に150年くらい前にもあったんだよ』とおばば様は言っていた。


『どうしてもこのままでは死ねないという強い願いがね、時に奇跡を起こすの』


『死に戻りは未来を知っているから聖女と尊ばれるんだよ』


死に戻りの聖女と呼ばれる人達は二百年に一人くらい、世界のどこかに現れるのだと。


その人は未来を知っていて、様々なことを起こして自分の欲しい未来を掴みとるのだと。


私はおばば様の話それこそがお伽噺じゃないかと思っていたけれど。


ノアは真剣に聞いていて「もしもスピカが死に戻りしたら真っ先に僕に教えて欲しい。僕が手助けしてあげるから。何か僕にだけわかるようにサインをしてよ。そうだな。何か赤い物が欲しいとかさ」なんて言っていたくせに。

実際はこうなのだから。


「いいわよ。もう」

ノアを信じた私がバカだったわ。


私は「やっぱりミアプラお姉様読んでくださる?」とベッドの上からおねだりする。


「えぇ、いいわよ。これね。赤い表紙の『死に戻り姫ソフィア』」


ミアプラお姉様が本を手に取り題名を読み上げると、ノアがこちらを見て目を見開いた。そして、慌ててその本をミアプラお姉様の横から奪うようにとる。


「ご、ごめん。僕がやっぱり読むよ。でも下手だからスピカ以外に聞かれるのは恥ずかしいんだ。この本を読む間だけスピカと二人きりにして欲しいんだけど」

私のサインに気づいたノアの慌てぶりには吹き出しそうになった。


ミアプラお姉様とレグルスお兄様は顔を見合わせて、しょうがないと頷き外へと出て行ってくれた。


「スピカ、まさか。本当に?」

ノアが顔から滑る丸眼鏡を押さえながら、私ににじりよって来る。

「本当よ」

「また僕を騙そうとしているんじゃないよね」

「しつこいわね、本当よ」

まぁ、それだけ確認をとるくらいノアのことをからかって遊んでいたのだけれど。

ノアはどんなほら話をしても、基本私のことを全部信じてしまうのだ。

それでからかいすぎて嫌われているのだけれども。


「どうして死んでしまったのさ」

「どうしてかしらね」

私がそう答えると、途端に怒り出すノア。

「ちょっと待ってよ。本当の話よ。私はユリウス王子に婚約破棄をされて死んでしまうの」


ノアは驚き、顔を歪める。

「いつ死んでしまったのさ」

「それはさっき…」

「スピカが何歳の何月何日なの?」

「えっと。私が17になる1ヶ月前に婚約破棄になったのよね。その後なんかいろいろと記憶があやふやなのよ」

「今が14になる1ヶ月前だから、三年後なのか?」

あら。じゃ、私はまだ13なのね。

もうすぐ14になるのね。

三年で人ってだいぶ変わるわね。

そんな風に一人思っていると。


「それじゃ、死に戻って来たのは王子との婚約破棄を回避するため?」

「まさか」


ノアは真実かを見極めるかのように私の瞳を覗き込む。


「眩しくない」


ポツリと呟くノア。


「なんの話なの?」


「いや、こっちの話だけど。あれ?」


ノアが胸を押さえて、眉を寄せる。


「どうしたの?」


「わからない。わからないけど、この辺がスカスカする」


黙り込むノアを待っていると。


「僕はとりあえずもう家に帰るけれど。スピカが外出許可を貰えたら、一緒に賢者のおばば様の所に行こう」


「ええ。数日は無理そうだけれどもね。お父様、過保護だから」


外出許可が出たら、二人で森のおばば様の所へ行く約束をして別れたのだった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ