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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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SIDEレオン

俺には双子の弟がいる。

小さく生まれてしまった為に何度も死にかけた、か弱い弟が。

そうして物心付く前からまるでもう一人の兄弟のように常に一緒にいる従姉妹が。

ノアもスピカも小さくて、俺が簡単にできたことを、二人でよいしょよいしょと頑張って追いかけてくる様な二人だった。

だから、二人を下に見ていたのに。

4つの時、森の試練に連れて行かれ泣いて保護された俺とは逆にあの二人は森に選ばれし者になった。

俺は選ばれぬ者だったのだ。


それから二人は俺には見えぬ何かを見、俺にはわからぬ話をするようになった。

つまらないと拗ねる俺の相手をしてくれたのは、一つ年上の従姉妹のミアプラ姉さまだった。

スピカよりもよっぽど綺麗で美しく、性格も穏やかで優しいミアプラ姉さま。

それでも俺は仲良く二人でいるノアとスピカを見ると理由もなく苛立った。


ノアは美しいミアプラ姉さまよりも、スピカを崇める様にいつも見ていた。

他の人は気付かなくても双子の俺にはわかっていた。


ノアの魔力は辺境伯よりも多いのかもしれない、と言われたらしい。

三大魔導士様にもスピカと共に可愛がられ、益々俺との差を付けていく。


他人のほとんどは背も高く俊敏で健勝な俺を評価するけれど、俺が評価されたい人々は、ちびでか弱いノアを認めた。


俺はつまらなくなって、余計にノアにあたる。


俺とノアは幼少の頃、ほとんど辺境伯邸で過ごして育った。

死にそうなノアがスピカが側にいると持ち直すことが多々あったからだ。

スピカは凄い回復師になるかもと言われていたけれど、魔力は無かった。

それなのに奇跡を起こしてノアを救った。

そんなスピカを、俺は少しだけ尊敬していた。


ある日、少食のノアの残したおかずを俺が横からぱくりと食べた時。

「もう、お行儀が悪いわね。レオン。お腹の中でもそうやってノアの分までレオンが栄養を取ってしまったんじゃないの?」

今は嫁いでここにはいない従姉妹のカペラ姉さまに笑って言われ、俺は真っ青になった。

なんてことだ!

小さくてか弱いノア。

それは俺が母様のお腹の中でノアの分の栄養まで取ってしまったからなのか?

だから、こんなに小さくてか弱いのか?ノアは。

俺がノアに罪悪感を覚えたのはこの時だった。


一人ベランダに出て外の月をぼんやりと見ながら涙が浮かんで顔を歪めた俺の後ろで声をあげたのはスピカだった。

「キャー!おばけかと思ったじゃないの。脅かさないでよ!」

「脅かす為にいたんじゃない」

「ごめんなさい。それなら何でこんな所であなたは泣いてるのかしら?」

今更泣いた顔を隠せるはずもなく、俺は力無く言う。

「ノアが弱いのは。小さく産まれたのは。俺が、俺がノアの分の栄養までとってしまったからだ」

ぐすぐず泣く俺に、スピカは慰めの言葉をかけることもなく「バカね」と言って笑った。

「カペラお姉さまの言葉を本当だと思ったの?」

こくこく頷くと。

「あなた、ノアに聞いたことないの?あの子お腹の中の記憶を持っているのよ」

「え」

「温かい母様の海から何度も落ちて行きそうになったけれど、その度レオンが僕の手を握って助けてくれたんだって。私双子って素敵ねって思ってたんだけど」

そう言って俺のことを見てふんわりと笑ったスピカが綺麗で息を飲んだ。


なんだか月の光を受けて真珠のように輝いて見えたんだ。


スピカの薄青い銀色の瞳が髪が。


まるで月に包まれているかの様に輝いて見えた。


スピカをいつも眩しそうに見るノアにはこんな風に見えているのだろうか。


びっくりして泣き止んだ俺を見て、満足げに笑ったスピカはいつもと同じで輝いていなかったのに、可愛いなと思った。


あぁ、こんな風に俺のことをずっと見たりしないかな。


ノアとばかりつるまないで、俺の近くで笑っていたらいいのに。


去って行くスピカの手を掴めたら、何か変わるだろうか。


そんなことできやしないのに、いつまでもいつまでもスピカを見ていた。




そんなスピカがユリウス王子の婚約者に選ばれた。

見初められたって、スピカが?

ミアプラ姉さまならともかく、ちらりと見ただけで求婚されるわけ無いだろう。

そう思っていたのに、あっという間に婚約式を行いユリウス王子の婚約者になったのだ。

面白くなかった。


何でスピカが。


嬉しそうなスピカを見れば余計に苛々した。


俺はできる限り辺境伯邸に寄りつかなくなった。


そんな時、スピカが木から落ちた。


その話をするノアが真っ青だったので俺はスピカが大けがを負ったのだと思ったけれど、彼女はピンピンしていた。


いつもは二人で行く賢者の森についてきて欲しいとノアが頼んできた時に本当は気づくべきだったんだ。


「魔力の調子が悪いんだ、ユリウス王子の婚約者になったスピカと二人きりも良くないし」

俺には魔力がほとんど無いし、調子が悪いとかあるんだなとしか考えてなかった。

まさかノアが魔力を失ってしまっただなんて考えもしなかったのだ。


森の中でスピカは王子に婚約破棄されるのに、と不穏な言葉を吐いた。


何か王子と上手くいっていないのだろうか。

王子と楽しそうなのもムカつくけれど、スピカが悲しむのもイヤだなと思った。


そのスピカが死に戻りしていた、と言う。

3年後、ユリウス王子とミアプラ姉さまから婚約解消を頼まれて。

失意の中、あまり覚えてないけれど死んでしまったのだと。

そうして、空に登って行ったスピカを引き止めたのはノアだったと。

ノアが魔力を失ったのは、そのせいだったのだ。

ノアが魔力の全てを使って、スピカを死から戻らせたのだ。


俺は、ノアに叩きのめされた気がした。

いつもノアの優位に立っているつもりだったのに。ノアには勝てない、とこの時感じた。


それでも、俺もスピカを守りたいと思うんだ。


俺に嫌われてると勘違いしている、この鈍感な従姉妹を。


お前の護衛騎士になりたいのだと思っているのに。


守ってやりたいと思っているんだ、ずっと前から。


鈍感で残酷なスピカ、君のことを。









読んでくれてありがとうございます。

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