手探りで進むしか無いの
もう少しで捜索隊を組んで私を探しに行くところだったとお父様に抱き締められた。
「心配かけてごめんなさい。森の迷子がいたの」
嘘ではない。
その為に、私が迷子になったのではないけれど。
「あぁ、彼らは時に惑わす者。無事でよかった」
惑わす者では無かったわ。
彼らは私を守ろうとさえしてくれた。
現に私の掌や膝、その他の擦りきれた箇所は治っていた。
白い彼らが治してくれたのだと思う。
「ノアが私を見つけてくれたの」
「ノア。本当にありがとう」
「いいえ。元はと言えば、僕達がスピカを見失ったせいですから」
「そんなことはないよ。森の迷子を深追いしてはいけないと何度も言ってあっただろう、スピカ。追い続けると稀に彼等の巣に行ってしまい、そこは次元が異なるから帰るのは至難の業だと賢者のおばば様が言ってたじゃないか。ノア、スピカを見つけてくれて本当に感謝するよ」
ノアはお父様に頭を下げられ、戸惑っている様子だった。
「ごめんなさい、お父様」
あそこは森の迷子の巣だったのだろうか。
たくさんの白い影が、私を慰めるように寄り添ってくれた。
影は、レグルスお兄様に似ていたり、動物達にも見えた。
白いお兄様と白い動物達。
なんだか全てが夢のよう。
ねぇ、ノア。そう思わない?
あなたが私を戻らせたことも。
そのせいで魔力がなくなってしまったことも。
全てが夢だったら良かったのに。
今でも耳に甦るの。
(神様)
(お願いです)
(どうか彼女を生き返らせて下さい)
(自分の全てを捧げます)
(命も何もかも全てを)
(だから、彼女を生き返らせて下さい)
(スピカを連れていかないで下さい)
(スピカ、お願いだ)
(行かないでくれ)
(スピカ)
(スピカ)
(スピカ)
あんなに切なく誰かに名前を呼ばれたのは初めてだった。
死に戻った今でも、私の耳について離れないの。
あぁ、夢ではないからこんなにも心に残るのね。
私を好きではなくなったノアは二度とあんな風に私を呼んだりしないのでしょうね。
もう二度と聞こえない声だから、こんなにも胸に残って切なくなるのかしら。
私だけしか知らない哀切な声。
もう聴くことの無いノアの心からの声。
私、ずっと救われていたのよ。
あの声に。
私に生きて欲しいと乞い願ってくれたあの声に。
このまま何も変えずに生きていくのはもう終わりにしよう。
生きよう。
生きていかなければ。
そのためには何故私が死んでしまったのかを思い出さなければ。
過去に囚われずに生きていくために。
「…と、いう訳で私は死に戻ったのだけれど」
翌日、ノアとレオンと三人で話し合いをした。
レオンは終始難しい顔をしていた。
「大体、なんですぐに俺に話してこないんだよ」
ムスッとして話したのはまた仲間外れにしてたとのことで。
「だって、レオンに話してもしょうがないじゃない」
私が素直に話すとショックを受けた顔で黙り込んでしまう。
「でも、私がポロリとこぼしてしまったから。今日からあなたも秘密の仲間に入ってもらうから」
仲間というフレーズが気に入ったのか、レオンは満更でも無い顔になる。
「私は、このまま時を過ごして死んでしまってもいいと思っていたけれど、やっぱりこのままじゃいけないと思い直したの。どうにかして死なないための対策をしていかなきゃいけないと思うの。でも・・・」
「どうやって死んだのか、思い出せないんだね?」
ノアの言葉に頷く。
「そうだわ。この間、一つだけ思い出したことがあったの。レオンが卒業後は私の護衛騎士になって私を守ると言ったのよ。どうしてかしらね、私のこと嫌いなのに」
レオンは目を見開いて一瞬ポカンとした後、急に顔を真赤にさせ「スピカが望むならなってやってもいいけど」と早口で述べた。
「いや、そういうわけじゃないのだけれど」
私がレオンを落ち着かせようと発した言葉が効きすぎたようで目に見えて元気を無くした。
「だから、別にヤダとかそういうのじゃなくて。なんでかしらって。もしかして、そこに私の死の原因が隠れてるのかなって」
「わからねーよ、そんなこと言われたって」
レオンの言葉は最もなので私も黙り込む。
どうしたらいいのかしら。
いきなり行き詰まってしまったけれど。
それでも前に向かって少しでも進むしか無いのだわ。
「だから、おばば様の所に相談に行きたいのだけれど、付いてきてくれる?」
二人は当然だと言うように頷いてくれたのだった。
読んでくれてありがとうございます。
評価、いいね、ありがとうございます。
続きが気になるあなたのために、早く書けたらと思っています。




