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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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森の迷子

ミアプラお姉様がレグルスお兄様と学院へ旅立ってしまった。

見送りの私は大泣きして、レオンはちょっと泣いた。

ノアは少し眼を赤くしただけだった。

その翌日から、私達3人だけ屋敷で学習することになる。


私達はしばらく平穏に暮らしていた。

ミアプラお姉様がいない淋しさはあったけれど、三人でいるからなんとかなっていた。


ノアのくりっとした瞳に真っ直ぐ見られることにも慣れてきた。


レオンがすぐ、俺のこと仲間はずれにするな!と僻むのには辟易したけど。


私はいたずらに時を過ごしていた。勉強をやりながら三年後には死んでしまうのにと思ったり宮廷マナー等習っても無駄なのにと思って溜め息をつきたくなる時も多かったけれど、ただ以前の様に何も変えずに過ごしていた。

何かを変える気持ちにはなれなかったから。


久々に森の賢者のおばば様の所へ行こうと誘う。


「お父様の許可はもらったわ」と言えば、ノアも反対はしない。

レオンが二人の護衛としてついて行ってやると無理矢理ついて来た。また一人になって泣き出さなきゃいいけれど。


森の中に入ると白い影が私達の前を跳ねて行った。


私は「迷子だわ!」っとノアに声をかけ、その影を追いかける。

「えっ!待てよ!」

レオンの静止など、私が聞くわけがない。


夢中になって追いかけて木の根に足を取られて思い切り前に転ぶ。

地面に膝を擦りつけ、ズズーっと滑って止まる。

余りの痛さに涙がぶわりと浮かんだ。

手のひらの熱さに目をやれば、擦り切れて血が滲んでいる。


「スピカ、大丈夫?」

「バカだな!森で全速力で走るならもっと周りを見ろ!」

ノアに心配され、レオンに怒られ、私は唇を噛んで泣くのを堪えた。

そんな私の斜め前に、白い影がチラチラ揺れる。


「ノア!そこよ!迷子よ!捕まえて!」


森には動物もいれば時には魔物もいる。

他の森では危険らしいけれど、賢者の森に繋がるこの森は大して危険なことは無かった。

私達が手出しをしなければ相手も何もしてこないのだ。


時より白い影がいる時があるのだけれど、「それは森の迷子なのだよ」と賢者のおばば様に教わっていた。

その影が見えるのも、私達森に選ばれた者だけなのだ。


だから、もし見つけたら捕えておばば様の所へ連れて行き正しき道へ送ってもらう。


それがおばば様に託されていることだったから、私は久方ぶりに見た森の迷子を捕まえようと必死で走ったのだ。

こんなに思い切りすっ転んでまで。


動かないノアに苛立ちを混めて呼び掛ける。

「ノア?」

ノアは私を見て、首を巡らし見当違いの場所に手を伸ばす。


何度も空を切る手。


森の迷子は右へ跳ねて行ってしまった。


けれども私は追いかけることができずノアを見ていた。


「迷子は?」

問われても、私はノアを見ていた。


「ノア、あなた・・・」

喉の所で言葉が詰まる。

「なんで泣くのさ」

「だって、だって」

声が震えた。


「あなた、見えていないのでしょ?」

ノアは、じっと私を見つめて「そうだとして、なんで泣くのさ」と問い詰めた。


「だって、」

言えずに飲み込む言葉。


「そうだよ。僕は魔力がなくなってしまった」

「ノア!」

レオンがノアの肩を引く。

「言わないって言ったのはお前じゃないか」

「レオン。だけど、もう誤魔化しようがないから。この際だからハッキリ言うね。僕は魔力が無くなっちゃったから、学院には行かない。ここに残って辺境伯の元で、こちらの勉強をする。いつか言わなきゃって思ってたけど、いい機会だから」

そう言ってノアは真っ直ぐな目で私を見た。


「うそよ」

私の声は震えていた。


「だって、ノアは学院の魔術クラスにトップで入るんだから!そこからあなたは優秀な成績を修めて行って、まだ学生生活半分も残っている内にスカウトが来て、卒業後は入省が決まってたのよ」


そういう未来が決まっていたのよ。


「どうして、こんなことになってしまったの?ノアが私に黙ってたのは、私が関わっているからなの?」


「スピカ。冷静になって」


「私は冷静よ!だから、だからわかるの。あなたが私に何も言わなかったのは、私のせいだからなのね。私が死に戻ってしまったから、あなたの未来が変わってしまったんだって。前回のあなたにはこんなことなかったもの!」

肩を上下させ、泣きながら話す私を、ノアが困ったように見つめる。


「レオンの前でそんな風に話すこと事態冷静じゃないよ」

ノアの視線がレオンに移る。


「死に戻りって…」

信じられない、と言うように目を見開いて私を見てくるレオン。


私は泣きじゃくりながら首を振る。


そうして、森の中へ駆け出す。


「スピカ!」

二人の声を無視して、とにかく走った。


走って走って、再び転ぶまで。


息も苦しければ、手足も痛くて、涙は後から後から流れてくる。


私の前に白い影がふわりと踊る。

「あっちに行って」

私は顔を被って泣き続けた。


どこをどう走ったのか、覚えていない。

私よりも足の早い双子が、追いついていない。


何体もの森の迷子が私の周りを飛んでいた。


森の中、たった一人。


私も、迷子だわ。

いいえ、私こそが森の迷子なのだわ。









読んでくれてありがとうございます!

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