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何で私は戻ったのでしょうか?死に戻り令嬢の何にもしたくない日々  作者: 万月月子


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誕生会

忙しい一日が始まった。


私とミアプラお姉様はお揃いの薄紫のドレスを着る。

髪飾りも、身に付けるアクセサリーも全て一緒。

お母様が選んでくれるのだけれど毎年、頭の先から足の先まで全部一緒なのだ。

勿論、綺麗に可愛くしてもらえてとても嬉しい。

着飾った鏡の中の私は、いつもより1.5倍は可憐で可愛く見える。


けれども。


家族の待つ控えの間に足を踏み入れお姉様を見ると、私の二倍、いいえ五倍は美しいわと見惚れてしまう。


「可愛いわ、スピカ。ミアプラと双子のようだわ」

とお母様が声を上げる。


「本当に二人ともなんて可憐なのだ」

お父様が声を上げればお兄様も続く。

「天使なのか精霊なのか見間違う程だよ」

「ありがとう」


ミアプラお姉様とお揃いのドレスはとても嬉しい。

けれども、こう何から何まで全てお揃いにされてしまうと、私とお姉様の違いがはっきりしてしまうと思うのだ。


まるで水の妖精のように可憐なお姉様と、そうじゃない私。

凛として美しいお姉様と、そうじゃない私。


家族は私も平等に褒めてくれるけれど…。


私の僻みではないことは会場へ出て他の人を見ればすぐわかる。


皆、まずパッと目を惹くお姉様を見て見惚れて賛美の言葉を多く述べられてから私に目を移す。


そうして取って付けたように「スピカ様も可愛らしくなって」等、一言。


しょうがないわよね。

ミアプラお姉様の美しさは息を飲む程なんですもの。


あぁ、ほら。

会場にいらしたユリウス殿下も。

惚けたようにミアプラお姉様を見つめている。


こんなにあからさまなのに、なんで前回の私は気づかなかったのかしら。


「スピカや。美しいのお」

「あぁ、これで寿命が五年は伸びたわい」

「本当に眼福!」

三大魔導師のおじいちゃま達だけは、お姉様に目もくれず私を絶賛してくれるのだけれど。


ふと目を向けると、ユリウス王子は相変わらずミアプラお姉様に見惚れていた。でも、その横に立つウィル様は私を見ていた。

そうして、殿下の腕を引きこちらに気づかせる。

ユリウス王子は、ハッとしたように慌ててこちらにやってきた。

「スピカ。誕生日おめでとう」

「ありがとうございます」

「やや、これはユリウス王子」

「全くもってお目が高い」

「スピカを嫁に望むとは、感心、感心」

三大魔導師様達の言葉にユリウス王子は照れ臭そうに笑う。

以前、私はそれを喜ばしく見ていた。

でも違うのよね。

照れ臭そうに笑ったのではなく、自分が選んだのはミアプラお姉様なのにそんな風に褒めてくるから苦笑したのよね。


「スピカ、とっても可愛いよ」

「ありがとうございます」

ミアプラお姉様に見惚れていた姿を見ていなかったなら、どれだけ心が踊っただろう。


「本当に綺麗だね。スピカ譲によく似合っている」

ウィル様が目を細めて褒めてくれる。

「ありがとうございます」

ユリウス王子の言葉は痛いだけだったから、ウィル様の言葉の方がよっぽど嬉しかった。

「社交辞令じゃないのだけれどな。殿下の婚約者じゃなければ、僕が求婚したかった」

「ふふ。ウィル様ったら」

私が笑うとおじいちゃま達も笑い出す。

「残念だったのぉ」

「一足遅かったのぉ」

「徳が足らんかったかのぉ」

全員百歳越えの大魔導師様達がキャッキャとはしゃぐのを、ユリウス王子が引き気味に見る。


「大魔導師様達はスピカを随分と気に入っておられるのですね」


「そりゃそうじゃ」

「産まれた時から見守っているんじゃ」

「スピカが可愛い過ぎるんじゃ」

会場の中で、ここだけやらせ疑惑を持たれてもおかしく無い程、私を持ち上げるおじいちゃま達。


会場の花はお姉様だけれど、大魔道士様達を慕う魔術に関連のある人達はおじいちゃま達に倣って私に集い、賛美の言葉をくれに来る。


本当に申し訳ない。


私はいいので、ミアプラお姉様を絶賛してください。


心の中でそう思いながら笑顔で対応する。


前回、私はユリウス王子に選ばれたのだから自信を持って!と朗らかに笑えいた。


その自信をごっそりと無くした今は、引きつりそうな笑顔を浮かべることが精一杯だった。


ようやく人が途切れてきてホッとして周りを見回す。


レグルスお兄様がお客様と談笑する横にレオンとノアが立っている。


彼等も今日は頭のセットから足元の革靴までそっくり同じ。


今日のファーストダンスは婚約したてのユリウス王子と踊るのだけれど、次のダンスはノアと踊る。


ミアプラお姉様は最初はレグルスお兄様と踊り、次はレオンと踊る。


お母様は、これを楽しみに双子コーデを押し付けてくるのだ。


確かにノアとレオンが全く同じ格好をしているのを見ると可愛らしく感じる。


お母様はそれ羨んで、私とミアプラお姉様にお揃いを着せたがる。


双子兄弟対双子に寄せてくる姉妹のダンスは、毎年誕生会で好評を得ているので、今年も外せない路線なのだ。


見ている視線に気づいたのか、ノアがこちらを向いたけれど私はぷいっと顔をそむけた。


どんなに訊いても頑なに口を閉ざすノアに怒っていたから。


謝ってきても知らん顔をすると決めている。


大体ノアのくせに生意気だわ。

私に内緒ごとなんて。

私なんて死に戻りの秘密だって、ノアには話したじゃない。


ここ最近の元気の無いノア。

大魔導師のおじいちゃま達の言葉。


ノアに何か起こっているのは確かなのに。

何も教えて貰えない私は、どうすればいいの?


前回はこんなことなかったわ。

ノアと誕生会にけんかしたままなんて、決してなかった。

寧ろいつもよりノアやレオンにさえ優しく接した筈だ。

ユリウス王子の婚約者になれ、上機嫌な私だったから。


あの時、私は夢心地でユリウス王子とダンスを踊ったわ。

この幸せを忘れないようにしようと、日記にまで記して。


けれども。

私は優しく微笑むユリウス王子に作り笑いを返し、冷えた心地で王子の手を取る。


本当はミアプラお姉様と踊りたかったでしょうね。


ユリウス王子と踊れる高揚感は無かった。


三年前、王子様は踊りも上手なのね、と思ったことを覚えている。

緊張で覚束無い私を上手にリードして軽やかに踊らせてくれたのだったわね。


今日のあなたも、とても素敵だわ。あの時と同じ様に煌めいて見える。


シャンデリアの光の下で、キラキラするユリウス王子を見つめた。


前回は恥ずかしくて見られなかった瞳を、しっかりと見つめた。


三年間だけの、私の王子様。

目に焼き付けておこう。


本当は、今も、これからもミアプラお姉様の王子様なのにね。


こんなに物悲しい気分でダンスをすることなんてあるだろうか。


私は何で死に戻ってしまったのかしら。


会釈して離れる時、ユリウス王子が何か言いたそうに口を動かしたけれど気付かないふりをしてノアの手を取った。


踊り慣れたノアとのステップ。


「僕が君の足を踏んであげようか?」

いきなりの言葉に思わずノアの瞳を見つめてしまう。

「そしたら、スピカ泣けるだろ」

「絶対いや」

あぁもう、喋らないつもりだったのに。

「だって泣きたいような顔してたじゃないか」

「私、昨日の方が泣きたい顔してたはずよ。ノア、あなたがそうさせたのに」

「・・・ごめん」

ノアのこげ茶の瞳が揺れる。

「別に、いいわ」

謝っても許さないって思ってたのに。


ノアは謝ってくるタイミングが絶妙に上手いのだ。


本当は許していないけれど。

その内、何を隠してるのか絶対聞き出してあげるんだから。

ノアの瞳を見ながら決意を固める。


「目を眇めないノアの瞳って、案外綺麗なのね」

私の言葉に目をパチパチするノア。


「眩しく無いスピカの瞳もすごく綺麗だよ」


ちょっと待って。


そんな風に褒められたら顔が赤くなるじゃないの。


眩しい眩しく無いは置いといて。


ノアの言葉は社交辞令なんかじゃないと信じられるから。


「ありがとう」

はにかんで笑うと、ノアも笑った。


その後は珍しくレオンが誘ってきた。


「どうだよ?俺との方が踊り易いか?」

本当に、ノアと張り合うの好きね。

「どうかしらね。」

「ちゃんと贔屓しないで答えろよな」

「ふふ。ノアもレオンもどっちも踊り易いわ」

「ずるい答え」

「ふふふ」

わたしが笑い続けるので、レオンは苦笑して「まぁ、いいか」と呟いた。


次はウィル様が誘ってくれて、素敵なダンスを体験させてくれる。


上には上がいるものね。

「ウィル様はダンスの達人なのね」

私の言葉にウィル様は大層嬉しそうに笑った。

ウィル様が、女性に人気なのがわかるわ。


楽しくなんて過ごせそうも無いわ、と思っていた誕生会だったけれど。

それなりに楽しく過ごせたのだった。




読んでくれてありがとうございます。

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