追っ手から逃げろ!
(21)追手から逃げろ!
皿屋敷の儀式が終了し、感無量のお菊さん。
武は千秋楽を終えたお菊さんに声を掛けた。
「お菊さん、良かったよ!」
「やっと、終わった。うぅぅぅ・・・」
お菊さんは感情が高まって泣き始めた。
武は猫と目配せしながら、お菊さんを待った。
しばらくすると、お菊さんは落ち着いたようだ。
武に向かって言った。
「じゃあ、帰ろうか」
武と猫とお菊さんは本物の『お菊の皿』9枚を持って、姫路城の城門を出た。
城門の前には信子が待っていた。
信子は武たちに近づいて「その車に乗って」と言った。
そこには黒塗りの車があった。
武たちが車に乗り込むと車は発進した。
自衛隊員らしき男性が車を運転している。
車内で武は信子に尋ねた。
「この車どうしたの?」
「ちょっとマズイことになってね。姫路から離れないといけなくなった」と信子は言った。
「どうして?」
「米沢派の残党が姫路駅にいた情報が入ったの。私の実家があるから奴らが来ても不思議じゃないわね・・・」
「それはそうだね。それで、今度はどこに行くの?」と武は信子に聞いた。
「東京!」
「東京? なんで?」
「人が多い所の方が見つかりにくいでしょ。『人を隠すなら人の中』って言うでしょ」
そういう諺は無いが、武は意図を理解した。
「あ、そう。ムハンマドはそれでいいの?」武は猫に聞いた。
「俺は別にいいぞー。暇だしなー」と猫は呑気に答えた。
「お菊さんはどうする?」
今度はお菊さんに尋ねた。
お菊さんは考えている。
400年以上姫路に居たのだから、離れるのに抵抗があるかもしれない。
でも、お菊さんはこれから人間界で生きていかないといけない。
姫路に残ると身動きがとりにくいだろう。
お菊さんが迷っているのを察して、信子は言った。
「お菊さんの給与は研究所から払うから、お金の心配はしなくていいよ」
お菊さんは少し迷ったうえで答えた。
「私も行こうかな。東京に行ったことないし・・・」
車の外を見ると、陸上自衛隊の姫路駐屯地が見えてきた。
信子の話では、輸送機で東京の朝霞駐屯地に向かうようだ。
武は姫路での2日間を振り返った。
播州皿屋敷伝説を解決できたし良かったー。
お菊さんは400年の皿屋敷伝説を振り返っているようだ。
目に涙を浮かべている。
― チーン
明珍火箸の音色が聞こえたような気がした。
輸送機の音がうるさいから、気のせいか・・・
<終わり>
【後書き】
少年と猫が皿屋敷伝説に挑んだ姫路での2日間。
第1章がスタートしてから、5日目です。
長くなりそうです・・・
少年と猫の冒険は、第3章『僕と猫とゲートキーパー』に続きます。
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