お菊さんを仲間にしよう!
(13)お菊さんを仲間にしよう!
お菊さんは『まさか私の体・・・』と一瞬考えたが、相手は小学生だ。
それはないだろう。
「武くん、条件って何?」とお菊さんは恐る恐る武に聞いた。
「お菊さんは強いの?」と武は言った。
お菊さんは武の質問の意図が分からない。
『強い』ってどういう意味だろう?
― 戦闘力が高いということだろうか?
雪女の戦闘力は人間の比ではない。人間よりも強いに決まっている。
― 意思が強いということだろうか?
400年も幽霊のお菊さんを続けているから、意思は強いだろう。
― 運が強いということだろうか?
運が良かったら400年もこんなところにいない。
― 性欲?
いやいや。相手は小学生だ。
考えても分からないから、お菊さんは武に確認することにした。
「強いって、人間より強いって意味?」
「そうだよ」
「そりゃ強いわよ。雪女を舐めないでほしいわね」
「どれくらい強い?」
「そうね。実際に見せた方がいいか」
お菊さんはそう言うと、社殿の近くにあった石碑を真っ二つにした。
「すごいなー。どうやったの?」
「私は水分を操作できるんだ。水分を超高圧で飛ばしたの。ウォーターカッターとかウォータージェットは知ってる?」とお菊さんは武に聞いた。
「分かるよ。熱に弱い物質を切断・加工する時の圧縮した水流だよね?」
「そう、それ。そのウォーターカッターで石碑を切ったの」
「すごいなー。人間も切れるの?」と武はお菊さんに聞いた。
― 人間も切れるの?
お菊さんは返答に困った。
武の条件が『誰かを殺してほしい』かもしれないからだ。
殺人を依頼してくるのか?
「人間も切れると思う・・・」とお菊さんは小さな声で答えた。
「人間を切ったことある?」と武は笑顔で質問した。
― 人間を切ったことある?
お菊さんは確信した。
これは殺人の依頼だ・・・。
お菊さんはこの依頼(殺人)を断ることにした。
「あるけど、今はやらない。必要がないから」
「あるんだー。誰?誰を切ったの?」と武は笑顔で言った。
武はお菊さんが誰を殺したかに興味があるようだ。
笑顔で聞いてくるところが恐ろしい・・・。
お菊さんは殺した相手をぼやかして答えた。
「大昔にね。むかつく坊主がいたから・・・」
「ひょっとして、『あれはお菊さんではない。別の霊だ!』って言った坊さん?」武は笑顔で聞いた。
あの坊主がよほど憎かったようだ。
お菊さんには“あの時の感情”が蘇ってきた。
「そうよ、あの坊主よ。青山家から法外な金額をむしり取ろうしてきたからね。あんなクズは死んだ方が良かったのよ。全身バラバラに切り刻んでやったわ」お菊さんは声を荒げて言った。
「それからは殺してないの?」
「殺してないわよ」
「合格!!!」と武は言った。
― 何が合格なんだろう?
暗殺者として?
「え?何が?」お菊さんは武に言った。
武はお菊さんの目を真っすぐに見据えて言った。
「お菊さん、僕のボディーガードにならないか?」
変わった小学生だ・・・。
でも、殺人を依頼してくるよりはマシだろう。
「え?ボディーガード?」
「そう。僕は悪い奴らに追われていて、姫路に来たんだ。姫路までの移動は自衛隊に警護してもらった」
「へー。武くん、狙われてるんだ」
「そうだよ。今は母さんの実家にいるんだけど、いつも自衛隊員が駆けつけてくれるわけじゃない。だから、強いお菊さんがボディーガードをしてくれたら、僕としてもありがたい」
「それが条件?」
「そう。それに、お菊さんも幽霊を辞めたらする事ないでしょ?」
確かに、お菊さんは幽霊を辞めたら特にすることがない。
この小学生は痛いところを突いてくる・・・。
「そうだけど・・・」
「これからお菊さんは人間の世界で生きていかないといけない。仕事しないといけないし、次の旦那さんも探さないといけないかもね」
お菊さんは今後の人生を考えた。
確かに人間の世界で生きていくことへの不安はある。
「武くんが言ってることは分かるけど、私に務まるのかしら」
「返事は幽霊の件が片付いてからでいいから、考えてみてよ。僕もそれまでに父さんと母さんに、お菊さんの給料を払えるように交渉しておくから」
「え?給料を払って、私を雇うの?」
「そうだよ。仕事があれば、お菊さんも人間の世界で生きていけるよね?」
武はお菊さんを仲間に引き入れようとしているようだ。