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幽霊の責務

(12)幽霊の責務


お菊さんの話は小泉八雲の雪女と酷似している。


青山鉄山の妾だった。鉄山との間に子供がいたから姫路を離れなかった。

これが今もお菊さんが姫路にいる理由なのだろう、と武は推測した。


お菊さんが青山鉄山の妾だったとしても400年も前の話だ。

まだ姫路に留まり続ける必要があるのだろうか?


武はお菊さんに尋ねた。


「お菊さんが青山鉄山を愛していたことは分かったよ。子供がいたから姫路を離れられなかったのも分かった。でも、もう事件から400年も経っているよね。まだ姫路に留まる理由はあるの?」


お菊は武に理由を説明するために考えている。お菊はしばらく考えてから言った。


「別に・・・」


武は都合悪くなるとよく『別に・・・』と言う。

お菊さんの『別に・・・』は武の『別に・・・』と同じ意味だろうか?


「別に、ってどういう意味?」


「そうね。理由は特に(別に)ない、って意味」


「理由もなく400年姫路にいるの?」


「確かに、最初の100年は理由があったわ。私の子供の成長を見たかったし、孫の成長を見たかった。ついでに言うと、ひ孫も見たかった」


「何となく分かるよ」


「でも、青山家の人間と私は寿命が違う。鉄山がおじいさんになっても、私は若いまま。青山家にいられたのは20年が限界だった」


「僕も猫から同じことを聞いたことがある。猫も寿命が長いから死んだことにするんだって。『猫は死に際にいなくなる』って言うでしょ」


「私と同じね。青山家で暮らし始めて20年経ったころ、私は家を出た。こんなに若いおばあちゃんが世間に知られたら、青山家に迷惑が掛かるしね。それで、私の子供や孫の姿を見るために姫路に留まったんだけど・・・」


「ひょっとして、また誰かに見られた?」


「ええ、よく分かったわね・・・。その時に考えたの。『幽霊のお菊さん』として出てくれば、私の子供や孫の姿を見られると思ったの」


「また、『いちま~い、にま~い』したんだね?」


「そう。『幽霊のお菊さん』として子供や孫に会うために・・・」


お菊さんが幽霊を演じていたのは、子供や孫に会うため。

そしてこれが、『幽霊のお菊さんを青山家の人間が鎮める』家業となったのだろう。


そうだとして400年も続ける必要はないはずだ。


「なぜ、その後も『幽霊のお菊さん』を続けていたの?」


「うーん。何て言えばいいんだろうなー。惰性?」


「だせい?」


「幽霊を演じ始めた当初は、子供や孫に会うという明確な目的があったと思う。でもね、数百年も近く幽霊を演じ続けてしまうと、幽霊を演じることが目的になってくるのよ」


「手段が目的にすり替わったのかな?」


「そういうことだと思う。何かの本で読んだけど、仕事人間に多い傾向らしいよ。その本を読んだ瞬間に思ったわ。『あー、私の幽霊(仕事)はこれだ!』ってね」


「『幽霊のお菊さん』が必要なければ、辞めたらいいんじゃないの?」


「武くんは簡単に言うけど、けっこう難しいのよ。例えば、武くんはサンタクロースを知ってる?」


「知ってるよ。子供たちにプレゼントを配るおじいちゃんだね」


「そう。サンタさんも初めは恵まれない子供のためにプレゼントを配っていたと思うの。でも、今は子供たちが当然のようにプレゼントを貰えると思っているから、サンタさんはプレゼントを配らないといけないのよ」


「僕だったら配らないね。お菊さんはプレゼントを配る派?」


「そうね。私は配るわ。それがサンタクロースの責務でしょ」


「そうかな?僕には分からないなー」


「要は、世の中には『止め際が決められない人間』が一定数いるの。私の場合は、『幽霊のお菊さんとしてあるべき振舞いをすること』が責務なの」


「幽霊の責務?」


「ええ、幽霊としての責務よ。私はね、その責務を守っているのよ・・・」


「お菊さんの性格は分かったよ。それで、お菊さんはこれからも幽霊を続けたいの?」


「正直に言うと辞めたい。でも、幽霊として責任がある立場だから、自分から辞めるとは言い出せない・・・」


「お菊さんって、責任感が強いタイプなんだね」


「そうだね・・・」


「じゃあさ、僕が『幽霊のお菊さん』を辞めるきっかけを考えてあげるよ。そうすれば、お菊さんも辞められるでしょ?」


「ありがとう。武くんは優しいね」お菊さんは武に感謝している。


「その代わり・・・、条件が1つある」と武は言った。


― まさか私の体・・・


齢700歳を超えるお菊さんは小学生の条件に身の危険を感じた。


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