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その1

こんな夢を見た


ボロビルの地下室で男は寝ていた。地下室の広さは10畳くらい、コンクリート剥き出しのただ寝るだけには広すぎる場所だった。男は毎夜ここで寝ている。


ギギギッ、ギッ


何やら天井から甲高く軋む音がする。そういえば先週あたりから音が鳴っていたが、そろそろ天井が崩れるかもしれない。


この男、鈴木雄太はすぐに飛び起きて地下室から逃げる状況なのだが、雄太は自分は被害に遭わないという確信があった。


グシャ  ドドドドドッ!!!


天井が崩れる。致命的な音の直後に上から機材と鉄骨が落ちてくる。


耳を覆いたくなるような音が地下室に響き、あちこちが機材でグチャグチャになっている。


しかし、なぜか雄太のところには落ちていない。雄太は天井が崩落する様子をぼうっと眺めていただけだった。


「・・・片付けとかめんどくさいなぁ。」


いや、片付けどうこうではなく下手したら雄太は肉塊になっていた状況だったし、むしろビル自体解体が必要な状況になっているのだが。


呑気すぎる考えは時間が経過するとともに無くなり雄太は腹が立ってきた。それは命が危なかった事よりもお気に入りの地下室でもう寝れない事への怒りだったが、徐々にここを紹介した悪徳不動産屋に代わりの優良物件と示談金を請求するためにいかに自分が酷い目にあったかというストーリーを考えていた。


しかし、雄太は不動産に対する知識がない。ただ怒鳴り散らしてもクレームに対して百戦錬磨の不動産に言いくるめられるかもしれなかった。それは腹がよけい立つ。


翌日、雄太は不動産屋に向かう前に友人宅に寄った。朝イチにRineで友人に不動産についてきて欲しいと頼んだのだ。友人の家に到着して玄関前でRineで到着したことを通知する。


数分すると友人が出てきた。


「やあ雄太、昨日は災難だったみたいだね。」


そう言って玄関から出てきた女性は東山花梨という。歳の頃は20代半ば、髪はセミロングで服装はファストファッションを着ており、快活そうな印象を受けた。


「災難だったみたいだね、じゃなくて死にかけたんだよ。あれで怪我ひとつしてないのは奇跡だ。」


「それは嘘だね。君はそんな目に遭っても何とも思わないし、そもそも君には何もなかったのだろう?」


花梨はそれが当然なのだと確信していた。それなりの付き合いだ、大体の予想がつく。


「それに、これから不動産に行くのも代わりの物件を紹介させるだけでなく、半ば言いがかりをして示談金をふんだくるつもりだろう?」


# こんな夢を見た2


「君は鬼か。あれはやりすぎだろう、不動産屋あとひと押しで示談屋を呼ぶところだったぞ。」


「そんなの向こうが悪いんだから、絞れるだけ絞らないと次の被害者が出るだけだって。俺は良い事したんだよ。」


この男自省という文字をどこかに忘れてきたようだ。


雄太は不動産屋が今回の件で下手に出たことを良いことに優良物件の紹介のみならず示談金を限界ギリギリまで払わせようと粘ったのだ。あと10万円吹っ掛けていたら不動産屋はキレて示談屋を呼んだだろう。


示談屋が来たくらいふたりで何とかなるが、その後物件を紹介してもらえないことやブラックリストに載るのは花梨は勘弁して欲しかった。


「もう私をこういうトラブルに巻き込まないでくれないか、私だって立場ってものがある。」


「そう言うなって、示談金の2割は約束通り払うからさ。ほら。」


そう言うと雄太は花梨に示談金が入った袋から2割相当の札束を渡した。


「まあ私はちょっと横で法的根拠をアドバイスしただけだが、受け取っておこう。」


そう言って花梨はその札束をバックの中に入れた。先ほどまで雄太にやりすぎだと説教していた人物とは思えない。


「で、君はこの後どうするのかね?」


「うーん、とりあえず紹介された物件にさっそく行ってみるよ。今回の物件はオーナーが住んでいるらしいし、挨拶がてら寄ってみる。悪いんだがその物件まで車で送ってくれないか。」


「ああかまわないよ。それくらいはお安い御用さ。」


雄太は花梨に車で次に住まう物件に送ってもらうことにした。


そこは少し郊外にある大きな建物だった。昔流行ったペンションを今風に仕上げた印象の建物。マンションというより宿という雰囲気である。


「まじかぁ、昨日まで住んでいたボロビルの地下室から見たら異次元の物件だわ。いや、あれはあれで住み心地の良い場所だったが」


「確かにここは君には不似合いな物件だな、そもそも君にここに住まうだけの支払い能力があるのか疑問だよ。」


「それ、俺に失礼じゃないかな。俺むしろ今まであのボロビルに住んでいたから金はあるんだよ。」


「それはおかしいな、君金がないから不動産屋から金をふんだくったのではないのかね。」


「無いのは遊興費のほう。俺は複数の口座持っているの、家賃向けの口座はたんまりあるんだわ。」


「君は会社の経理みたいな事をするんだな、たんまりあるならそこから出せば良いのに・・・」


そう言うと花梨はまた呆れた顔をしていた。


そこにひとりの男がが現れた事で会話は途切れる。


男の年齢は50代半ば、いやもっと若いかもしれない。


「こんにちわ、鈴木様ですね。私はこのマンションのオーナーの久沢です。」


男はそういうと手を差し伸べてきた。


雄太は鈴木と握手をした。


「初めまして久沢さん、私は鈴木雄太と申します。今日はあく・・・木村不動産さんからのこの物件の紹介を受けまして見学に来ました。よろしくお願いします。」


「雄太が好青年に見える・・・」


花梨が何か呟いている。


それを無視したかたちで久沢と鈴木の会話は進んでいく。


「それではさっそく鈴木さんの部屋を紹介しますね。」


そう言うとオーナーの久沢は雄太をマンション内に案内するのであった。


雄太と花梨は久沢の後ろについていくいく。


「ここが鈴木さんの部屋になります。」


久沢は扉を開けて雄太と花梨に部屋に入るように促す。


雄太と花梨が玄関に入るとマンションの形状はよくある2LDKだった。


そして部屋を見て回る雄太と花梨、その様子を見て微笑む久沢。


「まあ、良いんじゃないか。でもちょっと広いかな。」


「でも、奥さんとふたりで住むにはちょうどの広さだと思いますよ。」


久沢はそう言ったのだが、言われた雄太と花梨はポカンとしている。


「ああ、久沢さん。俺たちふたりは夫婦ではありませんよ。ただの友人です。」


雄太は手を左右に振りながら否定していた。


花梨はその様子を見て苦笑していた。


「それは失礼しました。てっきりおふたりはご夫婦と勘違いしていました。」


久沢は軽く鈴木たちに謝った。


「良い部屋ですね、気に入りました。ここに住むことにします、手続きはどのようにすれば良いでしょうか。」


「ありがとうございます。手続きの書類はこちらにお持ちさせてもらいますので、居間でお寛ぎください。」


久沢ははそう言って部屋から出ていった。


「もうここに決めてしまうのかね。少し早計ではないだろうか。」


「いや、多分ここ以上の物件はないと思う。カンだが。」


「君が決めたなら私が口出すようなことではないね。好きにしたまえ。」


この後雄太は賃貸の契約を済ませ、さっそく住むことにしたのだった。


# こんな夢を見た3


朝目覚め見慣れない周囲に気づく。


地下室ではない、あの地下室は昨日の崩落でぐしゃぐしゃになってしまい、もう住める環境ではなくなった。だから今いるのはその後悪徳商会に紹介させた優良物件である。


置き時計を見ると6時20分いつも起きる時間帯よりより少し遅い。


雄太は布団から出て寝ぼけた頭をはっきりさせるためにシャワーを浴び、今日は何をしようか考えたり、何するんだったか思い出したりしていた。


自分の部屋を出て一階に降りると101号室の久沢が声をかけてきた。


「おはよう鈴木さん、昨日はよく寝れたかね?」


「おはようございますオーナー。良い部屋だったんでよく寝れましたよ。」


「そりゃよかったよ。どうだいこの後朝食でも?」


「良いんですか?まだ何も食べていないから助かります。」


「それでは7時に101号室に来なさい。」


「分かりました。」


雄太はそれからマンション周辺を散策した後7時少し前に101号室に辿り着きチャイムを鳴らした。チャイムを鳴らしてすぎに中に入るように言われた。扉は開いていた、自動開閉式のようだ。


部屋に入ると自分の部屋の構造とは違っていた。玄関は間取り広く取られており、玄関を抜けると3階まで続く吹き抜けがあった。どうもオーナー宅だけは特別設計のようだ。


吹き抜けの向こうにある通路からオーナー久沢が出て来た。


「ようこそ我が家へ、歓迎するよ。ささっ、此方へ芳しいコーヒーが君を待っているよ。」


「お邪魔します。コーヒーですか、好きなんで楽しみですよ。」


久沢に導かれるまま通路向こうの部屋に入るとそこは食卓だった。


食卓の周囲にはデザイン重視の商品がいくつも置かれていた。


どれもその筋の人が見たら驚くようなものばかりの高額商品、希少商品ばかりである。


「これはなかなか。」


「ああ、これらかい?どれも私が手がけたものばかりだよ。」


「えっ!これら全部オーナーが手掛けたんですか?」


「そうだよ。少なくともデザインは私が手掛けたものだよ。」


ハイエンドスピーカーである名機ノーチスオリジナルに、ローチス社のバイクSU7800


、ロボットアニメのヒット作オーディス(のプラモデル)、他にも雄太は知らないが一見して一流とわかる商品が所狭しと並んでいる。


「これを全てオーナーがデザイン・・・、すげえ。」


「私が手掛けた品を知っている人がいるのは嬉しいものだね。」


「オーナー、デザイナーだったんですね。」


「昔の話だよ。今は引退してここでマンションのオーナーをしているんだ。」


久沢はいくつか手掛けた品を眺め懐かしそうな顔をしていた。


「このノーチスのスピーカーなんて憧れの逸品でしたよ。」


「そう言ってくれると嬉しいね。さて、自慢話はさておき朝食にしよう。」


「そうですね。」


朝食はシンプルにトーストにハムエッグ、サラダ、コーヒーである。


ありがちな一品ではあるが、トーストのイーストの香り、コーヒーの香しさ、どれも食欲をそそるものばかりである。


雄太は二日前の地下室崩落から今の状況の落差に笑うしかなかった。


夢はここで唐突に終わります。


つまり作者がここで目を覚ましたのです。この後雄太と花梨、そしてオーナーがどのような物語を積むんで言ったかは夢を見ていた私には分かりかねます。

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