4話
冒険者登録には、専用端末機と身分証明になるステータスプレートが必要になる。後者はこの世界に生まれた時に必ず測るもので、自分で持ってくる必要があるものの、前者に関しては冒険者ギルドで無料に貸し出しされることが許可されているものだ。
とは言え、この制度を利用する者は殆どいない。専用端末機というのは、言わゆるスマートフォン。これには所持金を入れる機能があり、現金より安全な為、きょうび使わない人なんていないくらいだ。あくまで両親が早くに亡くなってしまい資金に余裕がなくなってしまった子供に向けた制度であり、エストも例外なく専用端末機を所持している。
では多くの者が持っている専用端末機が必要な理由は何か。それは冒険者登録の際に必要な機能を導入する為だ。
ステータスプレートと同じ身分証明の登録。また個体識別可能なカメラによる討伐記録。そして、ステータス内容から算出される推奨受注クエスト。
前者は、専用端末機が通常の身分証明となるステータスプレートよりも何十倍と頑丈な機能を持っているので、仮に殺された場合に誰なのかを分かりやすくする為。データが無事ならば復旧可能だし、登録を済ませていれば端末が破壊された時に冒険者の方に記録が届く。
後者は、精密なカメラ検査が可能な機能。種類が同じでも個体差を感知して、遺伝子状双生児だろうとも見分ける事が可能なものである。一度記録した個体を再度登録しようとするのは不可能であり、まだ生きている場合にも記録不可。あくまで調査を依頼された場合は、これとはまた別の『個体識別情報記録』を使う事になる。
最後者は、ステータスプレートの内容から受けるべきクエストを推奨する機能。冒険者の依頼は全て専用端末機で受けることが可能で、受付ではあくまでそれを読み込んで受理するのみ。ギルドに赴く必要があるので余計な機能なのでは無いかと思ったが、これは推奨されてない依頼を受ける際の引き止めが目的らしい。機械音声よりも人の声の方が引き止めには効果的なのだ。あくまで自己責任になるので、本人の意思を尊重する以上は無理に強いることなどないが。
他にもパーティー登録機能や依頼達成報酬送金の為のデータ登録などの理由があるが、ギルドに登録する故に追加される大まかな機能はそんな所だ。
このアプリは冒険者が自ら削除する事は殆どの場合は不可能である。唯一ギルド職員として勤めていた場合は可能だが、職員から冒険者に転職したとしてもそんな事をする人物は殆どいない。このアプリは容量をそこまで使わないし、必要な分は登録金から引いて冒険者ギルドでアップグレードをしてくれる。メリットこそあれど、デメリットなんてないのだ。
削除するのは冒険者としての身分を消したいと思った人に向けての機能。職員に依頼すればアプリ削除と同時に冒険者として達してきた記録が綴られているデータ・或いは資料を渡される。それを次の職の為に活かせ───。
「と、大雑把に説明すれば以上になります。何かご質問はありますか?」
「あ、いえ。勉強してた通りなので大丈夫です」
「では登録を済ませますので、ステータスプレートと端末をお出し下さい」
あくまで説明も形式上のものなのだろう。この世界の人は殆どが賢い。義務教育を終える段階に入っていれば、殆どの場合は必要な事前知識を蓄えている。この説明はあくまで【知力向上】を所持していない人に向けての説明だ。
エストは自身のポーチから専用端末機とステータスプレートを取り出し、女性職員に預けた。彼女はそれを受け取ると「5分ほど席でお待ち下さい」と言い残して奥の部屋へと入って行った。
彼女の言う通り受付場を離れて席に座り、ギルド全体を見渡す。よくあるネット小説では酒場との併合で騒がしい……というイメージではあったが、そうでもないらしい。あくまでも依頼の受理と達成報告、また登録受付と冒険者に関するモノの売買と言ったところだ。
ある意味では酒場との併合は正しいと思ったことがある。なんせ騒がしいならば、一つの声など気に止めることはない。個人情報に関するそれを口に出されたとて、簡単には耳に入らないからだ。情報漏洩を防ぐ目的ならば防音というモノに詳しくない時代だと悪くない選択ではある。
まあこの世界に関して言えば、個人情報に繋がる事は口頭ではなく端末のみで行うし、それを実行する場所も全て防音で囲まれているから、そういった手段を取る必要はないのだろう。エストはそう結論づける。
ただまあ同時に、個人情報の大事さは前世よりも強化されてる程だと思った方がいいだろう。必要に応じた能力を合わせるという目的以外では開示されないと思った方がいい。つまり、エストと同じように【世界耐性】を剥がした特化能力の持ち主とは偶然以外で知り合う事は不可能だという事。
めぼしい噂話も聞かないしな、と。そうボーッとしていると、ギルド内に居た二組の内の一組───片方は自分より少しだけ年上の子供で結成されているパーティーだったが、そうではないもう一組の大人達。年は20〜30とまばらに構成されてるパーティーのリーダーらしき大男が対面の席に座ってきた。
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