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8話





「……うーん、やっぱり分かってる事は少ないわね」

「だな」



 街中で話すことでも無いので、一先ず森に入ってから、あの白い空間での事を話し合う。前世の事情がどうとかの前置きから、どんな意識を保ってあの白い空間に訪れたのか。

 しかし前世での身体の状態、死亡した理由から後は殆ど同じ状況。ふと落ち着いた状態で白い空間にいて、何故だか余裕があるような状態で、温もりを感じる四角い石に触れた。


 全てのスキルを剥がしたら51ポイントが残ったので、自分の前世の趣味から好きな自分を作り上げた。それが現在の彼女……アリアという訳である。



「スキルの構成は?」

「見ての通り、【エルフ】に一つと【美形】に五つ。後は私がイメージするエルフって感じで、火・水・氷・風・雷の五種類の魔法。【五感向上】【速度向上】【動体視力向上】に三つずつと、【体力向上】に二つ、【筋力向上】に一つ。【自然回復】を一つ、【身体操作】と【弓術】を一つ。残りは全部【MP保有量増加】と【知力向上】に注ぎ込んだわ」

「……豊胸とかに使わなかったのか」



 巨乳のエルフとかよく出てくるイメージがあるけど、と。それほど数は多く無いものの、ネット小説に偏っている知識を引っ張り出すと、苛立つように額に青筋を浮かべる。

 流石にデリカシーない発言だったと気付き、訂正の言葉を紡ごうとするが、それよりも早くアリアが言葉を捲し立てた。



「あのね、エルフはスレンダーこそ在るべき姿なのよ! いえ確かに私は【貧乳】を選択した訳じゃ無いから必ずしもスレンダーになるとは限らないわ、でもね! あんなボインボインと跳ね上がって男子の性的な視線を集めるだけの邪魔な脂肪なんて必要ないのよ!」

「…………巨乳に恨みでもあるのか?」

「前世のせいでね! お陰で私は女子に嫌がらせされるわ男子にはビッチ扱いされてヤらせてくれと頼まれるわクソジジイに援交相手に間違われるわ! 処女は守ったけどね!」

「高らかにそんな宣言されても困る」

「貴方はいいわよ。前世は寝たっきりって言ってたし、そういう欲は無かったのでしょう?」

「人並みにはあったと思うけど、肉欲的な関係を持ちたいと思ったことは確かにないな」

「で、スキル構成に【精力向上】も【陰け」

「その見た目で下ネタ連発されるのは精神的にくるのでやめて下さいマジで」



 躊躇ねぇなおいと言いたげに顔を覆い隠して言葉を遮ると、アリアは表情をキョトンとした後に、即座にニンマリと変化させて顔を近づけさせる。



「……なんだよ」

「別にぃ?」



 普通はドン引きとか、或いは強気に見せて迫るかの二択だろう。少なくともアリアが今まで見てきた男性はそうだった。自分が30を過ぎる辺りになればそういう視線も少なくなっていたのだろうが、生憎と学生の間に亡くなってしまった彼女にとっての身近の存在は思春期の男。淫語でも言ようものならここぞとばかりに迫る。

 女子同士の軽い会話に挟まってくる男子を見てるから、その印象が根強い。


 が、ドン引きする様子もなく、はたまた乗ってくる様子もなく。単純に照れでストップを掛けたエストに、「こういう男もいるのね。精神的には30近いから?」と興味深そうな視線を向けていた。



「……そういや、【寿命伸化】のスキルは取らなかったのか?」

「ええ。エルフっていうと、長命なイメージでしょう? だからてっきりエルフを選んだ時点で寿命は伸びると思ってたのよ。それに関しての情報が無かったから、てっきりね」

「あ、それと健康も無かったな。赤ん坊の頃は平気だったのか?」

「……? 何が?」

「え、いや。世界耐性は持ってないんだろ? だから転生時の高熱とか速い心拍に耐えれたのか、って」

「…………?」



 話が噛み合っていない訳じゃない。正しく理解して、それで思い当たる節が無いという反応だ。



「産まれた時の記憶は?」

「あるわ」

「俺は産まれた時の数分弱、赤子の身体じゃ負担が掛かり過ぎる程の高熱と心拍数だった。けどその後、【健康】のスキルの効果でそれは治った。だから産まれてから数分は外見的特徴に影響を与えるスキル以外の定着は出来ないんだと推測してる。その間、【世界耐性】が剥がれた反動で死ぬリスクを負う……って、俺は思ってたんだけど」



 親、及び周りの大人に訊いて回ったが、産まれた時に死にかねない経験をした者はいなかった。普通は記憶がないから、あっても覚えていないだけかもしれない。が、聞き伝えでもそんな事を言われた過去はないらしい。

 だから【世界耐性】を剥がしたリスク。エストはそう思い込んでいた。



「その様子だと、違うみたいだな」

「私は産まれた時の記憶があるからハッキリ言うけど───ええ、違うわ。少なくともこの国で聞いたことはないし、私自身も体験してない。単純にスキルが無い状態の貴方の身体が弱かったとか?」



 数分の間はスキルの定着が無いと言っていたのはエスト自身だ。そう言われてみるとその可能性は高いが。



「……スキルがない時の基本スペックは前世の平均当たりになる、って見た覚えがある。ランダムになるのはあくまで外見。能力に関しては全員が“平等”な筈だ」

「ああ、言われてみれば。よく覚えてるわね、そんな事。10年たった今、あのテキストなんて殆ど覚えてないわよ私」

「小さい頃から寝たっきりだったからな。ネット小説とか動画は観てたけど、本当に調子が良い時の暇つぶしって程度だったから……脳容量にかなり余裕があったんだ思う」



 丸一日かけて目に焼き付けていた事もあり、あくまでここ10年で消えていないだけだ。あと20年もしたら流石に頭からは消える筈、と。そう考え、先程のアリアのスキル構成を省みて質問する。



「それより、さっき氷属性の魔法持ってるって言ったよな?」

「ん? ええ、そうだけど」

「えっと……ああ、これか。このベンチ辺りで氷魔法の練習とかしてたか?」

「……えーと……あ、うん。このベンチの横にある木、顔みたいな箇所があったのが印象的で覚えてるから、間違いないと思う。それがどうかしたの?」

「後者か……。いや、つい最近になって、この森で幾つかコキュートスの出現予兆があってさ。今回の依頼は、それに気付かず出してる額なのかと思ってな。他の人が知らずに受けてたら不味いと思ったから、俺が受けたんだよ」



 幸い集合場所に人が居なかったから間違いなく自分だけだと確信できたし、先程の質問で冷気の正体が氷魔法の練習だと分かった。

 エストは端末に写っていた写真を閉じてポーチに仕舞う。



「そうだったのね……。氷は造形を保ちやすいから、一番訓練してる魔法なの。でも安全圏じゃない場所でするべきじゃないみたいね。……んー」

「どうかしたか?」

「いえ、そんなに強力な氷は使った覚えがないのよ。氷を消してからは精々10分くらい経てば冷気が無くなる程度のものだし」

「……間が悪かったのかな」

「そうね。迷惑かけたし、報酬は少し上乗せしとくわ」

「や、いいよ。俺としては同じ【世界耐性】を剥がした人と知り合いになれただけ……ああ、そうだ。じゃあ報酬は連絡先って事で頼む」

「……おぉう」

「ん?」

「いえ、何でもないわ」



 ナンパしてるつもりなどない、下心もない、混じり気のない純粋な瞳から紡がれる「連絡先交換」という言葉にアリアは思わず動揺した。

 学校の教師とか親とか、下心のない対応というのは確かに経験はある。だが前世は性的な視線、今世は見た目の美しさで言い寄る人は数多い。今世に関しては望んでなった姿だから後悔はしてないが。


 だから親身に近い対応をしてくれる同年代の子供というのは非常に新鮮で、先程の草食系な対応とはまた違った態度に、動揺を隠せなかった。

 エストがキョトンと見つめていると、アリアは「天然男子ってこんな感じなのか」と呟く。【五感向上】を一つでも持っていれば聴こえる声量だったが、生憎と持たないエストの耳に届くことは無かった。





 ───数秒後、エストが通った場所に冷気が立ち上がる。






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