エピローグ
あの後わたし達は全員吹き飛ばされた。ラストレンさんも、ハイジも、わたしも。そして、軍を構成していた兵士たちや蟲、ラルクルウッド・ゲーまでもが砂漠の一番西側の街の近くまで空を飛んだ。
超高音と超低音を同時に体の全部にぶつけられたみたいな衝撃で、理解の隙きすらなくわたし達は空を飛んだ。
散り散りに、バラバラに、砂のようにめちゃくちゃに飛んだのに、わたしはなんの怪我もしなかった。世界一の幸運を近くで浴びているのだから、当たり前ではある。背負っていたラストレンさんは衝撃で目を冷ました事は空中で確認できたけれど、空中で距離を引き裂かれて離れ離れになってしまった。皆撒き散らされたように、散り散りに飛んでいった。
「言っとくけどオレはリカルドをまだ殺すつもりだからな。」
一ヶ月たってから、わたしは市場で買い物をしているハイジを見つけた。大陸中の話題は蝉の事で大盛りあがりで、空から降ってきて行方不明になっている物を捜索する専用の機関すら出来ていた。各所に身内を探している尋ね人の張り紙が設置された。連絡をとる伝言板や、自分の生存を知らせる手紙が行き交っていた。
「わたしには貴方の嘘が丸わかりなのを忘れたの?」
ラストレンさんがどうなったかは知らない。伝言板や張り紙を何度もみたけれど、何も書かれて居なかった。わたしは「スルテ、生きています。」とだけ伝言板の角に書いておいた。
「その目ん玉くり抜いてやりたいよ。」
わたしはハイジが全ての結晶を壊す手伝いをすることに決めた。わたしの魔法が見える目はハイジの目標に大いに役に立つ事を伝えると、ハイジははいともいいえともつかないような返事だけをした。
「とっさの時に嘘しかつけないその癖、早く治したほうがいいわよ。」
代わりにわたしは運の魔法以外の自由な魔法について色々聞く機会を得た。残念ながらハイジは魔法が使えない者らしく、擬音や感覚的なもの、なんとなく外から見た魔法の様子しか教えてくれなかった。
「目ん玉くり抜きたくなるのは本心だ。」
それでもやはり到達点を知っているのと知っていないのとでは研究の速度が大違いなので、とんでもなく参考になる。
「別にいいけど、わたし貴方に魔法を掛け直す事だって出来るのよ。」
「それを持ち出すのは卑怯だ。」
きっとこんな事をしていたから魔法を使える者は滅ぼされたのだろう。
ハイジは桟橋を指さして、少しだけ早歩きになった。
「ボサッとしてるなよ。船に乗り遅れるぞ。」
わたしもちらりと後ろを見てから、走り出した。
終わり。




