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「ふははははは!我こそはハルビオク・リカルド!蟲狩りの王にして全ての蟲を束ねる者なりぃぃぃ!」
背中を炎で炙られて、めちゃくちゃに熱いけれど、顔には出さない。蝉の顔の上でおじさんの船を薪代わりに火を炊いたのだ。蝉の体は山のように大きいし、翅も同様だが、顔は以外に低い位置にある事は絵本からもわかっていた。
火を炊いたのは作戦の段階でスルテに僕の祝福の性質を教えてもらったからだ。僕の祝福の性質は、僕の体温が高ければ高いほど、効果を発揮する。忘れがちだがスルテは研究者で教師なのだ。少しでも作戦の成功確率を上げる為に、砂よけを脱いでいたり、背中を炙られたりしているのだ。
「蝉よ!その男を潰してしまえい!!!」
まるで蝉を操っているかのような演技をしているが、実は蝉は僕の事など全く気にしていない。普通に南に用があるだけなのだ。ほんの少しだけ角度を変えたっきり、僕は何もしていないのだ。それをいかにも僕が操っているかのように見せているだけである。
「!!!!」
男の焦った顔がここからでもよく見える。これほどの大きさの物が自分を殺す為に前進してくるように感じる恐怖はなかなかの物だろう。
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「やっとそののっぺりした顔を崩せて嬉しいわ。」
不思議な事に男は恐怖を感じている風では無かった。どちらかと言えば、苦悶するような、迷っているような、躊躇している表情だった。
「少し、オレの知ってる本当の事を話そう。」
その瞬間、男の表情はすっと冷静になった。こちらを嘲るような今までの表情とは又違う、真剣な表情だった。
男が真実を話すには『話し相手』が必要なのだ。だから、男はわたしを殺す事は出来ない。
「過去、魔法はもっと自由だった。無限の炎も、深淵との繋がりも、思いのままだった。」
男がどれだけ真実を話そうが、不運はやってこない。厄災など起こらず、蝉は健在だ。
「しかし、魔法の使える者と使えない者がいた。使えない者達は、使える者達を騙し、皆殺しにした。」
それどころか、幸運を呼んでいる事に、まだこの男は気が付かない。真実の量が足りないのかとさらなる言葉を重ねる。
「使える者は突然変異でしか生まれなくなった。それが、今の聖人達だ。」
思わず目を細める。男の体から発する光が、目を開けていられないほど眩しい。私だけに見える、魔法の光だ。
「今!生きている者達は皆!裏切り者の血族なんだ!」
わたしの口角が上がっているのに気がついた。当たり前だ。轟々と音を立てながら、蝉がわたし達のすぐ上を通過していく。やっと、この男も様子がおかしい事に気がついたみたいだ。
「幸運の魔法は、聖人にだけ効かない。逆に言えば、魔法の使えない者にだけ効く魔法なのね?」
「そうだ。自分たちの益になる魔法以外は全て抹消された。」
男は体の力が抜けたのか、へなへなと座り込んだ。決して蝉が通りすぎたことによる物では無いだろう。
「オレは止められなかった。オレ一人ではどうしようも無かった。」
うつむいて、声が震えている。両手を地について、そこにいる誰かに懺悔するかのように。
「何度世界を滅ぼしてやろうと考えたか分からない。」
男はもう気がついていた。確かめるように何度も何度も、真実を、口にする。わたしは握っていた結晶を蝉の吹かせる風に乗せて、遠くへ放り投げた。
「いつの間にか憎い者達は寿命で死んでいたよ。だからオレは、代わりに最後の魔法を恨む事にしたよ。」
もう、確信に変わっていた。この男はリカルドを殺しに来た刺客ではない。これほどの魔法をかけられた者など、この世に一人しか存在しないからだ。
「全ての結晶を破壊する事にしたんだ。祝福による歪な社会も嫌いだから。」
蝉は随分と遠くに行ってしまった。巻き上げられた砂で、真っ直ぐな深い道が砂漠の中にできていた。
「リカルドというあの少年は、簡単に結晶を作るそうじゃないか。」
「だから殺しに来たの?」
「そうだ。」
男は顔を上げて、ゆっくりと立ち上がった。こちらに向き直り、姿勢をただして手を差し出してきた。
「オレの呪いを解いてくれたこと、真に感謝する。お名前を聞いても?」
「わたしはニニスル・テテュア。あえて嬉しいわ。英雄。」
わたしは手を握り返した。英雄といわれた男は露骨に嫌な顔をした。
「オレはスヲ・ハイジ。英雄じゃない。」
歴史上唯一八重の祝福を受けた人間、英雄ハイジだ。




