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砂漠の少年  作者: 帽子男/Hatt
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蟲の影

本日二本目です

村を出てしばらくしてから、水も食料も無いことに気がついた。

いまさら引き返す気も起きないので仕方なく先に見える街に向かうことにする。

少しは暑さが和らぐかと思い、樽をかぶってみた。思っていたよりもずっと涼しかった。樽にはところどころ隙間があって、前や後ろが見える。

樽をかぶると隅の方に少しだけ糸が有るのを見つけた。ナタの持ち手に巻きつけておいた。

すこし遠くのほうで商隊らしき人たちとすれ違う。こちらには気がついていないようだ。

とても急いでいるようだ。街から出たばかりだろうか。商隊の荷車を引いている蟲はとても足が早い。優秀な蟲のようだ。僕らのはあの蟲を黒蟲と呼んでいる。単純に黒いからなのだが、他にも黒い蟲が沢山いるのにこの蟲だけが黒蟲と呼ばれているのには理由がある。とても力持ちだし、躾けやすくて働きものなのだ。よって、文化や商業と密接に関わりがある。つまり知名度なのだ。他の黒い蟲なんて中々お目にかからないから、黒蟲と呼んで不自由しないのだ。


しばらく進んでいると、街がフッと消えてしまった。そんなはずは無いと目を樽の隙間に近づけて凝らして見てみてもやっぱりなくなっている。

あれは蜃気楼だったのかもしれない。しかし商隊が通ったのだから方角はあっているはずだ。

立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡すが、どこにも無い。

煩わしくなって樽から顔をだした。その時だ。


上に持ち上げた樽がスパッと音を立てて横一文字に真二立つになった。ボソッと音を立てて樽の底側が砂に落ちる。


動けなかった。何かが後ろから僕を見ていた。大きくて長い影が僕に覆いかぶさるように伸びてきている。

もうだめだと思った。両手を上げた間抜けな格好から微動だにすることもできない。

蟲と睨み合った時もおばさんのあの目を見た時もここまで強く死を感じることはなかった。

本能が強く告げている。「動くなかれ」と。


いったいどのくらいこうしていただろう。腕と頭から血の気が引いて意識が朦朧としてきた。

今になって左腕がまたジクジクと痛みだしてきた。

太陽はいつの間にか真上に来ていて、髪の毛をジリジリと焦がしている。

震えそうな足に何度グッと力を込め直したことか。

「何か」はきっと僕を探している。僕が動くのを待っている。

きっと商隊を引いていた黒蟲は、この「何か」に怯えて早く走っていたのだ。


この時間がいつまで続くのか。もしかして永遠に続くのでは無いか。

そう絶望しそうになった時、さっと一瞬風が弱くなり圧力や気配が消えた。


「!!っっっはーーーーーっ!!」


大きく息を吐いて後ろを見た。「何か」は居なくなっていて、ぽっかりとした砂漠だけが残っていた。


なんだかよくわからない達成感があったが、すこし寂しいような気もした。


どっと疲れが出てきて倒れ込みそうだった。前の方からさっきとは別の商隊らしき人たちが来たのを見つけた。誰かがいる安心感が欲しくて、僕は大声を上げて手を振りながら近づいていった。

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