王都崩壊
私の近衛騎士団を見送って、憂鬱な気持ちでバルコニーから城内へと戻る。
「はぁ、、。」
思わずため息を付く。商業都市アウデラ崩壊の早馬は、お父様の耳にももちろん入った。蟲の暴走という前代未聞の事件の解決に、私の兵が駆り出されるのは仕方のないことだった。「お前が拾った者の始末は自分でつけろ。」とのお達しだ。その日の午前中に、「ラルクルウッド・ゲーを打てそうな人材がいました!」と豪語しているため隠すこともできなかった。そんなわけで早朝から身支度を整えて近衛騎士団を送り出すことになったのである。
ネシテルは強い男だった。大剣の一振りで蟲を真っ二つにできるような人材など、この大陸中を探しても十人といないだろう。そこを見込んで彼には二重の祝福を受けさせた。彼も私に忠誠を尽くしてくれた。アウデラの問題が片付いた後、改めて責任を追求される憂鬱さよりもよっぽど彼を失った事のほうが大きい。召使い達がわらわらとまとわりついて、「お召し物を。」とか「お化粧を。」とか言いながら私の周りを取り囲む。
どうせ私が王位を継ぐことはもう無いのだ。今回の事などをやり玉にあげて、どんどん権力を削ぎ落とし、田舎の統治にでも回されるだろう。きっともう趣味の収集もできないし、それを語らうネシテルもいないのだ。
「なんだ?」
城門の上にある緊急時に鳴らされる鐘が、カーンカーンカーン!とけたたましく鳴り響いている。同時に地響きがどどどと伝わってきて、天井にあるガラス細工から小さな埃が落ちてくる。私は少し早足にバルコニーに再度乗り出した。
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「止まれええええぇぇぇ!!!!」
基盤の取手を思い切り引いて抵抗するが、ラルクルウッド・ゲーには僅かな減速しか見られず、それも城門を粉砕した衝撃によるものらしかった。
「市街地は駄目だ!引き返すんだ!」
ネシテルさんが前方を見ながら僕につばを飛ばす。
止まらないのは分かっていた。さっきも同じ事をしたからだ。取手を思い切り左に倒す。グンと力が加わって、ゲーが緩やかな孤を描きながら右に向かう。僕らは遠心力で外へ吹き飛ばされそうになる。城壁にあたった段階で、トーチカの蓋が空いていたため、ひしゃげて閉まらなくなったのだ。油断して手を緩めると、守ってくれる物はないのだ。
「ぐぎぎぎぎぎぎ!!」
歯を食いしばって体の血が左側に集まるのを耐える。左側の穴という穴から血が吹き出してしまいそうだ。
あらゆる家屋を引き崩しながら徐々に旋回し、後少しで90度曲がるといった所で突如目の前に砂色の建物が入ってきた。急なカーブで前が見えていなかったのだ。どう見てもその砂色の建物は城で、こんなときでなければその荘厳さに参っていただろう。大小様々な塔が連なるその城にラルクルウッド・ゲーはまたも突っ込んだ。
城の左側を抉る形で突進したゲーは少しの減速を見せたものの、僕が取手をまだ左に傾けたままだったのもあってかなお前進する。そのままいくつもの塔を顔面で破壊しながら城に取り付くように巻き付いて、最後の一棟にに手を掛けようかと狙いを定めた。
「ネシテル。」
半壊した塔のバルコニーにラウムさんが立っていた。静かな声であった。しかしはっきりと聞こえた。まるでその一言を待っていたかのように、ラルクルウッド・ゲーの全身から突如力が抜けるのが分かった。ズシンと、深く重い音を立ててゲーは力なく倒れた。ラルクルウッド・ゲーを追うように来ていた大嵐も、いつの間にか振り切っていた。




