砂山
最初の一つの雷を皮切に辺りに次々と落雷が及ぶ。それに連なるように、桶をひっくり返したような土砂降りの雨が僕らを打つ。
ある者は警戒し、ある者は神に祈り始め、ある者は怯えて縮こまってしまっている。
「その目!見たことあるぞ。そうだ。思い出した。お前蟲狩りだな?」
「そうだと言ったら?」
「別に、何もしやしない。ただ納得がいっただけだ。蟲狩りなら化け物だろうよ。」
雨がどんどん勢いを増し、風も凄まじい力になる。あの雷以降、僕らの元には雷はこない。
「何が望みだ。」
「ラルクルウッド・ゲーを殺すことだ。」
「…好きにしろ。」
隊長が道を譲ってくれる。やけに素直だなとも思ったがあやかることにした。すれ違い際に
「バルマンドリアがこんな無茶苦茶な兵を雇ったなんてきいてねぇぞ…。」と聞こえた。
後を向かずに答える。
「僕はバルマンドリアの兵士じゃないよ。」
「意味のわからん嘘をつくな。じゃあなんだって蟲を殺すんだ。」
彼が後を付いてくる。どうやらもう本当に攻撃する気は無いようだ。弓を引いていた兵士たちに、武器を降ろさせている。
「僕の夢のためだ。」
「夢?ますます意味がわからん。」
ラルクルウッド・ゲーの頭部にやっとついた。雨で手が滑りそうで大変だった。隊長がぶつくさいいながら先頭のトーチカの中に入っていく。僕は首を伸ばしてラルクルウッド・ゲーの顔を覗き見る。ひどい顔だ。恐ろしい顔だ。小型の舟ならば余裕で二隻は並べられるほどの大きな複眼が2つ。僕の頭ほどもある単眼が3つ。そして、暴力の象徴のような凶悪な鋭さと頑丈さを持った大顎が一対。大きく横を見なければ、触覚を見つけられぬほどに大きな頭だ。
僕は早速、触覚を切ってしまおうとにじりよって行く。トーチカの中から話し声が聞こえる。
「隊長、おかしいですよ。都市がありませんよ。」
「何?そんなはずはない。だったらなんのための街道なんだよ。ちゃんと街道を真っ直ぐ進んだのか?」
「はい。間違いありません。真っ直ぐでは無いですが、街道に沿って進みました。そしたら、その、、」
「なんだよ。」
「山があるんです。街道の先に。とてつもなく急な、こう、土でできた塔のような、、」
「山ぁ?!ここら一体はずっと平地だぞ。そんな訳あるかよ。みせろ。」
僕も気になって遠くの方に目を凝らす。雨が強いためによく見えないがぼんやりと何かが建っているのはわかる。ゲーはずんずん進んでいくので、だんだんはっきりとその様子が見えてくる。
「穴が開いてる。それも大量にだ。でかい穴が開いてる。」
「隊長。我々ってもしかしたら地図を間違えたんじゃないですかね。」
「そんな訳あるかよ。毎晩俺が星を読んでたんだぞ。」
ゲーの顔を改めて見る。本当にひどい顔だ。怯えきって、蟲の王としての威厳は欠片も無く、憔悴しきっている。まるでこの世の終わりを悟ったかのような表情だ。こんなにも恐ろしい顔をしているのに。
一体何におびえているのだろうか。この蟲を操る人間たちにだろうか。
ガコンと音がしてトーチカが大きく開き、中が顕になる。
「え!隊長!誰かいます!」
「あ、えーっとな、今この蟲狩りに俺たちの蟲は乗っ取られたんだ。」
「ええ!?ど、どうして!?」
「こいつがウチの近接兵をみんな伸しちまったんだ。」
操縦士らしい若い兵士は、半分は疑いの目で、半分は怯えた目で、僕を見ていた。




