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砂漠の少年  作者: 帽子男/Hatt
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砂漠の少年

初投稿です。よろしく

「凪の時間までにはかえるのよ。」

ついさっき母親に言われたことを思い出していた。緋色の砂山に被さって見える夕日が網膜を刺してくる。

一昨日に僕は16歳の誕生日を迎えた。両親は僕に大人になった証として、砂ヨットをプレゼントしてくれた。

自分専用の砂ヨットがあるのが嬉しくて、昨日は一日中、砂の海を滑っていた。僕は今日も船体をゆっくり押して、砂丘の上に登る。強い風が来るのを待つのだ。来た!と思った次の瞬間に弦を強く引いて、帆を一気に広げる。下り坂を風と一緒に駆け下りて、勢いがついたヨットに飛び乗った。

広い砂漠の中をたった一人で滑っていると、少しの寂しさと、いっぱいの開放感を胸の中に詰められるのだ。

目で見える限界近い距離に、両親や仲間が暮らすテントの集まりが見える。

あとほんの少し遠くへ滑るだけで、世界にいるのは僕だけになってしまう。

昨日は怖くてできなかった。今日こそは、とも思った。

新しいなにかが分かるかもしれないワクワクを込めて、夕日に向かって少しだけ砂の海を蹴った。


「なんだろう。あれ。」


ほんの少しすすんだところで僕は思わず呟た。夕日の中に黒い点がいくつもあるのを見つけたのだ。

よく見ると夕日だけじゃなく、砂の水平線を埋め尽くすおびただしい量の黒い点がある。

黒点はみるみる大きくなった。こちらに近づいて来ているのだ。次第にボンヤリとしていた輪郭もハッキリして、遂にそれが何か解ってしまった。


「蟲だ…!!」


僕らは普段ああいう蟲を殺してそれを食べたり、肥料にしたり、街へ売りにいったり、いろいろな材料にしたりして暮らしている。

テントや、この砂ヨットも蟲から採れる腱や羽を使って作っている。あの蟲は跳蟲と言って後ろ足の力が強く、よく跳ねる。その分良い健が採れる。僕自信、何度も狩りに参加したし、跳蟲を囲んで殺したこともある。

けれども、あんなに沢山の跳蟲の群れをみたのは初めてだった。


「しらせなきゃ!!」


すぐさまヨットの向きを変えて砂を蹴るも、すーーっと少しだけすすんだあとヨットは止まってしまった。

凪だ。

凪とは一日に二回、風が完全に止まる時間のことを言う。風がなければヨットは進めない。

すぐさまヨットをおいて走った。ヨットがなければ砂漠の移動は困難だ。砂に足を取られて重い。

もうすぐ日が完全に沈んでしまう。うしろから羽音が聞こえる。羽音は次第に大きくなり、ブブブという音からぎゃじゃぎゃじゃという音に変わる。

僕のすぐ上を蟲の群れが通る。思わず「ひゅっ」っと息を吸って座り込んでしまう。普通、蟲の大きさは寝転んだ大人二人分ほどだ。

しかし、今いる蟲達はそれの遊に2、3倍はあろうかという大きさだ。

恐怖で縮こまる僕に、蟲は目もくれない。獰猛に触覚を揺らしながら食事の匂いのする方へ向かって跳んでいく。




テント郡に僕がついた頃には蟲達は過ぎ去った後だった。テント郡とは言ったものの、元の形を保っている物は一つとして無く、跳蟲が上から覆いかぶさったのかぺしゃんこになった物もあった。


「誰か!だれかいないの!?」


返事は帰って来ない。瓦礫の間を走り回ってそこかしこを見て回っても、ぐじゅぐじゅになった肉のようなものがいくつかあるだけだった。

胸の奥から何かがせり上がってくるのをこらえきれず、その場に吐いた。

そのときふと屈んだ目線さきで誰かの震える目を見つけた。だれかいる!!

テントの残骸から覗く目が誰なのか、近づけばすぐに分かった。族長だった。


「族長!!いま助けます!」


残骸の一部に手をつけて力を込める。「おい」びくともしない。「おい。やめろ」もう一度力を込める。「おい!!」びくっとして手をとめた。


「体力をつかわせるな。今から言うことをよく聞け。まず最初に、俺はもう助からない。足の感覚が無い。手遅れだ。

次に、お前の両親や仲間はほとんど無事だ。俺のように逃げ遅れたものは俺の他にわかっているだけで二人だけだ。お前のウチの隣の婆さんとその孫だ。

最後に、おまえはこれから街へ行くんだ。少し前に街に資材を売ったのを覚えているだろう。そこで一年待つんだ。お前のヨットじゃ仲間たちに追いつけない。

仲間達はきっと一年後にはあの街へ蟲を売りに来る。それまでそこでくらすんだ。それで。っっふう。それで移動する時は夜にするんだ。

昼に寝て。っふぅ。夜に起きろ。どうせしばらくしたら盗賊どもが来て。っふぅ。金目の物を持っていくだろう。きっと街で売るだろう。

絶対にそいつらに手をだすんじゃないぞ。っヒューっ。食える物は蟲どもが食っていったから無いが、大事な物はもっていけ。

よし。いますぐ出発だ。いけ。」


泣きながらウンウンと頷いて。族長の前をはなれる。頭がフラフラとして言うことを効かないが、族長の言うことはきっと正しい。

ぼんやりした頭のままウチのテントがあった辺りへ向かう。残骸の中をしばらく探して、ようやく自分用のブーメランを見つけた。ひろって背負う。

ほかにも大事な物はあったはずだが、見つからなかった。きっと両親が持っていったのだろう。

気が付けばあたりはすっかり暗くなっていてもう何も探せなくなってしまった。

ぼんやりとしてきちんと働いていない頭のまま、沈んだ太陽を追いかけるように、西へ向かった。

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