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マトリカリアの花はファンタジーに咲く  作者: 水あげたくあん
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9話 やくそく

-カルミア学園前-



あれから敵に襲われることも大きな事故も無く、無事に学校に到着することが出来た4人だったはずなのだが、門は閉まっていて入る事が出来ず、更にはヒロ一味の半数がもう既に満身創痍であった。



「本当に……ごめんな……俺だってこんなこと……ウプッ」


「ヒロは悪くないよ……悪いのは全部……この世界よおrrr……」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、本当に大丈夫?」


人生初のドライブを強烈に体験したヒロとマイ2人は校門前で吐き散らかしていた。


ハナはその2人の背中を間で心配そうにさすっている。



その異様な光景はもし通行人がいるのなら思わず2度見してしてしまうようなものだった。



「おーい、大丈夫かー?お前らー」


数分後、全てを吐き切って白くやつれた顔をしながら、門の塀にもたれ掛かって立っているヒロ達を見てユウキは生存確認を取る。



「えぇ……もう大丈夫……よ……」


「あぁ……後は水さえあれば……最&こぉぉ………」


掠れた声で言いながらヒロ達は親指を立てながら倒れてしまう。


その様子にユウキは「あはは……」と薄い笑みを零しながら何も言えなくなってしまう。



「貴方達、何もしているの?」


しばらくすると外の異変に気づいた校舎内にいた先生が来た。



「ん?あっ先生!?これはーえっーと……」


ユウキはは今の状況を説明しようと周りを見渡してみる。



まずヒロ達を見ると、疲れ切ってしまったのかうつ伏せで倒れている。


その間には2人の頭を優しくぽんぽんと叩く小さな子供、ハナがいる。


ハナの両脇にはモザイクの付いた2つの水溜まりが出来ている。


その後ろには、軽度の事故でボコボコになった車があった。



「これは……どこから説明すればいいのか……ははっ……」


ユウキはその情報量の多い状況を説明することが出来ずに笑うしか無かった。




何とか事情を説明して、校舎に入れてもらったヒロ達。


4人はたまたま炊き出しの時間だったので昼食を貰い、誰も居ない部屋に案内してもらい机に座って食べながら今後の事について話し合う。



「これからどうするの?」


マイが話を切り出す。



「信じたくないけど俺らは連中に恐らく目を付けられた。ここに長居してたら避難してる人が危険だ、準備出来次第すぐここを出よう。」


ヒロが答える。


本来の目的ではここで情報を得てから出るつもりだったが目を付けられた事を考えてしまうとそれも出来ない。


「ちょっと待ってくれ、じゃこれからどこに行くんだ?」


「………」


ユウキの疑問にヒロは黙り込んでしまう。


情報が無いのならこれからどこに行けばいいのかどうすればいいのか分かるはずがない。



「でも、ここにいる人達を私達の事情までに巻き込む訳にはいかないのは確かよ」


「そうだよなぁ……」


マイの言葉にユウキは行き詰まっている今の状況を理解し肩を落とした。


「そういえば、ハナちゃんはどうするの?」


「……?」


ユウキはすぐに顔を上げ、ヒロ達にふと湧いた疑問の声を漏らした。


ハナは唐突に自分の話題に変わったことにより小首を傾げる。



「ああ、ハナちゃんはここに置いていく」


ヒロは淡々と答えた。


ヒロの言葉を聞いたハナは顔を下に俯ける。


その身体は少し震えていた。



「どうしたのハナちゃん?」


マイは心配した声音でハナに尋ねる。


「……つき…」


顔を俯いたハナから少し声が漏れ出る。


一同はその声でハナに「?」という表情をしながら視線を向けた。



「嘘つき!!!」



「「「!?」」」


突然のハナの大声に3人は狼狽える。


声を荒げたハナはヒロ達に向けてまくしたて始めた。



「お兄ちゃん達はわたしを置いてったりしないって言ったでしょ!?お兄ちゃん達はわたしを見捨てたりしないって言ったでしょ!?どうしてわたしを置いてこうとするの!!どうして……ハナを……」


言葉を途中で止め、ハナは泣き出してしまった。


ユウキはどうすればいいのか分からずハナに駆け寄り涙を拭き始めた。



────ハナちゃんを連れて行ける訳が無いだろ……!


このまま俺達と一緒に居れば間違いなくハナちゃんの身に危険がある。俺達はどうすればいいんだよ……!


ヒロは歯を食いしばり拳を硬く握る。


誰一人ハナに対して何もすることが出来ない状況が数分続くがマイが何か決心した様子で動く。


マイはハナの目の前に屈み、両手をハナの肩に乗せる。



「ハナちゃんは、お母さんにまだ会いたい?」


ハナは頷く。



「じゃあ、ハナちゃんはまず頑張って生きて行かなきゃね。」


ハナは再び頷く。



「私達はハナちゃんが生きていけるように頑張って戦うから、それに負けないようにハナちゃんは頑張って生きていてね。私達は必ず、ハナちゃんの所に帰ってくるから。」


それを聞いたハナはマイの目の前にゆっくり小指を立てる。



「やくそく……出来る?」


「うん!」


マイは明るく返事をして小指を結ぶ。



「お兄ちゃん達も…出来る?」


ハナはユウキとヒロに目線を移しておそるおそる聞く。



「おう!任せといてくれ!」


「さっきは酷いこと言ってごめんな、でもこの約束こそは守るよ」


調子を取り戻したユウキと申し訳なさそうにするヒロはハナに寄る。



「じゃあ!指切りげーんまん嘘ついたら針千本のーます!」


ハナの小さな小指に3人の小指を絡ませて同時に指切りげんまんをするのであった。




「そうだ!」


指切りの後、ハナは何か良いことを思い付いたのかバックを開き、折り紙用の色紙を取り出した。


「ハナちゃんどうしたの?」


「ちょっとまってて……」


ハナはマイの質問に答えず紙を折り始める。




ハナが作業を始めて数分後。



「お姉ちゃん達、これ!」


ハナが手に差し出したのはそれぞれ色の違う4枚の折り紙の四つ葉のクローバー。


「1枚ずつ持っててね!」


ハナは無邪気に笑いながらヒロ達に1枚ずつクローバーを渡した。



「絶対に無くさないでね!これもやくそく!」



ヒロ達は約束のしるしを受け取ると了解の笑みをハナへ送るのであった。

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