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マトリカリアの花はファンタジーに咲く  作者: 水あげたくあん
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4話 炎の剣

「何者だ。」


男はヒロ達に問いかける。


ヒロ達は恐怖で男に答えることが出来ない。



「なぁマイ……アレやれると思うか……?」


マイからの返答は来ない。


ヒロはマイの顔を見る。マイは目を剝き、奥歯を噛み締め、額には冷や汗を浮かべている。


マイはやはりコイツの異常さに気付いている。



何が異常なのか、それはコイツが明確に言葉を話していたことだ。


今までのやつは知性が無く、ただの怪力であっただけなのだが、言葉を話すことが知能があることの何よりの証拠になる。



「……ッ!」


ヒロは自分の手が無意識ながらも震えていることに気が付く。


(武者震い……無理もないか……)



「マイ、出来るだけ剣は隠していてくれ」


ヒロがマイにそう小声で伝えると、マイは頷き、武器をしまう。



ヒロ達が立ち尽くしていると、男は1階から吹き抜けをジャンプで飛び越え、2階のヒロ達の目の前に静かに着陸する。


ヒロ達は全身に力を入れる。この絶対的に自分達よりも強いであろう男が何をして来るのかわからない今、出来ることと言えば男から発する覇気に気圧されないこと。それだけだ。



ローブの男は再び口を開く。


「私は、貴様らは何者だと聞いてるのだが?」


「……ヒロだ」


「マイよ」


「名乗ったら見逃してくれるのか?」


ヒロ達はようやく質問に応えて、ヒロは意を決し男に鎌をかけてみる。



「では、これから私がする質問に嘘偽り無く応えたら考えてやろう」


どうやらただの黒い奴らと違い、こちらの言い分はわかってくれている。不幸中の幸いだ。


「分かった」


ヒロが了解するのを確認すると、男は質問を始める。



その瞬間、周囲の雰囲気が変わる。フードから見える目線はヒロ達を緊張させ、嘘の一切を禁じた。


「では問おう、何人生きている?」


「今ここにいる俺たちを含めてか?……3人だ」


質問を質問で返して、男が小さくうなずくのを見てから人数を答える。


ヒロとマイとハナ合わせて3人、嘘はない。



「続けて問おう、我が下僕の殺し方を知っているか?」


「知ってる」


今度はマイが答えようとするが、続けてヒロが少し食い気味に答える。



「最後に問おう、何人殺した?」


ヒロは奴らを殺すまではしたことがないのでマイに「何人だったけ?」と小声で聞く。


その後、ヒロとマイは数秒間、男に聞こえない声で話してから。


「……4人だ」


「そうか……」


質問を終えた男は虚空から両手剣を片手で取り出し構える。


(何もないところから剣が……!?私と同じ……)


マイは拳を握る力を強める。


男の剣はほんのり紅く火の粉を漂わせていた。



───どうやら俺たちは失敗したらしい


ヒロ達は歯噛みするが、もう遅い。覚悟を決めて男の攻撃に集中させる。


「……ッ!飛べッ!」


敵の何かを感じ取ったヒロがそう言い、2人が後ろに飛び上がると、先ほどまでヒロ達のいた地面が十数センチ抉れていた。



避けた後、すぐに警戒を始めるが男の追撃はない。


「何故私の攻撃が読めた?」


男は興味深そうな声色でヒロにまた質問する。


「さぁな、勘はいいんだ。てか、おい!お前!俺達は嘘偽りなく正直に答えたぞ!なんで攻撃してくるんだ!?」


ヒロは地団駄を踏みながらぷんぷんという文字を浮かべる勢いで今となっては遅いクレームを送る。


「私は嘘偽りなく答えたら考えるといった。考えた結果、我が下僕の殺し方を知る貴様らは殺すということになった。」


「正直にどう答えてもダメだったってことかよ!」


嘘を見破られなかったことも考えて嘘を付いておくべきだったと考えるが後の祭り。目の前の男は待ってくれない。



「ああいいぜ!俺が相手だ!」


ヒロは男に武器を向けて挑発する。


敵は超スピードでヒロに向かい、ヒロの目の前で左手で両手剣を軽々しく斜め上に振り上げる。



(右上からの攻撃……!)


そう判断したヒロは右へ屈んで避ける。



「単純で助かる……ねェッ!」


ヒロは避けた後、すぐそのまま全身全霊の突きの一撃を男の顔面に食らわせる。


男のフードがヒロの攻撃の風圧で捲れ上がる。


「……ッ!?」


顕になった男の顔を見てヒロの表情は絶望の色に染まる。男の顔は赤髪の強面でヒロのパイプによる突き攻撃により少し歪んでいたが───



────その表情に動揺なんて文字は無かった。



「その"単純さ"に、貴様は殺されるのだ。」


男の顔には傷は付いているが表情には一切、傷を付けたことによる変化はない。


男はステンレスのパイプを片手で持ちそのまま握りつぶし、ヒロ諸共目の前に数メートル投げ飛ばした。



ヒロは勢いよく叩きつけられる。その時に後ろに武器を落としてしまう。すぐに体勢を取り戻し男を見るが、今回は追撃をする。



男は連続で剣を振り攻撃を続けるが、ヒロは間一髪の回避を続ける。


正直な攻撃だけだったので、回避は容易いはず、だったのだが……



男が片手で両手剣を連続で振るうにはあまりにも早すぎたので、ヒロは避ける度に苦悶の表情を浮かべる。


(息が出来ない……ッ!攻撃に集中しろ……ッ!)


ヒロは息をする間もなく連続で攻撃を避け続ける。



「小賢しい」


そう言った男は両手剣を両手で大きく後ろに振り上げ、下ろす。



(大振りの攻撃……ッ!?それはラッキーだ!)


ヒロは長らくしていなかった呼吸を一瞬で済ませ、剣の射程から逃げるように後ろへ飛ぶ。



「……ハァッ?!」


ヒロは剣の攻撃を見事に避けるがその後の光景に思わず声を漏らす。


男の剣が地に触れた瞬間、衝撃で地面が崩壊。


周囲数メートルの穴がヒロがいた地面に生じる。大規模に生じたのでヒロは穴に巻き込まれ落ちてしまう。



「単純にチート過ぎじゃねぇかよオイ……ッ!!」


その言葉を残し、ヒロは1階に落ちてしまうのであった。




■■■




「………ゲホッ…ゲホッ…痛ってぇ……」


ヒロは2度も勢いよく地面に叩き付けられた末に瓦礫によって全身に切り傷や打撲を受けてボロボロであった。


ヒロは目の前にいる男を睨むと、たまたま目の前に落ちていた男に握りつぶされたパイプを持ち立ち上がる。



「まだ立つのか?」


「ああ、そうでもしねぇと……お前を殺せないからな……」


ヒロはそう答えると、薄ら笑みを浮かべながらパイプを床にコンコンと軽く叩く。



「ほう、ではその勇気に免じて"貴公"に我が名を聞かせるとしよう」


男はヒロに敬意を込めて最後の一撃を与えようと持っていた剣を振りかざす。


男は剣を天窓から差す朝日にかざすと、先程まで火の粉を纏っていた剣が灼炎を纏う剣に変える。



男はその剣を構え、ヒロを見つめる。


ヒロの顔には未だにこれから迎える死を受け入れるような表情をしてはいない。



(奴は依然として笑っている……まだ何かあるのか……?いや、そんなはずはないッ!)


ここからの逆転は不可能と判断をし、男は更に目を大きく開く。


「さらばだヒロ。そして我が名は『円卓』の………ガウェイン!!!」


そう口にした瞬間、ガウェインと名乗った男は倒れた。




────男の首は2階から飛び降りてきたマイによって落とされた。



「ヒロ!大丈夫!?」


マイは1階に着陸した瞬間、真っ先に心配をしてヒロの元へと走って向かった。


首の無くなった男は黒い塵を出しながら消えていく。



「何とか…上手くいったな…作戦…」


それを見たヒロはその場に座り込んでしまう。



ヒロの作戦とは。


男にマイの剣をまだ見せていないことを利用して、出来るだけマイに戦力が一切無いようにみせて、とにかく男の意識をヒロへ集中させて、その隙をマイが不意打ちする。というものであった。



最後に手の内を明かそうとしていたらしいが敵の手の内を明かしきる前に倒せて良かったとヒロは胸を撫で下ろす。



「アイツ、最後に『円卓』って言ってたんだ」


「?」


ヒロが唐突に始めた話に、男の先程の言葉を聞いてなかったマイは首を傾げる。

遅れながらに男が言っていたことかと理解したマイを見るとヒロは続ける。


「そのメンバーを殺るって、かなりマズくね?」


「……あっ……」


その意味を理解したマイは呆けた声を出してしまう。話を終えた2人は顔に縦線入れた表情をしてしまった。



────『円卓』

今となっては教科書に乗るだけの存在だ。10年前の大量虐殺事件以前、『騎士王』と呼ばれる人物を中心に何人かのメンバーで構成された王国内の治安を守っていた国直属の兵組織である。


事件後、全メンバーが行方不明になった。


そのメンバーの1人がこうして襲いかかって来ているということは他のメンバーも……後のことは考えたくない。


しかも、その1人を俺達は殺した。目を付けられてもおかしくない。その事に気づいてしまい2人は頭を抱え考え込んでしまう。



「とりあえずさ、今日1日はここで休んでいいか?」

思考を投げ出したヒロは乾いた笑いをしながら天窓からさす朝日を見てマイにそう提案するのであった。

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