ようこそ異世界へ(さらに絶望)
「なんなんだこの状況は」
そうあきれているのは青髪の美少女である。
見た目で言えば少し幼さが目立つ。年齢で言えば十二か十三ほどだろう。少しきつく見える目は気が強そうな印象を与え、白い肌はしみの見当たらないきれいなもの。それが白のワンピースを纏っている。ほっそりとした手足はすらりと伸び、全体的な美しさを際立たせている。
さて、この少女。誰かといえば先ほどの悪魔である。
ひとしきり絶望したあとアイの『そろそろ召喚が可能です』との言葉にのそりのそりと動き出した悠馬が召喚したのである。
人間の体の構成はアイにお任せしている。
この世界の人間、いや生物というのは魔素によって構成されているらしく、彼らは死亡すると最終的に肉体は魔素となって消えていってしまう。完全に消えるにはだいぶ時間が必要らしいが、悠馬のいた世界で体が微生物に分解されていくようなものだろうか。理解するためのイメージとしてはソレである。
要すれば生物の身体を分解しまくると残るのが魔素というもののようである。
じゃあ魔素を集めれば人間が作れるのかというとそういう技術はこの世界ではないらしく、人体の練成が実は悠馬が行ったものが世界初という事実をアイから告げられたが特にユーマに感想はなかった。
それどころじゃなかったというのが正しいか。
ヒットポイント最大三ポイント、現二ポイントの事実に打ちひしがれていたのである。
どうにかこうにか気持ちを持ち直し、眉間にしわを寄せつつもユーマはサシャに答える。
「ちょっと現実に絶望していてね」
「呼び出しておいていきなり辛気臭いな」
何気なしに少女から放たれた軽めのチョップが悠馬の頭に炸裂する。不意打ちである。
『ヒットポイントが一になりました。危険域です』
ああぁぁぁ! それ攻撃判定ですかあぁぁぁ!
即座にアイテムボックスから回復薬を取り出し一気にあおる。
『ヒットポイントが最大値に回復しました。やりましたね』
やりましたねじゃねぇよ! 最大でも三だろ!
ゲームでは回復薬の回復量は小瓶すべて飲んでヒットポイント五十回復ほど。ゲームなら一本消費しか出来ないが現実ならちょっとずつに分けても飲める。本来ならチビチビと飲んでも十分なぐらいしかヒットポイントがないのだが、気分的に自棄になったせいで一気にあおったのだ。
自棄酒ならぬ自棄回復薬である。
悠馬の様子にあきれた様子の少女だったが、なにか事情があるのだろうと察したのかそれ以降は特に手をだすことなく、心配そうな様子で黙って待っていてくれた。
ごめんもうちょっと待ってね。いま精神を回復させるから。
心配そうな表情をする美少女に見つめられるというシチュエーションに軽くときめきを覚えつつ、口にはださないがそう思う。
『軟弱なマスターですね』
お前は黙ってろ。