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一難去ってまた一難?

カサリ門前の戦闘はカサリ守備軍側の勝利に終わった。主な戦場は西門であったが、それとやや遅れて起きた北門側の戦闘も含めて後には第二次カサリ門前戦闘という名でフェルディア王国の歴史に記される。

カサリを囲うゴブリンの数は目に見えて減り、ついにシンシア騎士団長及びカサリ防衛司令官であるカーマイン伯爵はゴブリン掃討作戦の立案を配下に命じた。

さらに北門にて目覚しい活躍を見せたユーマたちはシンシアに呼び出しを受けていた。

呼び出しというと何だか叱責でもくらうのかと身構えそうになるが、要は褒めるからおいで、である。

さっさとラーナに会いに行きたかったユーマたちだが相手がこの国の姫様だと聞いて断ることを諦めた。言ってみれば会社の上役から「どうする?」と聞かれたらそれはほぼ強制だという社畜根性あふれたユーマの長年の社畜経験がもたらしたのである。

ただ、サシャやサティは魔法行使で疲れているので休ませたいとお願いし、ユーマだけが向かうならばと条件(ユーマとしてはだいぶ勇気の要った)をつけて了承した。

これに関してはシンシア側も特に文句もなく、むしろ宿の紹介をした上に料金もカサリ側が払うことを返答して終了している。まあそれぐらいなら、とユーマはありがたく受け取ることとした。

シンシアやカーマインからすれば対魔物戦での戦力としてあてにしているための厚遇だったのだが、ユーマはそれに気づいていなかった。北門での活躍を北門守備隊の兵士たちにべた褒めされて「なんかすごいことやったんだな、てへへ」ぐらいに考えていたのが災いしている。ユーマからすればその御礼を受け取った程度の考えだったのだが、ユーマがその勘違いに気づくのはもう少し後である。

異世界転生物の「あれ? 俺なにかやっちゃいました?」を地で行くユーマであった。

あまりのユーマの浮かれっぷりにアイも何も言わなかったが、もし実体があればユーマに一撃くらいは入れていたであろうウザさであった。

それはともかくとして、サシャやサティたちは紹介された宿に荷物(といってもほとんど何もなく彼女らの着替え程度)を置いてすぐにラーナのいる場所へと向かった。道案内の小雪も道中で合流し、ついにサティはラーナと再会を果たす。

「暴食……なの?」

「ひさしぶりだね。ラーナ」

ラーナの記憶上の暴食とはまったく姿かたちの違う状態にはじめはラーナもわからなかったが、二人で話しているうちに暴食しかしりえないことがあったようで何とか信じてもらえたようである。

信じてもらえて良かった。とはいうものの、ラーナの中で暴食は男性の姿だったのがいきなり少女になっていたためか多少のぎくしゃくした感じは否めない。死んだと思っていた相手に(実際倒されているのだが)もう一度会ったことで気持ちの整理もついていないこともあるかもしれない。

おずおずと出されたラーナの手にサティは自身の手を重ねる。そうして自分の頬にラーナの手をあて、サティはラーナの頬に自身の手をあてる。

言葉は不要とでもいいたげな空気だが、それに面白く思わない人物が一人。

「あのねぇ。ここまで守ってきたあたしに一言あってもいいんじゃないの? 腹立つったらありゃしない」

当然ながら声の主は嫉妬のルージュである。

子供のように頬を膨らませ、腰に手を当てる姿は妖艶な大人の女性の姿からはあまりあっていないようにも見えるが、若干のかわいらしさは出ていた。

「嫉妬も、今までありがとう」

「今までってあのね。まるでこれで終わりみたいな言い方しないでくれる?」

「ご、ごめんなさい」と蚊の鳴くような声を出すラーナにひとしきり怒ったような姿を見せたルージュだが、すぐに笑顔を見せるとラーナの肩をぱしぱしと軽く叩いた。

「ま、いいのだけど。あんたが元気になったなら良かったよ。さて、暴食も帰ってきたことだし、あたしは戻ろうかな」

「え、戻るってどこに?」

軽く首をかしげるラーナにルージュはため息をはく。

「あのね。あたしはあんたの依頼を完了しているわけ。だから魔界に帰ることも可能なのよ。いままでお世話したのはオマケってわけ」

そこの暴食にも頼まれたしね、とルージュはそういいながら元暴食であるサティを見やる。

サティは頭を深々と下げてルージュにお礼を述べる。

「助かった。この礼はしよう」

「あんたが素直だと調子狂うわね。それと姿と口調が合ってなくて違和感だらけ」

サティは苦笑を漏らしてルージュに問いかける。

「本当に戻るのか?」

「なによ。あんたが来たのならもういいでしょう?」

「本当に行っちゃうの?」

サティとルージュの会話にラーナが口を挟む。その声は寂しさを漂わせた弱々しさであった。

「いまさら言われてもねぇ」

つーんとそっぽを向くルージュにサティがくすくすと笑い出す。

「何よ」

対してルージュは面白くないといった表情だ。内心を見抜かれたと知ってせめてもの抵抗にとルージュはサティの方は向かずにいる。

ただその先にはサシャがおり、サシャはルージュがむくれているところを見て思わず小さく笑う。

「ほんっとあんたは嫌なやつよね。あんたの連れも!」

「笑ってすまない。ラーナさんがよければ私たちと一緒に来ないか。もちろんルージュも一緒に」

笑みを収めてサシャはラーナとルージュに提案を持ちかける。その横ではサティがうんうんと頷いている。

「え、でも……」

「大丈夫。そのためにサティを連れて来たし、ユーマも否とは言わないだろう」

悩むラーナにサシャは「そういえば」と言葉を重ねる。

「自己紹介がまだだったよね? 私はサシャ。元強欲の悪魔だよ」

それから互いに自己紹介をし、「元」とはどういうことなのか、そして今後のことを簡単ではあるが話し合った。

「とりあえずそのユーマってやつに会わないといけないね」

ルージュの言葉にラーナは頷くがその顔色はあまり良くはない。

サタニストたちの間でラーナの扱いがひどかったこともあるだろう。ラーナは男性恐怖症となっていた。

ルージュは無理やりに笑顔を浮かべてラーナの肩を軽く叩く。

「大丈夫だって。サティたちを見てごらん。こんなちんまい少女好きな奴がラーナに欲情なんてしないって」

「それはそれでどうなの?」

ラーナの不安は増した!

「それは私たちが貧相だって言ってる?」

サシャは軽い怒りを覚えた!

「堪えてサシャ。ルージュに悪気は無いんだよ」

サティの心労が増えた!

成り行きを静かに見守っていた小雪は大きなため息を吐いた。


本人のいないところでラーナの好感度を下げつつあるユーマは、騎士団の兵士に連れられ貴賓館へとやってきていた。

貴賓館なんて存在は歴史上で、しかも歴史の授業で語句としてあったなぁくらいの認識でいるユーマである。貴賓館などと聞いてもまったく想像ができなかった。

そのため実際に自分の目で玄関に敷かれた赤絨毯や所々に飾られている高そうな壺を見て一瞬で帰りたくなったユーマであった。

(俺みたいのがこんなところにいていいのだろうか)

そんなユーマの胸中も知らず、兵士は迷い無く進んでいく。

階段を上り(手すりですら磨き上げられていたため触っていいのか不安になる)、右へ左へと(壁にかかっている絵画も高そうであった。高そうというか実際高いが)通路を進んでようやくカーマインやシンシアがいる部屋へとたどり着く。

ちなみにようやくなどと言っているが実際それほど時間は経っていない。高そうな何かに間違えて触れて壊さないようにと通路もど真ん中を通るほど神経質に歩いていたせいで心が疲れてしまい長く感じただけである。

部屋へと案内され、なぜか疲れきった表情の中年の男性と対照的に満面の笑みを浮かべる金髪美女に出迎えられたユーマは相手の偉い人オーラに当てられ一瞬で直立不動の姿勢をとっていた。

「そう緊張しなくていいさ」

女性がフランクに声をかけてくるが、それが一層大物感を出しており、ユーマは余計縮こまる。

処置なしとみたか女性は一転苦笑いを浮かべて隣に立つ中年の男性に頷きかける。

それを受け今度は中年の男性が話を続ける。

「ユーマ殿。こちらのお方はフェルディア王国の第一王女、シンシア・ヴィルヘルム・フェルディア様だ。そして私はカーマインという。この町の、まあ領主みたいなものだ」

偉いさんどころじゃないのが来た。カーマインの紹介を聞いたユーマが持った感想はそんなところだ。

いや実際姫様が待っているという話は聞いている。でもそれはもう少し後で礼儀作法なんかを教えられてからようやく会うものだと思っていたのである。

日本で言えばいきなり部署に皇族の方と社長がやってきたようなものである。もはや何をどうしてよいのかがわからない。

(最上位の敬意ってどうすればいいんだ? 土下座?)

ユーマの脳裏にはすでに参勤交代で頭を下げる農民の画が映し出されている。

『マスター落ち着いてください』

そろそろと膝を折りかけたユーマにアイがストップをかける。それと同時にシンシアがユーマを止めにかかる。

「臣下の礼をする必要はないとも。君の故郷がどこかはわからないが、我が国の民であっても今はその必要はない」

臣下の礼は主に兵士などが王族に対して行うもので、方膝をつき右手を心臓の位置にあてる姿勢を指す。シンシアはユーマの動きを見てそれと勘違いした。なお土下座という文化はフェルディアにはない。

「ひとまず座りましょう。話はそれからでも」

空気を変えようとカーマインがシンシアとユーマに提案し、三人は改めて部屋に用意されている席へと移動する。

シンシアが最奥、その隣にカーマイン、反対側にユーマである。

このあたりは日本と似たようなものなんだなと妙に感動するユーマであったが、これはたまたまであり、フェルディアの、というよりはこの世界にそんな席次は関係がない。

この三人の中では一番強いシンシアだが貴人でもあるため警護対象として一番奥の席へ、カーマインに戦闘力はないに等しいがそれでも貴人を守るときにその身を盾にするためその隣へ、ユーマはただ単に自国の民ではない客人故に席につくことが許されただけであった。

もしユーマがフェルディアの民であれば本来なら立会で行われる予定であった。王族と平民が同じ席に着くなどありえないからだ。

「さて、北門のゴブリンたちを蹴散らしていただけて感謝する。数が多くてね。厄介だと思っていたんだ」

ユーマに気を使ってかだいぶ砕けた話し方をするシンシアの言葉にカーマインも首肯する。

「私からもお礼を。ありがとう」

カーマインに頭を下げられ、ユーマもあわてて頭を下げる。

「さて、今回私たちがあなたを呼んだのはこうして御礼を言う以外にも頼みごとをしたくてね。ああ、ユーマ殿が冒険者だということは聞いているから当然ギルドを通しての依頼にはなるから安心してほしい」

冒険者への依頼はギルドを通すこと。これは鉄則である。ユーマはシンシアの話を聞きながらなんでギルドが出てくるんだと思ったが、そういえばそんな説明もあったなと思い出し苦笑する。

思えばあの時はサシャやサティの冒険者登録を翻意させようと受付嬢から説教じみた説得を受けていたのである。そちらに気をとられていてすっかり忘れていた。

ユーマの苦笑をどうとったのかカーマインが横から「むろん報酬も弾む」と口を挟んでいる。

「依頼、ということでしたら断ることも可能ですね」

「そうだな。そのあたりはお任せしよう。まずは話を聞いてもらって判断してもらえれば助かる」

給仕係が持ってきたお茶を受け取りつつ、シンシアは話を続ける。

「お願いごとというのはほかでもない。ゴブリンの討伐に協力をしてほしいということと、その後の北の森での掃討も協力を要請したいのだ」

北の森と聞いてユーマは肩をピクリと震わせる。むろんその胸中は拠点がその北の森にあるという事実に対する心配事だったのだが、シンシアやカーマインはそんなユーマの胸中を知る由もない。二人はユーマが西で死闘を繰り広げた冒険者らと似たような経験を北の森でしてそれを思い出したのだろうと思った。

「君が、というよりは君の仲間が北の森の依頼をことごとく受けているということはギルドから聞いているんだ。そこで北の森に詳しい君たちの協力をお願いしたいと思ってね」

続くカーマインの言葉は様子を伺うようなかなり優しげな声音に変わっている。ただその変化にも気づかずユーマは硬直していた。もし二人の目がなければユーマは頭を抱えていただろう。

拠点は巧妙に隠しているがそれでも数に任せて山狩りでもされれば隠し通すことは難しい。しかも拠点の防衛にセバスチャンが召喚したスケルトンを大量に採用したばかりである。どう見ても魔物の拠点としか見えない。自分自身も忘れがちだがドッペルゲンガーの魔物だし、サシャやサティも元がつくが悪魔なのだ。なにかの拍子にバレるということも考えられる。

ユーマは脳裏で自分が断頭台で処刑を待つばかりとなっている光景を思い浮かべて冷や汗を流していた。なお妄想上の死刑執行人は今目の前にいるシンシアになっている。

(ど、どうしよう)

ゴブリンをやっとの思いで追い払ったと思ったらこれである。頭を抱えたくもなる。やっと手に入れた拠点を手放す羽目になりかねないのだから。

『拠点のアイテムボックスを設置する前でよかったですね』

アイの言葉にユーマは心中で大きくうなずく。

そう。幸いなことにまだ設置前である。ラーナとサティを引き合わせたあとでいいかと先延ばしにしたことが結果的にファインプレーとなっていた。

やるじゃん。俺。

ただ単にユーマがサボっただけだったのだが、あせるあまりそんな過去の自分をベタ褒めしまくる現在のユーマである。

「お話はわかりました。ただ、私も仲間もゴブリンの群れを突破したばかりですので」

「ああ、わかるとも。今日はゆっくり休んでくれ。返事は明日でもかまわないさ。伯爵、これでかまわないか?」

「いろいろと北の森の状況を聞きたかったのですがやむを得ませんね。ユーマ殿。明日に返事を聞くことになるがゴブリン討伐が否だったとしても北の森で知りえた情報はこちらに教えてもらいたいのだがいいだろうか?」

ユーマが疲れていると見たのかシンシアもカーマインも強くは言ってこず、最後にカーマインが自身と会うために必要な面会状をユーマに手渡し終了となった。

貴賓館を出たユーマは小雪に迎えられそのままラーナたちがいる場所へと向う。

その間もユーマは拠点をどうするかで頭がいっぱいだったが、悩んだ末に一旦保留することに決めた。

現状洞窟の拠点を破棄することになったとしてもアイテム等の損失はほとんどない状態に抑えられると踏んだからだ。

むろんせっかく手入れをした安住の地を失うということや、セバスチャンたちアンデッド軍団をどうするかという問題は出てくるが、設置すれば回収できなくなるのではないかという疑いのある拠点アイテムボックスを設置していないという事実は心配事をいくらか小さなものにした。

最悪アンデッド軍団は放置してもかまわない。実際防衛力としてどうなのかを見るチャンスだと思えばいい。レッドたちは……冒険者にでもするか。

ラーナの隠れる場所へ到着したころにはユーマはそう考えるようになっていた。

小雪に案内され扉をくぐるとサティの声が聞こえてくる。その楽しげな声にユーマは悩みを少しの間忘れた。

(ラーナに会えたみたいだな。よかった。しかしこう聞いていると年相応っていう感じに幼い声なんだよな)

普段の声はある程度作っているのだろう。今ユーマの耳に聞こえてくる声にはそういった固さというのは一切なく、ただただ純粋に喜びが含まれている。

「楽しそうだな」

「あ、ご主人様」

声をかけるとサティの声は興奮をいくらか落とした調子へと戻る。それに申し訳ない、あるいは残念に思いつつ、ユーマはラーナと思われる女性を見やる。

ユーマを見て若干表情を強張らせたラーナらしき人物は、サティをそのまま大人に成長させたかのような容姿をしていた。

サティと同じく金髪碧眼、サティと違うところは、成人であるため当然というべきか出るところの出たグラマラスな体型をしている点だろう。

ユーマは自己主張している豊かな双丘を見てすぐ目を逸らしたがラーナが胸をかばうような動きを見せたことでその努力は無駄に終わったと悟った。

視線を逸らした先にはあの娼館前で見かけた赤髪の女がいた。

ラーナの様子を見てジト目で睨んでくるサシャたちの視線を努めて無視しつつ、気まずい空気を変えようと若干あせりながらユーマは赤髪の女に声をかける。

「あんたが悪魔かな?」

「そうだけど。あんたが暴食の召喚主かい?」

「そうだよ」

名前を聞いたつもりで声をかけたのだが。とユーマは考えつつも、いや今の言葉じゃ名前を答えようなんて思わないかと思い直して改めて名前を聞く。心中でアイがため息を吐いているような雰囲気が伝わってくる。言葉にするなら『焦りすぎです』だろうか。

「俺はユーマっていうんだ。君の名前は?」

「あたしは嫉妬。ルージュって名乗っているんだ。んで、あんたの視線で萎縮しているこの娘はラーナね」

「知っているだろうけど」と小さくつぶやきルージュがラーナの紹介も済ませる。というのもラーナが体を掻き抱くように縮こまってしまい、自己紹介をしそうになかったからである。

「あー、俺は離れたほうがいいかな」

おどけるように言ってみるが、ラーナに動きはない。女性経験のなさからどうしてよいやらもユーマにもわからない。

『私も挨拶していいですか?』

いいけど。

打つ手なしと見てあきらめかけたユーマにアイから声がかかり、渡りに船とばかりに体の主導権をアイに渡す。

意識を持ったまま、体の自由が利かなくなる。それと同時に視界の端で髪が伸びていくのが見える。ルージュやラーナの驚いている表情を見ながら、やがて体が自分の意思では動かなくなる。

「はじめまして。私はアイ。マスターのサポートをしている人工知能です」

「「じんこう……ちのう?」」

ラーナもルージュも驚き顔のまま首をかしげ、まるっきり同じ言葉を同じ調子で口に出している。

雰囲気は違えど似た者主従なのかなとユーマは考えるが、その間にも話は進んでいく。

今よろしいですか。

『のわ! なんだいきなり』

どこから声が聞こえるのか。それは自身の体の中からのようでいて、天から降ってくるようでいて。

まったく出所のわからないアイの声に驚いていると、アイのため息がやはりどこからはわからないものの聞こえてくる。

驚くのはいいですが今後の話です。

『あ、はい』

ラーナにはゴブリン騒ぎが落ち着き次第すぐにカサリを出てもらおうと思います。

『まあ賛成だね。そうだ、近々山狩りが行われる可能性があるらしいから、拠点を移転というのはできるかな』

あれをそのまま移転は不可能です。創造魔法で転移魔法を作るにしてもあの規模を移動させるのは魔力面からして難しいでしょう。それに魔力面をクリアできたとしても移転先にも十分な広さがなければ無理かと。

『なるほど』

もっと北方か、あるいは別の場所か。新しく拠点を作るほうが無難かと思います。

『ラーナを連れて行こうと思うと拠点が便利だろうと思ったのだけど』

山狩りで討伐軍がくるかもしれない拠点を使う危険を冒す必要はありません。現状ではあきらめてください。ラーナはカタストロ暗殺の実行犯というわけではなく、いわゆる計画者ではありますが捜査側に面が割れていないのであれば冒険者として登録してしまえばよいかと思います。冒険者が旅をするのは不自然でもなんでもないので。

『面が割れていたら?』

どうしても連れて行くというのであれば夜逃げ、密出国、なんでもいいですがそれなりの覚悟が要ります。

『そうなったらこの国で生きるのは困難になりそうだな』

なりそうというよりはなる、のほうですね。ラーナのほうはこれでいいとして、問題はルージュのほうです。ルージュは面が割れている可能性のほうが高いです。

『そんな状態でよく生活できたね』

そのあたり魅了の魔法を使っていたようで、ある程度は何とかなるようですよ。さすがに多人数に使えるものではないようですが。

『魅了魔法か』

クロスブレイドにも魅了の魔法というのはあった。ゲーム的には対魔物か対プレイヤーかで効果がまるっきり変わる魔法で、魔物相手の場合は魅了がかかれば相手を操ることが出来たものだが、プレイヤー相手だと攻撃行動を封じる程度の効果しかなかった。ただそれも攻撃以外の動作は出来るためすぐに対抗策がとられる程度の微妙魔法扱いである。よほどロールプレイがしたいプレイヤーくらいしか覚えることもない魔法だった。

こう魅了魔法について思い出しているユーマであるが、魔法使い系のキャラでプレイしていたときに一応魅了の魔法も覚えている。課金で、だが。微妙性能だったせいか安かったのである。

『ゲームだと微妙だったけど現実だと強力だったんだな』

より詳しく言えば魅了とサキュバスとしての能力を使用したようですが。とまあそれはともかくとして、ルージュに関しては再召喚してしまうほうが手っ取り早いかと思います。

『再召喚かあ』

サシャもサティも再召喚に応じた元悪魔で現在は人間の体となっている。それに関して応じてくれるかどうかは話をしないと分からない。

そのあたりはもう話してあります。

『え、いつの間に?』

この脳内会話の間は時間が進まないんじゃなかったっけ?

ユーマは本気でどういうわけか分からず疑問を呈するが、それにアイはそっけなく答えた。

あれはマスターが現実と脳内で処理が出来なさそうだから時間経過を体感で遅らせているだけであって、私なら同時進行が可能なのでその設定を解除しているだけですよ。

そう言われてユーマがあわてて現実の世界へ意識をやると、再召喚すると決まったルージュに対してラーナが抱きつき感謝の言葉を述べているところであった。

あれ、これイベント見逃したんじゃ?

愕然とするユーマにアイは何も言わなかった。



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