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カサリ西側の戦闘6

アンジェやロイら冒険者たちは救援隊本隊と合流を果たした。

追ってきていたゴブリンに対し、救援隊は防御の構えである。

ゴブリンたちの真正面、疾風の盾。その後方には救援隊本隊の槍兵、盾持ち歩兵が横一列に陣取り後ろには抜かせない構えである。

その後方弓兵及び魔法使い。

対するゴブリンは陣形という陣形はない。ただただ突撃するだけのものである。

疾風の盾の十八番である殲滅技は、今回は使えない。周囲に味方が多すぎるのもそうだが、そもそも魔法使いである疾風の盾リーダーが魔力枯渇で疲労状態であったのだ。

救援隊と先ほどのゴブリンの戦闘で魔法も使っていたためか周囲に漂う魔素も少ない。魔法使いたちの魔力回復には時間がかかる見通しである。

時刻はそろそろ夕暮れ。救援隊や冒険者らからみれば周囲が闇に覆われる前に決着をつけてしまいたいところであった。

ゴブリンたちが雄たけびを上げながら最前列、疾風の盾に向かって走りだした。

先ほどのとおり陣形もなにもない。直接殴りかかろうとする、そんな勢いのままの前進である。

「弓兵、構え!」

先制したのは救援隊側である。

救援隊指揮官が馬上からゴブリンたちとの距離を測り命令を下す。

「撃て!」

振り上げた剣がゴブリンの群れへと指し示され、弓兵がいっせいに矢を放つ。

ロイはこの時、映画でも見ているかのような気分になっていた。

実際体中から吹き出る汗は気持ち悪いし、空調の利いた映画館で映画を見ているような感覚に陥ったわけではない。

ただただ現実感がなかったため、そう感じたのである。

ロイの経験した中にこのような大規模な戦闘はなかった。

近い経験では商隊の護衛がそれであるが、それでもこんなにも多くの矢が飛ぶ場面というのはなかったのだ。

ロイの頭上を、目の前を矢が飛んでいく。

さすがに百もないだろうがそれでも多い数だ。

それらの矢はまるで吸い込まれていくかのようにゴブリンらの頭上に降り注いでいく。

いくらかの悲鳴もゴブリンらが上げる雄たけびにかき消されていく。それでもそれなりの数の矢がゴブリン達に刺さって絶命ないし戦闘不能に陥っている。

「すげえな」

「そうか?」

ロイの思わず出た言葉に隣に立っていたレオルトが返事を返す。だがレオルトはロイが目の前の光景に見入っているのだと気づくともう返事は返さなかった。

「すげえ」

再度矢が降り注ぐ。

今度は疾風の盾らがいる場所の十数メートル手前である。

弓はここで打ち止め。これ以上近くに撃つことは味方にあたる危険性がある。

「盾隊、押し返せ!」

指揮官の命令の直後、矢の雨を潜り抜けたゴブリンらの第一陣が疾風の盾、救援隊に激突する。


この第一撃で崩れた箇所は皆無である。

矢によってゴブリンの数が減らされていたし、人間側は前方に疾風の盾という小集団、その後方に横一列に並んだ本隊とに分かれていた。ゆえにゴブリンたちも一箇所に集中して攻撃するのではなく分かれてしまったのだ。

ゴブリンたちの中央の群れは疾風の盾に襲い掛かった。ゴブリンから見れば小数の弱そうな敵から狙うのは普通である。少数ゆえに疾風の盾はすぐに包囲されてしまうが、円形陣であるためにゴブリンたちが切り込める場所がない。すぐに膠着状態へと陥った。

ゴブリンの群れの右翼及び左翼は中央にいた疾風の盾を無視しその後方の救援隊本隊へと襲い掛かる。中央はゴブリンたちですでにごったがえしており、そもそも右翼左翼のゴブリンがその輪に参加したところで攻撃できる箇所がない。

ゴブリンの右翼左翼集団はそのまま後方にいた救援隊本隊に襲い掛かったのだが、近づいたときには突き出された槍に対応できずに死亡したゴブリンも相当数いた。

中央に気を取られ速度が鈍った結果である。

槍も掻い潜ったゴブリンもいたがそちらは盾に阻まれ再度の槍の一突きで絶命していく。

肝心のゴブリン・ライダーたちだが、損害確認ができたのは一組だけ、三組はいまだ健在である。その倒した一組にしたってグレイハウンドに矢が運よくあたって戦闘不能になっただけでゴブリン・ライダー自体は無傷だったようだ。だが無事のゴブリン・ライダーたちも疾風の盾を襲うには友軍が邪魔、救援隊本隊を襲うには盾と槍に阻まれ寄り付けず、どちらを襲うべきかと悩みうろうろとしているばかりである。

ゴブリン・ライダーが取るべきは一列に並んでいる敵本隊への迂回攻撃なのだが、そこまでの発想は彼らにはできなかった。

そう時をおかず第二波目。

第一波の犠牲をものともせず、というよりはおそらく認識できていないのか。ほとんどのゴブリンが興奮した状態で襲い掛かっている。

戦場に酔ったとでもいうのだろうか。なんにせよ人間、救援隊側からすればチャンスであった。

第二波は最初から疾風の盾たちを無視している。

疾風の盾の周囲には相変わらずゴブリンたちがいるし参加できる余地がなかったためだ。

だが疾風の盾と包囲するゴブリンたちは街道のど真ん中にいるためにゴブリンの第二波は自然と二つに分かれて救援隊本隊へと襲い掛からざるを得なかった。

ゴブリンたちが襲い掛かる前に救援隊側からの攻撃がゴブリンたちへ襲い掛かる。

中央部分への射撃をしていた弓兵がこんどは左右への射撃に加わったのだ。中央には疾風の盾がいる。敵が多いとはいえ味方に当たる可能性を考慮すれば当然の処置でもあった。

先ほどの射撃よりも濃密な矢の雨が降り注ぎ、ゴブリンたちは次々と倒れていく。

無論矢の雨を掻い潜ったゴブリンたちも今度は槍と盾の洗礼を受ける。第一波と同じように順次狩られていってしまった。

「キャイン!」

 第二波のゴブリンたちに押し出されでもしたのかゴブリン・ライダーとグレイハウンドの一組が盾と槍の壁の前に沈黙した。残り二組は疾風の盾と救援隊の間、ゴブリンたちが二手に分かれて再度合流する間のちょっとした隙間となった空間でうろうろと落ち着かない様子である。グレイハウンドたちがどこかへ走ろうにもそんな広さもない。そもそもどこか行こうにも味方のゴブリンが邪魔になって動けずにいた。

「右翼! 側面から敵だ!」

 単調作業となりつつあった防戦に変化があったのは第四波を迎え撃った時であった。

「グオアァァ!」

 救援隊右側面を突いてきたのは行方が分からなくなっていたゴブリン・ナイトである。その後ろには多数のゴブリンを従えている。

 森から飛び出し一挙に救援隊の盾兵へと迫ったゴブリン・ナイトがその勢いで槍を振るう。

敵は多勢であるために弓兵、魔法使いの面制圧能力を最大限に発揮しようと横一列の陣形に並んでいたことが災いした。

 対処が間に合わず盾兵の一人がゴブリン・ナイトの槍に沈む。ひとたび崩れだすと脆い。なにせ盾兵、槍兵の壁は人数の都合上一列しかないのだ。

近くの兵士が必死で槍を振るうがゴブリン・ナイトにはいなされてしまう。その隙を突き、こんどはゴブリンたちが襲い掛かる。

混戦となりつつある中、救援隊指揮官の指示を待たずに動き出したものたちがいた。

弓兵隊である。

「右翼弓兵は弓をしまえ! 剣を抜け! 我らで穴を埋めるぞ!」

弓兵隊長は同士討ちを恐れ即座に右翼の弓兵の射撃を止めさせ食い破られつつある前線の穴埋めとして弓兵右翼を当てた。

これにより突破されかかった前線の建て直しに成功する。しかし状況はあまり良くなっていない。弓の訓練をつんでいる弓兵でも剣は扱える。だが剣や槍を専門に使う兵士に比べれば弓兵の剣の腕前というのはあまり期待できなかった。ゴブリンの抑えには使えても、本職の兵士でも苦戦するゴブリン・ナイトにはまず歯が立たないのである。

「くそ!」

槍兵や盾兵は前方の抑えが任務であり動けない。いや、動かせない。動かしてしまえば前方のゴブリンの集団への抑えを失い戦線が崩壊してしまう。かといってゴブリン・ナイトは無視できない。故に救援隊指揮官じきじきにゴブリン・ナイトの相手をするという博打に出ざるを得なかった。

次級者がいるとはいえ一歩間違えれば部隊の崩壊を招きかねない危険な賭け。それでも救援隊の中では強い騎士である救援隊指揮官でなければ勝ちの目が拾えない賭けでもあった。


疾風の盾も苦戦を強いられていた。

疾風の盾の攻撃力はほとんど疾風の盾のリーダーである魔法使い、つまり魔法に依存していた。今はほかのチームの冒険者たちが加わり、槍や剣などで応戦しながら倒しているが、魔法のように一気に殲滅までには至れない。

「くそったれ! いったいどれだけいるんだっての!」

残り少ない魔力回復薬を飲み干しながら疾風の盾のリーダーが悪態をついたと同じ頃、救援隊本隊にゴブリン・ナイトが襲いかかっていた。だがこちらは周囲を取り囲まれておりその事態には気づけないでいた。

ただ一人、メイだけが違っていた。

彼女は弾かれたようにゴブリン・ナイトがいる方向へ走りだした。

「は?」

盾の後ろで戦列を保っていた冒険者があっけに取られるのも無理は無い。彼らは救援隊にゴブリン・ナイトが襲い掛かっているなど露ほども気付いていないのだ。メイの突拍子もない動きに戸惑うなというほうが無茶であったろう。

可哀想なのはメイと協力してゴブリンの対処に当たっていた冒険者である。二人して淡々とゴブリンの処理を続けていたなかいきなり相方であるメイが消えたのである。突然仕事が二倍になったようなものであった。

同じく戦列内にいたアンジェも少し可哀想なことになっていた。メイが後ろから抱きつき、アンジェが異変を察知する間もなく体をよじ登られ踏み台にされた。

「ちょ、ちょっ! ぐえっ!」

メイは重力など感じさせない動きで軽やかにゴブリンの壁を跳び越すと、メイは姿を消した。後に残されたのは顔を踏みつけられたアンジェである。

メイの向かう先からはゴブリンの悲鳴が響くが、冒険者たちには周囲が騒がしすぎて聞こえない。

「え、敵前逃亡? 違うよな?」

一部始終を見ていた冒険者たちの困惑をよそに、踏み台にされたアンジェと仕事を押し付けられた冒険者の怒りの声はほぼ同時であった。

「「あの野郎!!」」

最も哀れなのはアンジェの怒りを直接ぶつけられたゴブリンたちであった。


救援隊指揮官は焦っていた。

ゴブリン・ナイトの怒涛の攻めに防御が追いついていないのである。

救援隊指揮官の腕にはゴブリン・ナイトの一撃を受け流し損ねてしびれが残っている。

ほほには傷が一筋、息は絶え絶えといった様子であるがどうにかこうにかゴブリン・ナイトを抑え込めている。

しかしそれも防御に徹しているから出来ているのであって、たとえば今こちらから攻撃を仕掛けてしまえば即座にゴブリン・ナイトの槍が自分を貫くであろうことが救援隊指揮官にはわかっていた。

たかがゴブリンと思っていたことなど戦いの中で投げ捨てた彼だが、ゴブリン・ナイトの強さはそれすらまだ侮っていたと思わせるものであった。実際彼の同僚たちの中でこれほどの猛者がいるかと問われると匹敵する者の名を挙げることが難しいくらいである。

そんな雑念を読まれたのか、ゴブリン・ナイトが不意に力を抜いた。この動きに反応できず、救援隊指揮官は槍を剣で抑えていたため支えを失い少し体勢が崩れる。

(まずい!)

横なぎに衝撃がはしり、ついで腹部への衝撃を受けて救援隊指揮官は大きく吹飛ばされた。

彼にはわからなかったがゴブリン・ナイトは槍の柄の部分で彼の横顔を殴り、その勢いのまま蹴りを放ったのだ。

この絶好の機会にゴブリン・ナイトが槍で突くことなくこのような行動に出た理由はすぐにわかった。

ゴブリンを踏み台に盾兵や槍兵の列を飛び越しメイがゴブリン・ナイトの上方から襲い掛かったのである。

ゴブリン・ナイトは槍を振るってメイを弾き飛ばそうとした。

だがメイは体を捻り槍の動きに対して滑るように衝撃をいなすとその回転の勢いのままゴブリン・ナイトを斬りつけた。

ゴブリン・ナイトの苦しげな声があがるが致命傷ではない。一瞬の後には傷つけられたことで怒りが増したのか苛烈な勢いで槍がメイへと襲い掛かる。

顔に迫った一撃をすんでのところで頭だけを動かして避けたメイはゴブリン・ナイトの持っていた槍を刀で弾き、生まれた隙を最大限に活かして肉薄する。

ゴブリン・ナイトの動きも特筆に値する。

槍が振るえない距離とみるや直ぐに槍を手放しメイへと殴りかかったのである。

これにはメイも驚いたのかわずかに目を見開き、自身の軌道を修正しようとするが間合いを詰めようと前へ出ようとした動きを急に止められるわけも無い。

結果的に自身に迫った拳に真っ向からぶつかる形になり盛大に吹飛ばされてしまった。

槍を拾い上げようとしたゴブリン・ナイトに今度は救援隊指揮官が斬りかかる。

メイが吹飛ばされたのを見た彼はメイが止めをさされることを恐れて前へ出たのだ。

不意をうてることを期待した一撃だったがゴブリン・ナイトには難なく避けられた。

だが槍を拾わせることは阻止できた。その上救援隊指揮官の視界の端ではメイが立ち上がるのが見えていた。

(これならばなんとかなるやもしれん)

彼一人ではゴブリン・ナイトは抑えられないが、メイと二人協力できるなら勝ち目はある。

「協力できるなら」という点に不安がないわけではないが、メイが主軸でゴブリン・ナイトがメイに集中するのを邪魔する形であれば出来るだろう。

メイの表情に感情は見えないが、それでも視線がまっすぐゴブリン・ナイトを見ていることから仕留めることを考えているのだろうということはわかる。

周囲に響く戦闘音が聞こえないほどにゴブリン・ナイトの動きを注意深く観察する。それと同時にメイと救援隊指揮官はジリジリと慎重に距離を詰めていった。

ゴブリン・ナイトは一気にメイへと向かって行った。

この動きはメイも救援隊指揮官も予想していなかった。

二人に挟み込まれている状態ではゴブリン・ナイトもどちらかへ攻撃を仕掛けるだろうということは想像がついていた。ただそうなった場合には救援隊指揮官のほうへ来るだろうと思っていたのだ。

救援隊指揮官とメイとでは強さに差がある。

メイのほうが強い以上、ゴブリン・ナイトが活路を開くにはより弱い救援隊指揮官のほうへ向かってくるだろうと予測していた。槍を持った状態で防御に徹した救援隊指揮官を倒しきれなかったのだ。そして万全の状態でメイと引き分けている以上は槍を持たない無手の状態でメイに向かうとは考えづらかったのである。

現に救援隊指揮官は飛び掛られることを前提として防御しやすいように剣を構えていたし、メイのほうも即座に飛びかかれるように低めに構えていた。

これら全てを読みきったのか、それともただの偶然か。ゴブリン・ナイトの動きは結果として彼に幸運の女神が微笑むこととなった。

襲い掛かられたメイのほうは一瞬虚を突かれたものの何とか剣を振るうことはできた。ただ出来ただけで牽制程度にしかならず、振るった刃はゴブリン・ナイトの腕を軽く斬りつけるに留まった。救援隊指揮官のほうはまったく対応できなかった。防御を念頭にしていた為に後ろに下がることを意識しており、ゴブリン・ナイトを追うようには体勢ができていなかった。故に彼はメイの攻撃を潜り抜けたゴブリン・ナイトが身を翻し森へと消えていったのを見ていることしかできなかった。

「に、逃げたのか」

飛び掛るかと思われたメイが諦めたように刀を仕舞うのを見て、救援隊隊長は安堵ともつかないため息を吐いた。

ゴブリン・ナイトという強敵が居ないならこの場はなんとかなる可能性は高い。

そのタイミングで歓声が上がるのが聞こえた。言葉は不明瞭ではあったが、よくよく聞けばどうやらグレイハウンドの一体を倒したらしい。

襲撃を受けた救援隊もゴブリン・ナイトが逃げたためか落ち着きを取り戻している。

「押し返せ! それさえ成れば撤収できる!」

もう一息。終わりが見えたことで士気は大いに上がった。

ゴブリン・ナイトが逃げたことで組織的な攻勢に出られなくなったゴブリンの群れは各個撃破されていった。

圧力の弱まった攻勢に対し冒険者らが一気に反撃を行い、ゴブリンらを押し返したのである。

救援隊と冒険者らの間に居たゴブリンたちは逃げ惑うのみで倒され、救援隊正面にいたゴブリンたちも攻勢にでた兵士らの槍の前に沈んだ。

それでもゴブリンの多くは逃げおおせたためカサリにとってゴブリンの脅威は去ったとは言い難いが、救援隊、冒険者らが逃げるには十分であった。

残る気力を振り絞り、カサリに向けて撤退を始めた救援隊たちに追い討ちをかけるゴブリンらは居なかった。


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