ようこそ異世界へ
悪魔の話をアイの補足を受けつつ要約すればこういうことになる。
この悪魔は現界するのは二度目のようだ。
一度目は護衛として呼び出されたようだが敗北してしまったらしい。
その後の召喚主がどうなったかは不明。
まあそれがどうなったか気になって調べたいとのことだ。なんとも律儀というか。
もうひとつはその召喚主と旅をしていてどうにも人間界が面白そうだったこと。
ちょっと見て回りたいという軽い気持ちらしい。
いいのかそんな観光でちょっとみたいなノリで。
『非実体でそのあたりをウロウロしている個体が意外と多いようです。普段は観測できないものをひょんなことから観測した結果が、人間で言うところの幽霊という存在です。幽霊を見て悪さをされることがあるのは悪魔の仕事としては人間界にちょっかいを出すことも含まれるからのようです。人間側呼称である幽霊としても見られたからにはやらないといけないという義務が生じるみたいですが』
幽霊って悪魔だったんだ。しれっと答えるアイだがちょっかいって何よ。あと仕事なのか。
『世界のバランスという必要なものです。それはさておきそのちょっかいですが、上級悪魔が一体出没した国ではその一国を滅ぼしたことがあります』
ちょっかいがでか過ぎませんかね? それもうちょっかいとは言わない。災厄かなんかだろう。
一国を滅ぼす? なんだその強さ。やばすぎるだろ。
決めた。この悪魔を再召喚するときには人間として召喚しよう。それが最低条件だ。
何かの拍子で暴れられて国が滅ぶとか罪悪感どころじゃない。
人間の体に悪魔を乗り移らせるような感じであれば魔法とかそういう非科学的な力はともかくとして人間の身体能力には限度があるのだから御しやすいのではないだろうか。
『可能です。人体の構成要素としては火の魔素に……』
あ、そのあたりお任せします。魔素とかまた新しい言葉が出てきたがいい加減に脳みそがパンクしそうだ。
アイは特にリアクションをするのでなく、黙っている。あきれたような雰囲気に一瞬なったのは気のせいだろう。
「だいたい理解した」
悪魔に向けて言ったつもりだがアイの横槍が入る。
『ほんとでしょうかね』
うるさい。
今度こそあきれたような雰囲気をかもし出したアイに暴言を吐くが、何度と話すうちにこのくらいは大丈夫だろうという確信を持っていた。
現にアイのほうはからかってコロコロと笑うような楽しげな雰囲気が伝わってくる。
AIにからかわれるとは。
「ならば早く取り掛かるとしよう」
悪魔は迎え入れるかのように両手を広げた。
無防備なその姿はすべてを受け入れるという意思表示だろう。
「召喚するのはいいが、ちゃんとお前が来るんだろうな。あと悪魔としてじゃなくて人間の体に入ってもらうからな。それが飲めないなら再召喚は応じられない」
「そうだな。人間の体になるのは嫌だが、やむを得まい。その程度なら我慢くらいはできる。あとはちゃんと再召喚されるかは心配がない。お前の魔力波長を覚えておく。あとはそれを辿ってくればいいだけだ」
「そんなことができるのか」
そのつぶやきは小さなものだったが、耳がいいのか悪魔は聞きつけて少し自慢するかのように笑った。
「悪魔はもともと精神体だ。魔素とかそういう扱いには慣れっこなのさ」
精神体という言葉にちょっと意識が行きかけるがなんとか持ちこたえる。
もし意識を向けようものならアイがここぞと説明しにくるに決まっているのである。
まとめて後で聞くから、な。
体から何かが移動して、それが刀に移っていく。
刀身に淡い光が宿るのが見えた。これが魔力を通すということらしい。
悠馬としては初めて見ても、知識としては知っていてそのギャップというのがなんともこそばゆいというか気持ち悪いと言うか。奇妙な感覚なのは間違いない。
それに佐藤悠馬としてやったことがなくても難なくできてしまうのは魔力操作のスキルのおかげだということもさっと情報として脳裏に浮かんでくる。
虚空からアイテムを取り出すアイテムボックス、魔素、魔力といった要素。それに目の前の悪魔に代表されるような召喚術。それらはすべて佐藤悠馬として生きた現実には存在しなかったものだ。
なんで自分がこんなところにいるのだかわからない。
だけど現実としてこの場に存在している以上はそこで生きていくしかない。
小説やアニメなら帰る手段を必死に探すのだろうけど、悠馬の生活というのは仕事以外にはクロスブレイドをプレイしているしかなかったし、そもそもこの体で帰るとはどこへ帰るというのか。
悠馬は刀を上段へ振りかぶり悪魔へ突進する。
反撃がくるかもしれないなどまったく考慮していない隙だらけの動きだ。
それでも悪魔からの攻撃はなかった。
悠馬は振り上げた刀を悪魔にめがけ勢い欲振り下ろした。