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頼れる相棒(主力)と俺(雑魚)と悪魔

「し、死ぬかと思った」

死亡を一日に一度防ぐというネックレスを装備していた悠馬は瓦礫の山から這い出して一息ついた。

悪魔の攻撃で死んでいたら使えなかった手だが、死んでいないということがなぜだかわかったためにできたことだ。瓦礫で死ななかったのは運がよかったのだろう。まあ防具のおかげかも知れないが。

ただ爆炎玉で死亡したものの、一日に一度だけ死亡状態から蘇生できるという装備のおかげでこうやって助かっている。

死んでいないというそんな謎の確信がなければあんな自爆するようなまねは絶対取らなかった手段だ。

(なんなんだろうな。この感覚は)

脳にするりと入り込むような違和感を伴う知識というか、経験というか。

死とはこういうものだ、というように知識としてではなく「わかる」のだ。

不可思議な感覚を味わいながら、さてこれからどうしようかと考える。

朝なのか昼なのか。いまいちつかめないのも、先ほどの室内の暗さから比べれば外は格段に明るくてとっさに時間の感覚がわからなかったからだ。

周囲を見渡しても田畑ばかり。かろうじて近くに納屋のようなものがあるが先ほどのことを考えるとローブたちのような変な奴がいそうで中に入る気にもなれない。

(それでも誰かには会って状況を確認はしたい。たとえ日本とは違っていても何かわかるだろうし)

涼しい風が吹いているが日差しは暑いくらいだ。夏ごろだろうか、田畑も枯れ草色ではなくみずみずしい緑色が広がっている。

近くを流れる小川、いやこの場合は水路だろう。よく見れば田畑へ引き込めるようになっている。

ともかくその水路で自分の姿を確認する。

流れる水に映る自分は多少ゆがんで見えたものの大まかには確認ができた。

黒髪に整った顔立ち。悠馬自身の顔よりは格段にいいことが少しげんなりさせる。はっきり言えば二枚目だ。そしてそれはゲームで見慣れた顔である。

ゲームをしていて異世界に転生した。というかゲームのキャラで異世界に来た。というのが正しいのかもしれない。

見た目の年齢は十七か十八か。いずれにせよその程度で実年齢との差は十五ほど。一回り以上違う。

あとで体の確認でもしておこうと思いながら虚空へ手を伸ばし武器を取り出すことにする。

アイテムボックスだ。

不思議なものでこうすれば使えるのだ、ということがわかってしまう。だがわかっているからといって原理を説明せよといわれるととたんにさっぱりである。

言ってしまえば道具として使えるけれどじゃあパソコンはどういう原理で動くのか説明しろといわれて説明できないのと同じようなものだ。もはや気にするだけ損というものである。使えればいいのだ使えれば。

思い描いた武器を取り出そうとしてしびれるような感覚を覚え、あわてて腕をアイテムボックスから引っこ抜く。と同時にまた知識の奔流のようなものが脳裏を駆け巡り、不快感とともにうずくまる。

今取り出そうとしたものは戦士職のときに使っていた武器である。そして同時に脳裏に浮かんだのは「レベルが足りません」という文字である。

「つっ、ゲームかよ」

悪態をつきながら仕方がないためレベル制限のついていない武器を取り出す。レベル制限付より弱いが仕方が無い。というかこの現実にもレベルがあるのだろうか?

日本人としては見慣れたもの、刀を鞘ごとアイテムボックスから取り出し腰に差す。

黒一色の服で軍服っぽい感じだが、刀を差してみても違和感はなさそうだ。

体につけている服も靴も高い防御力を誇るものだし、頭につけている防具は確か服に似合わないから透明にして魔法用の補助AIだという設定にしたはず。

ん? AI?

そう思い出したときである。

『はい。マスター』

脳裏に響く声。

女性の声をしたそれは、御用はなんでしょうかとばかりに主人の言葉の続きを待っている。

『? マスター?』

思わぬ事態。いやそれを言い出したらこの異世界転生っぽいこと自体がそもそも思わぬ事態になっているが、それはともかくだ。

脳裏に別の誰かが巣食っているという事実に少しばかりの恐怖と驚愕を覚えるものの、先ほどの知識の奔流というのはコイツのせいかということを理解する。

『「せい」、ではなくそこは「お陰」というべきではないかと思います』

しかも自我有りか。

なんてこったい。

ここに来て短いが何度思ったかわからない。だが今言えるのはおそらく今日二番目の「なんてこった」はこのAIの存在だろう。一番目は言うまでもなくゲームからいきなり現実へ来たことだ。

「ええと、君は?」

『名前はありません。好きに呼んでいただければ。マスター』

ええと声は女の子。女の子の名前でいこう。

エーアイ。

アイ。

「じゃあアイにしよう。それで、アイは補助AIだということでいいのかな?」

『わかりました。私の名称はアイで登録しました。それでマスターの質問にお答えしますがそのとおりです』

アイはやはり補助AIで間違いないらしい。そしてそういう設定が現実になったこともあわせて理解できた。

「なら次だ。ここはクロスブレイドの世界ではないのかな?」

『はい。クロスブレイドではなく、まったく未知の世界です。ただ似たような世界のようですが……申し訳ありません情報不足です』

さっそく未知の世界だということがわかった。あれ、アイさん有能じゃないか?

『お褒めいただき恐縮です』

……頭で思ったことに対して反応したな。だったら声に出す必要なかったじゃないか。

『知っておりましたが、聞かれなかったので』

そうしれっと答えられるとなんだかな。知っていたなら先に教えてくれても。というか最初の疑問も声に出していないにもかかわらず答えていた気がするな。

『お望みならば全知識の緊急ダウンロードが可能です。実行した場合三日ほど熱で寝込んだ後に人格崩壊が起こりますが実行しますか?』

やりません! 怖いわ!

これうかつに変なこと考えると躊躇なく実行されそうで怖いな。

これからは何かやるまえに許可を得るようにしてくれる? 怖いから。

『はい』

さてと、である。

出鼻をくじかれたような感じだが、とりあえず第一村人を探さないといけない。

有益な情報が得られたらいいが。

『マスター。よろしいですか?』

何が? そう思った瞬間である。

『敵です』

背後の瓦礫の山からさっきの悪魔が飛び出してきた。

一応はさっきの悪魔だとわかるが、角は折れて体中から血がでている。重傷なんだろうな。悪魔にそういうものがあればだけど。

「うげ、またか」

刀を抜き正眼に構える。

刀など現実に扱ったことなどないが、剣道を学生時代に体育の授業でやったことのある人間としてはそれ以外の構えなど思いつかない。

『剣道と剣術の違いについては……』

いや、今はいいから。

「ニンゲン如きに」

人間か。

元は、佐藤悠馬は確かに人間なのだが、今のキャラ、つまりこの身体は違う。そしてそれが理解できている。

ドッペルゲンガーという魔物だ。

ただキャラメイクによってその魔物の体に人の外見が真似られているだけである。

クロスブレイドで作れるキャラ中でもっともレベルアップでの成長率があったのがドッペルゲンガーという魔物である。その代わりに初期ステータスはかなり低い。

種族固有スキルが擬態というスキルだが、相手の姿からスキルまですべてを真似することができる代わりに、相手の能力の八割のステータスになるという使いどころに困るスキルだったことと、初期能力の圧倒的低さ、さらにはゲームの初期ではドッペルゲンガーだけがキャラメイクのように外見をいじくることができなかったためドッペルゲンガーを選択するプレイヤーは少なかった。

故に成長率が高いという隠れた利点は周知されずに終わった。不遇な種族と言える。

もっとも、成長してステータスが他より高くなると今度はわざわざ相手の八割の能力となる擬態をする必要が無くなる。つまり種族スキルがそのまま死にスキルとなってしまうという問題もあるのだが。

ともかくとして、悠馬の今の身体は魔物であるし、それは悠馬自身が流れこんできた知識で、そして感覚によって分かっている。

かといって人間とどう違うのかと問われると悠馬も首をひねる事になる程度には両者に違和感はない。意識自体は人間である悠馬なのだから。

どう説明したものやら。

『そのまま伝えればよろしいのでは?』

おおう。いちいち返答ありがとよ。

確かにそれしかなさそうではある。

この悪魔が人間嫌いなのかどうかは知らないが、一応今の自分は外見はともかくとして人間ではないのだ。間違いで殺されたくはない。

「俺は人間じゃないぞ」

「ほう。だとしたら何だというのだ」

まあ、外見でいえば人間だもんね。

とか思っている間にまた脳をまさぐるようなあの違和感。理解したのは外見の解除方法。

奇妙な感覚を我慢しつつ、悠馬は顔の擬態だけを解除することにした。

左手を翳し、上から下へ。

あの悪魔には真っ黒な鼻も目も何も無い、黒豆のような顔が見えているはずだ。

動きを止めた悪魔を窺えば口をあんぐりと開けて絶句した様子だったがすぐに気を取り直したようだ。

「おまえ、かなり上手に擬態しているな。気配まで隠せるとは。何者なんだ」

「俺はドッペルゲンガーだな。間違って無ければ」

「間違うことあるのか? しかし、ドッペルゲンガーだと? 下級の魔物ではないか」

そういってなにやら悩みだす目の前の悪魔から視線はそらさずに刀をもう一度構えなおす。あの爆発を生き残るのだ。それなりの、いやかなりの強さがあるのかもしれない。

それにしてもなんだ? 悪魔にも上下があるのかな?

『悪魔には長年生きた上級の……』

いい。後で聞くから。

ここぞと口を挟むアイにペースを乱されている。

戦闘になったときとかにアイが変な知識を語りださないようにしないと気が散るかもしれないな。

「それで? 争う必要はないと思うんだけれど?」

「確かにな。……お前、召喚術は使えるか?」

悪魔の唐突な質問に脳内を検索する。

この検索機能というのか、本当にその言葉、今回であれば召喚術だが、を思い浮かべると自分の中の知識から検索をかけるようで関連する情報が一覧で出てくるのである。

召喚術、使用可能スキルには確かに使えるという回答が出てくる。

「使える、ようだな。少し魔力が心もとないが」

「そうか。使えるなら俺を倒して再度召喚してくれないか」

え、倒すの?

すぐさま次の情報として悪魔召喚にかんする記述が脳内へ流れ込んでくる。

「術者が死亡した状態であれば魔界へ帰るのではないのか?」

新しい単語、魔界に少し興味がそそられるが、そこは強引に抑えて話を進める。アイがそわそわしている雰囲気が感じられるが無視である。

「契約前であればそうだが、私はすでに契約してしまっている」

そうか。契約に縛られるということはこの人間界に縛られることと一緒だ。契約が達成されるまでは勝手に帰るというのはできないようだからな。他に帰る方法といえば倒されるしかない。

「倒すのはいいが、再度召喚というのは?」

一応は確認しておかなければならない。再度呼ばれたいということはこの人間界で何かやりたい事があるということだ。

人類☆滅殺とか言われたら元人間としてはさすがに召喚するのはどうかと思うし。

「やりたい事があってな」

いやそれを聞いているんだよ。言いたくない何かがあるのかもしれないが、きちんと聞いておきたい。

「人類を滅ぼすとか、特定の人間を殺すとかじゃないのかな?」

「そうではないな」

ならとやかく言わなくていいか。危険性はないと思いたい。

『魔界というのは……』

いいから! 後で聞くから!

アイが危険は無いと考えたのかここぞと話そうとするのをあわてて遮る。

アイの不機嫌そうな雰囲気が漂うが、一応倒して再召喚するまでは危険が無いとは言い切れないだろう、と考えると不承不承だが納得してくれたらしい。

「俺は人間界に強欲という役割を持つ悪魔として召喚された」

強欲。

すぐさま脳内で検索がかかる。

まあもう検索結果を待つまでもなく悠馬の脳裏には七つの大罪という単語が出てきているが、そのあたりはあっているのか後で照合しよう。

この感覚も慣れて行かないといけないな。

『私がマスターの代わりに情報を受け取ってそれらを統合して説明しましょうか? 現状では関連するすべての情報が検索されてしまいますから』

おっ助かる。でもそうしたほうが自分の話す機会が増えるとか思ってない?

『…………』

なんか言えよ。図星じゃないか。

AIだよねコイツ。すごく人間的というかなんというか。まあ事務的に返されるよりは血が通っているというか。まあいいや。

今はアイのことより目の前の悪魔である。

「役割とは?」

「知らん」

知らんって。大雑把な契約結んだんだな。

「俺は現界することが目的だったからな。あとは何でもよかった」

現界とは、と思う前にすぐさまアイが情報を流してくれる。

天界、魔界の住人が人間界へ姿を現すことを現界というらしい。この場合実体、非実体を問わず人間界へ現れることを指すようだが、非実体だと人間側に観測できる者が少ない。人間界側の定義では実体を伴って現れることを現界と呼んでいるらしい。

こんなところで定義の違いが出るとは思わなかった。こういう立ち位置の違いでの差がリアルっぽい。まあ現実なんだけども。

天界という言葉も気になるな。俺の感覚で言えば神様がいる世界という感じなのだが。

よくあるライトノベルなんかだと神に選ばれてどうのこうのとか。さすがに俺にはないか。あるのなら今頃転生特典とかもらっているんだろうし。

『欲しいのですか?』

そりゃね。楽になるなら越した事は無いんじゃないかな。

『マスターはスキル作成などさまざまな能力をお持ちのようですがこれは?』

それはゲームでの話だろう。

と、思ったが俺自身ゲームから転生というかゲームキャラが転生しているわけで。もしかして使えるのだろうか。

『使えるかと思います。軽く調べただけでももうすでに世界に対してズルをしているくらいの優遇ものです』

ズルって。いやまあチートってそういうものだろうけど。

『作成に対する調整はさせていただきます』

なんかノリノリだな。

なんだかウキウキしているようなアイを無視して目の前の悪魔へ意識を戻す。ちょっと長い間ほったらかしてしまったんじゃないか。

『大丈夫です。私と脳内で話している時間はどれだけ話し込んでも現実には一瞬ですから』

……もうそれがチートな気がしてきた。


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