走馬灯?
佐藤悠馬三十二歳。
独身。彼女いない暦は年齢と同じ。
悠馬はそこそこの大学を出て本格的な就職氷河期に入る前に運よくある会社へ滑り込み入社を果たした。
会社では可も無く不可も無い。いい意味でも悪い意味でも目立つ社員ではなく、いわゆる普通の社会人として生活していた。
ちょっぴり彼が普通でなかったことといえば社会人一年目にしてクロスブレイドというゲームに給与のほとんどを使い込むほどにのめりこんだくらいのものだ。
世間ではそれを重度のゲーマーとも言うがそれはともかくとして。
現実ではそんな個性くらいしか持たない彼ではあるが、ゲーム内ではそこそこ名の知れた存在だった。
レベルは千あると言われるクロスブレイドでレベル九百八十を誇る魔法職。
二つ名を闇の支配者、ダークロード。
またあるときは五百レベルの戦士職。黒い甲冑に身を包み、日本刀を振る騎士。
またあるときは三百レベルの支援職。闇にまぎれる暗殺者。
そして今のゲームプレイ時のキャラクター。
一レベルの万能系。
このとおり悠馬はクロスブレイドのゲームで四つほどキャラを持っている。
悠馬が有名だったのは魔法職としてだが、万能系を除いてそれなりのプレイヤーであった。
ゲームの初期は通常一人に一つしかキャラはもてないのだが、大型アップデート後に制限は解除され、それ以来に二つ、今の自分が四つ目のキャラクターだ。
クロスブレイドでは職業というものは存在しなかった。そのかわり系統と呼ばれるツリーで管理されていた。
その系統も初期は三種しかなく、物理関係のスキルを覚える戦士系統、文字通り魔法関係スキルを覚える魔法系統、冒険や特殊なスキル類を覚える支援系統などであって、系統を決めると変えることができなかった。
四、五年もゲームが続くとさすがに他の系統はどうだったのかなど気にはなってくるものだ。
今までにも一応「変装」、「変身」といったスキルによって擬似的に他の系統を扱うことができたが、本職に比べれば同レベルの九割ほどしか能力は発揮できず、単体ではまず負けてしまう性能しか発揮できない上に元の系統のスキルが一切使えないというデメリットがあった。
さすがになんとかならないかという声が多く、そういった要望に応えた運営は他系統を使えるようになるスキル類の性能アップではなくキャラの複数作成を実装したのである。
また、基本の三種系統に加えてそれらを百レベルまで修めた後に作成可能な万能系統というものが新たに追加された。
最終的にこれら四系統がクロスブレイドで使用可能な全系統となる。
もっともこの系統というのはプレイヤー間ではあまりはやらず戦士系統なら戦士職と呼び変えて言われていたのだが。
ただこのアップデートでも新しくキャラ作成をするとスキルもステータスもその系統の初期のものに戻ってしまう。
一応元のキャラは消えるわけでなくいつでも戻せるのだが、万能系はその制約を撤廃する系統として誕生した。
万能系はそれら三系統のデータからスキル類を抽出するためか、三系統を鍛えれば鍛えるほど強くなった。だからこそユーマはあまり重視していなかった支援系統すら三百レベルを超える程度にはプレイして鍛えたのである。また万能系統はアイテム類も他の三系統が持っているものを拠点のアイテムボックスから取り出し放題であった。
万能系でなくても一応の例外として、自分で作ったスキルやアイテム、一部の消費アイテム系は引き継いで使用はできた。
このクロスブレイドというゲームはスキルを作成できることからもわかるようにとんでもなく自由の利くゲームである。
アイテム、装備、魔法等のスキルにいたるまですべて自分で作れる。
たとえば魔法を作るのも一応設定の上限(魔法の性能も、作れる個数もだが)もあるものの、それらは課金で撤廃できた。
プレイヤー同士の戦いではさすがに規制を受けるが、そこいらのモンスター相手ならそういった制限無く使える。
つまり作れば作るほど弱くても無双できる可能性があるのだ。
まあ強くしすぎても逆に消費魔力とかそういったものが比例して大きくはなるのだが、そのあたりも装備などでカバーできたりするのでわりとどうとでもなる。
悠馬も新しくキャラと作るにあたりせっせとアイテムや装備、魔法など作成できるもの全てを作りまくった。
万能系統がまったく手付かずのレベル一なのも魔法作りなどに熱を入れすぎていたためである。
熱中して作成した諸々のうちの一つが先ほどの爆炎玉である。
九百八十レベルの魔法系統がそのレベルにふさわしいステータスの魔法を注ぎ込んでつくったアイテムである。
正直なところプレイしていた悠馬のレベル一万能系統では耐えられない一撃なのだが、そのあたりは作成していた装備が役にたっていた。