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ドキドキの初体験? サシャ視点

「え、ちょっとどうした!?」

 突然呆けたように動きを止めたユーマに私は本気で心配した。

 魔法による効果を疑い、すぐに周囲の気配を探るが何者かが攻撃を仕掛けた様子はない。

いったいどうしたのだろうか。

 ユーマは赤くなったまま動かない。

 洗った皿をこちらに差し出したまま大きく口をぱくぱくと開けている。どうも動揺しているようだがまったく原因がわからない。

 初めての現界ではこんなことはなかった。

 主は女性だったが私を見てこんな反応をしめしたことはなかったはずだ。

 原因が私にないならば、本人の方、つまりユーマは体調が悪いのではないか?

 反応も鈍いし熱だろうか。

 それとも食事のせいか。

 そう思い至ったサシャは恐怖した。

 何もできない従者など解雇、魔界へ送り返されても仕方のないことだ。だが、この世界を見て回りたい私としては避けたい出来事だ。

 それに、まだ本契約をしていない。

 この体、人間の肉体を得ている以上はある程度は活動出来るものの、定着は仮の状態でしかないためいずれ魔界へ返る羽目になる。

この体にもっと馴染むためにはユーマからこの世界への滞在の許可、つまりはユーマの願いを聞き、それを叶える努力をしなければならない。

 サタニストたちが願ったのはただ、存在することだけだった。あれほどの好条件は望めないとしても、なんとしても今の主であるユーマには居てほしいと思えるくらいに有用性を示しておかなければならない。

 ともかく、夜風に冷えて風邪をひいたのかもしれない。

食事のせいだった可能性もあるが、食事中も特に異常はなかった。ならば体調不良の可能性のほうが高いだろう。

 ただの風邪ならば寝させてその間に粥でも作ろう。

ふと気づいたが食事は味付けが嫌いだったとかないだろうか。そうだ。食べられるが味付けが好みでなかったとか可能性もあるな。

 もしそうだったら、きちんと直しておく必要がある。知っている料理で無難にこなしたが、ご主人様の好みの味ぐらいは把握しておかなければならない。が、それは後でできる。

 ともかく体調不良と想定して寝かせよう。

 持ってきていた服を着て、ワンピースを拾い上げると私はまだ呆けているユーマの手を引いて家の中へ入った。

 途中のバスケットにワンピースを放り込み

ユーマの手を引いて歩く私はちらりとユーマの様子を伺う。

 ぽけっとした様子からいまだに戻っていない。というか皿を持ったままである。

 ユーマの手からもぎ取る勢いで皿を回収しその辺へ放り出す。皿は硬質な音を立てるが木製なので壊れることはないだろう。

 念入りに洗っていたから気に入ったものなのかもしれないなと思ったが、すでに放り投げた後なので失敗したかもしれない。

 怒ったかと思いユーマを見てみるが相変わらずである。顔も赤いままだ。

 熱だなこれは。

 おそらくだが間違っていないだろう。

 回復魔法が使えていればいいのだがあいにくと悪魔だったときから使ったことがない。

 魔界では人間界へちょっかいを出す以外に娯楽など少ない。

だから結構な頻度で悪魔同士の戦いというのも起こるのだが、それに生き残るためにはさっさと四大元素の魔法を覚えて相手を吹き飛ばすに限る。正直なところお仲間の悪魔に出会ったらまず魔法で吹き飛ばして強さを互いに見せつけ、上下関係をはっきりさせてからでないと悪魔同士は会話できないほど戦いというのは日常茶飯事だ。

 だから私は四大魔法の習得に力を注いでいたのだが、回復魔法を後回しにしていたことを後悔するしかない。

 そうこう考えているうちに調べていた寝室に到着する。

 扉を蹴り破る勢いで開けるとベッドへ一直線に進む。

 薄汚れたベッドだがないよりはマシ。私はともかくとしてまさか主人を床に寝かせるわけにもいかない。

 ベッドのそばにユーマを連れてきて「ベッドに入っておいてくれ」私は粥でも作るからと言葉を続けようとしたが、ユーマは突っ立ったまま動かない。

 ベッドに突き飛ばすかと考えたが、乱暴にして魔界へ返されても困る。

それにチョップをしたときに回復薬をがぶ飲みしていたことを考えると繊細なタイプなのかもしれない。

 仕方がないのでユーマの手を引いてベッドへ招き寄せることにした。

「い、いやサシャさん? 若い男女が二人でベッドというのは少しばかり問題がございませんか」

 ようやく口を開いたと思ったら、熱を出しているというのに何を言っているのだろう。

「何言っているんだ? 体調が悪かったのだろう? 回復魔法は私には使えないが近くにいれば察して何か手を打てるかも知れない。さっさと寝ろ」

 ぐいっと手を引いてベッドへユーマを招き入れると、ユーマの額に手をやる。

 だが、熱のほどがわからない。

 仕方ないのでユーマのおでこに私のおでこをくっつけて熱を測る。

 少しばかり熱い気がするが、許容範囲ではないだろうか。微熱程度ならまだなんとかなりそうだ。

 安堵したとたんにふっと先ほどのユーマの言葉が思い出される。

 若い男女が二人で。

 ん?

 とさらに疑問が湧き出る。そういえば私の体はいま女性だったな、と。

 悪魔に交尾なんてものはないが、人間にはあったはずだ。

 なら、と私の思考は次のユーマが漏らした言葉で吹き飛ばされる。

 おでこを互いにくっつけた状態。

 目と鼻の先にユーマの顔があって、その顔は赤く、瞳は少しうるんでいる。

 端正な顔立ちをしているので人間の感覚からいえば美形ともいえるのではないだろうか。

 そんなユーマが

「……綺麗だ」

とぽつりと漏らしたのである。

何がだなんて聞く間もない。

 心臓が飛び跳ねた。

 そんな感覚を初めて体験した。

 すぐに顔が熱くなる。いや、顔だけじゃない、身体もだ。

 これがなんなのかはわからない。

 こんなことは悪魔のような肉体を持たない生命体、精神体では経験することがないだろう。

 この瞬間こそサシャが自身を女だと自覚した瞬間だったのだが、この時点のサシャはまだ理解にまで至らなかった。

 自分の体に起きた未知の現象に戸惑いどうしてよいかわからずに火照る顔を体ごとユーマから背けた。

そして、私も風邪をひいたのかもしれない、などと芽生えた何かに蓋をした。そしてベッドから出ると、粥を作りに台所へと戻った。


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