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二人の花嫁  作者: 糺ノ杜 胡瓜堂
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【第二幕】 大和屋の才覚


 伊勢屋の前に立った乞食女のお園は、息子、伊之助が長崎で夫婦生活を送っていた者だった。


 殊にその容姿が美しく、性格や行儀作法も全てが素晴らしい女の為、伊勢屋でもこの女を伊之助の嫁にしようと思ったが、そう簡単にはいかない事情があった。



 近所の、これも裕福な商家、大和屋の一人娘を伊之助の嫁に貰うことで既に結納も済ませていたのである。


 今更、簡単に離縁もできず甚兵衛も頭を痛めた、仲人とも相談して解決策を色々と考えたが、


 「・・・・一切の事情を包み隠さずに先方にお話しして、大和屋さんに頭を下げて了承して頂くしかない」


 ・・・・そう決めたのだった。



 「・・・というわけで、一切の非は当方にございます、大和屋さんとしてはお腹立ちなのは重々承知いたしておりますが、どうか・・・どうか曲げて離縁のほどをご承知くだされ」


 伊勢屋甚兵衛と、息子、伊之助は二人並んで畳に頭を擦り付けて動かない。



 大和屋は、突然の離縁の申し出に驚きもし、少々不快にも思ったが、なるべく心を落ち着けて静かな声で話す。


 「委細承知いたしました・・・・しかしながら、このような事は滅多にないことなので、少し考える時間を頂けませんか、後ほどこちらからお宅にうかがって話し合う事にいたしましょう」


 伊勢屋親子は、全てこちらに非がある事とはいえ、大和屋がどのような事を言ってくるのは大変不安に思った。


 「・・・・なんの非もない大和屋さんの娘が大変な迷惑を被るのだ、大和屋さんからのどんな申し出もお受けするしかあるまい・・・・」



 暫くして駕籠を一丁吊らせてきた大和屋が伊勢屋に到着し、甚兵衛と面談した。


 「先ほどの離縁の申し出、よんどころない事情につき、こちらでも承知いたしました・・・・しかしながら」



 甚兵衛は固唾を飲んで次の言葉を待つ。


 「一旦婚姻が整ってからの離縁というならばともかく、たった今離縁するというのは当家の娘に瑕がつくことに相成ります・・・・これは私共としても承知出来るものではございません」


 甚兵衛は黙って頭を下げる、大和屋としてみれば当然至極な話である。

 

「しかし色々手間取っていては、かえって面倒な事になりましょう・・・明日、祝言を挙げることにいたしましょう!」


「・・・えっ?・・・明日で・・・ございますか?」


 大和屋の申し出にはどんな無理難題でも承知するつもりでいた甚兵衛も、これには驚きを隠せない。


「・・・・何分ご承知願いたい・・・それまでは、かの長崎から来た女は当家で預からせていただきますぞ」


 そう言って、大和屋はほとんど無理矢理にお園を、吊ってきた駕籠に乗せて連れて行ってしまった。


 「・・・・お、お園・・・・」


 伊之助はすぐに追いすがろうとするが、甚兵衛が息子を制する。


「大和屋さんにも何かお考えがあるのだろう、ここはその意に背いてはいけない」

 

 伊之助は、眠れない一夜を明かした。




 次の日の夜がきて、花嫁を乗せた輿が厳かに伊勢屋に到着する。



 花嫁が輿から出て、顔を覆っていた綿帽子を上げると、そこから現れたのはお園の満面の笑顔であった。


 「伊勢屋殿、うちの娘を嫁に差し上げますぞ・・・・」



 大和屋は、長崎から来たお園をいったん自分の家の養子とし、花嫁衣装や諸道具を整えたうえで伊勢屋に嫁入りさせたのである。


 祝言も終わり、婿入り、舅入りの儀式も目出度く済んで、お園は正式に伊之助の嫁となった。



 この大和屋の賢さと粋な計らいは町中の話題となり、太和屋の実の娘もずっと格式の高い家から嫁に欲しいと懇願され、すぐに縁談が成立した。


 太和屋は、実の娘、そして養子にしたお園、幸せな二人の娘を持つこととなって、ますます繁栄したという事である。


 

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