変わり始める世界
あのパーティーの日の翌日から俺は、ノートと睨めっこしては、ため息つくそんな生活をしていた。
原作唯一のストーリーに関係のある回想シーンであるパーティーでの出会いがぶち壊しになり、仲良くさせるどころか、紹介すらする暇もなく解散となったのはとてつもない痛手だ。
めいの王子への印象はあまり良くないだろう。
嫌いとまで断言は出来ないが、怖いとは思っている可能性が高い。
王子が来た瞬間に背中に隠れたのは、イケメンすぎて見られのが恥ずかしい的な乙女の思考からの行動ではないことは見なくても分かる。
明らかな原作ブレイク。
ここからはさらに大きく壊れていく事が予想される。
正直に言うとどうしていいか分からない。
俺が動けば確実に変わるというのは、分かっていたことだが、どこか常に良い方に動かせるみたいに感じていた。
だからこそよく考えず入学を決めたり、御門龍星と会話したのだ。
それにめいが少し心を開いてくれた事で、無自覚に舞い上がっていたのかもしれない。
すっかり忘れていた。
こういう状況になったから主人公みたいに思ってたけど、俺はモブ以下の没キャラだ。
俺には運命のヒロインも居ないし、特別な才能もない。
逆境をひっくり返す力も知恵もないのは確実だ。
数日悩んで何も浮かんで来なかったのだ。
ならもう大人しくしておくべきなのかもしれない。
正直言ってめいが王子に惚れるルートから外れたのだから、ヒロインと王子がくっついても恐らく破滅へ向かうようなことはないだろう。
予定とはかなり違うけど、目的は概ね達成されたと言えない事もない。
そう思えば心がすーっと軽くなるのは分かる。
でも何故かそうは思えないからこうして悩んでいる。
とても意味が分からない。
大人としてはそうやって見切り付けるのがいいって分かってるのに。
なんか心にかかったモヤが晴れないというか、とにかくスッキリしないのだ。
コンコン。
部屋の扉がノックされたのは何度目からの思考のループから戻った直後だった。
「みーやーび。いるんでしょ?」
底抜けに明るい、今の状況で最も聞きたくない類の声の主は我が姉こと美咲だった。
姉さんが俺の部屋を訪ねることなんて生まれて初めてだ。
しかし今日も俺は、誰かと話したい気分ではなかった。
というかパーティーの日以来あまり人と会話していない。
また俺がきっかけで何か変わるんじゃないかそう思ってしまうからだ。
なので寝たフリでも決めこんでやろうと布団に潜りこむ。
布団に潜りこむこと数分。
扉の前は人の気配が変わらずあった。
姉さんは息を潜めているつもりなのだろうが、
スリッパの音が丸聞こえだ。
しかしそれは俺も同じこと。
このベッドのスプリングわずかでも動くと音が鳴る。
「起きてるの分かってるから、早く開けなさい」
なのであっさりバレてしまった。
「全くしつこい姉だなぁ」
あまりにしつこいので、根負けして扉を開けると、抵抗する暇すらなく人の部屋に入りこんできた。
姉さんがゲームに食いつく間にそっと例のノートを布団の中に隠しその上に座る。
これは絶対誰にも見せる訳には行かない。
処分するにしてもこのままという訳には行かないし。
「ほー、これが最近学校で話題になってるゲームってやつ? ちょっとやらせてよ」
「何しに来たんだよ? ゲームするためなら帰ってくれ」
「まさかぁ? この美少女かつ天才の弟をもつ私が弟のゲームするためにわざわざ部屋に来るとでも?」
いつも通りうざくハイテンションな姉さんだが、いつも通りじゃない俺はこんな些細なことでもイラッとして声を荒らげてしまった。
「用がないならさっさと出てけよ。俺はもう寝るんだから」
「はぁ。雅ってばパーティーのあとからなんか変だよ? 習い事と食事以外ずっと部屋にこもってるし、ママも心配してる」
そんなことは俺だって分かってる。
心配させてる事もちゃんと見えている。
でも相談なんて出来ない。
だからこうして悩んでいるのだ。
「なんでもない」
「なんでもない人はそんなひどい顔してないよ。雅さ最近鏡ちゃんと見てる?」
確かに髭を剃るっていう手間が無くなってからは洗顔も機械的にやるのみだから鏡をしっかり見る事は無くなっていた。
「ねぇ。パーティーで何したの? お姉ちゃんも謝ってあげるからちゃんと教えて?」
優しさに満ちた笑みは女神のように見える人もいるんじゃないだろうか。
己に罪があれば聞いて貰いたくなるような笑みだった。
セリフが致命的に勘違いしたもの出なかったらついうっかり懺悔の1つぐらいしていたかもしれない。
あとゲームしながらなのもマイナスだ。
せっかくのいいセリフも台無しである。
「何を勘違いしてるのか分からないけど、パーティー会場では問題を起こした覚えはないです」
問題が起きるのは今後だ。
「じゃあさ、なんでそんな顔してるの? 何も無いとは言わせないよ。話すまで帰らないから」
姉さんはソレを聞き出すまでここにいるつもりらしい。
「なんでそこまで気にするんだ? 俺のことは放っておけばいいだろ」
だけど絶対言うつもりはないので、突き放すように質問を重ねる。
呆れて出て行くのを待つ作戦だ。
「そりゃ、わざわざ聞き出す必要はないと私も思うよ? ママからは放っておいてあげなさい、この時期はだいたい小学校の入学前だから不安になりやすいのって言われたし、でも私にはそうは見えないから、全然良くならなそうだから、心配だから弟だから無理にでも聞き出そうと思って」
しかし姉さんはゲームの手を止めることなく、そんな恥ずかしすぎるセリフを軽々言ってのけた。
前世、兄を経験したはずの俺には全く共感出来ず、思わず言葉に詰まる。
「ねぇ? 話せる範囲で良いから」
ゲームをやめて、振り返った姉さんは、後光が差して見えた。
本当はずっと誰かに相談したかったんだと思う。
こんなの1人で抱えるには重すぎる話だし、俺一人では、どうにもならないと打ちのめされている最中なのだ。
「分かった話すよ」
と言っても転生したという話や、漫画の世界である所を伏せて、当たりさわりの内容として、幼なじみの女の子の行動がなぞすぎて困るというような内容の悩みを聞かせた。
その話を聞き終えた姉さんは深くため息をつきいてから何故かげんなりした顔になってから立ち上がって。
「はぁ? なんやそら。ただの恋バナかよ。心配して損した」
酷くブサイクな顔になって部屋を出ていってしまった。
どこに恋バナの要素があったかまるで分からないが、やっぱりアホな姉さんだった。
こっちのほうこそ相談した時の感動と覚悟を返して貰いたい。
なんだか釈然としないままその日は眠りについた。
そして翌日。
朝食を食べて習い事の家庭教師が来るのを待っていると、珍しく固定電話が大きな音を立て鳴った。
執事が電話に出てて母さんが呼びだされるのを満腹感の中ぼんやり眺めていると、いつもの電話の時の高い違和感のある声じゃない事に気がつく。
なんで女ってあぁ電話の時に変な声になるんだろうな。
よくわからん。
「んーん? 来週なら。空けとく。はーい」
珍しく弾むような母さんを聞き流す。
あと20分程暇があるのだが、ゲームするには短すぎる。
小学校に入るまでスマホは買って貰えないし、あー暇。
電話を切ったあと母さんが猛ダッシュしてきたのが分かった。
「みーやーび! 来週の土曜日めいちゃんと水族館に行ってきなさい! めいちゃんのママに迷惑かけないようにね」
闘牛のように鼻息を荒くした母さんの勢いに圧倒され文句や苦情を言う暇もなく承諾させられ、水族館に行く事になってしまった。
原作ブレイクはここから加速するのだろうか?
不安が頭をよぎった。
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