分岐点
大人になっても、いっこうに成長しないものがある。
勘だ。
いくら予測出来るようになったつもりでも外れることはあるし、全く逆の結果になることもある。
受験の日から約1ヶ月。
我が家綾小路家は、現在2つの手紙に舞い上がっていた。
ひとつは、推薦の合格通知。
そしてもう1つは、御門家からだ。
「雅、合格おめでとう。と祝ってあげたい所なのだけど、今日の夜は、御門家のパーティーに参加します」
そう母さんに告げられたのは、合格通知を手渡された時だった。
この時期のパーティーといえばあの原作最重要エピソード、めいと王子の出会いのシーンのパーティーだと予想される。
だが、原作通り展開ならうちに招待状が届く事などありえない。
そもそも受験がなければ、知り合う予定はなかったわけだし。
つまりあの場に俺が行くのは相当不味い。
ここは原作通りに2人に知り合って貰わないと困るのだ。
原作通り迷子のめいは王子に助けられ惚れる。
そして2人は知り合いになる。
その時、泣いてばかりのめいを変えるきっかけとなる言葉を偉そうに言い放ってくれる。
それがあって初めて俺は2人をくっつけるサポートが出来るようになる。
だから俺がその場に行って、原作ブレイクのような現象が起きても困るのだ。
受験の影響が今こうして出てきている。
その経験から思ったより原作の話からは簡単にズレる事が分かった。
行くだけでも影響する可能性が高いから最重要エピソードに立ち入るのはやめといた方がいい。
俺が変えるのは2人の恋の進展だけにしたい。
きっかけは絶対壊すわけには行かないのだ。
「お言葉ですが母さん、俺のことはいいので楽しんできてください」
つまりここは全力回避。
部屋に引きこもってでも行かない選択肢を取らなければならない。
それがめいのためになるはず。
王子もめいのような美人が嫁になるなら悪い話ではないだろう。
王子の運命の相手であるヒロインだけは、貧乏クジを引いて貰う事になるが、それはめいと王子をくっつけた後で何とかすればいいだけの話だ。
「何をいってるの雅? 今回のパーティーへのお誘いは、あなたが龍星君を助けたことへのお礼でもあると書かれています。あなたが行かないと意味がないでしょう」
今ほど己の無計画さを呪ったことは無い。
何してるんだよ俺。
言い訳させて貰うとこういう話って世界の修正力とかがあると思ってたけどそうでもないのか。
「いえ、俺は入学に向けての色々アレがありますので」
「アレって何かしら? 合格出来てはしゃいじゃう気持ちは分かるけど、あまりふざけていると怒りますよ?」
母さんの額に青筋が出たのを見て確信した。
世界の修正力はちゃんと働いている。
俺を苦しめるために。
そうとしか思えない。
結局俺は、パーティーを回避する事は出来ず、子供用のタキシードを無理やり着せられ、強引に車に乗せられ、意志とは無関係にパーティー会場であるホテルに連れてこられる事になった。
それでもまだ抵抗しようとする俺を腕を無理やりロックするのは同じくパーティードレスを着た姉さんだ。
本日俺が逃げないように監視する役目をになった。
両親はこの後色々挨拶して回る必要があるので、俺を見ては居られない。
そこで白羽の矢立ったのが姉さんだ。
しかも今回はパーティー終了まで俺を逃がさなければお小遣いが貰えるとあってとっても張り切ってる。
家の中でもあまり接する機会がなかったので知らなかったのだが、我が姉は、可愛らしい見た目に反して守銭奴らしい。
部屋にはいくつも貯金箱があり、何個も満杯にしているらしい。
「雅。ここまで来たんだし、もう諦めて大人しくしなよ。ねぇ大人しくしてたら美味しいもの食べるだけの楽しい時間なんだから」
両親がパーティーの受付をしている間、腕をがっちりロックし、呆れ気味な姉さんはそう諭してきた。
俺も同じ立場なら恐らく似たような言葉をかけたから気持ちはよく分かる。
限界まで抵抗してみたが、もう車も家に戻ってしまったのでこっそり乗り込んで逃げる事も出来ない。
理想は行かないことだったが、それは無理になった。
むしろ今いなくなれば騒ぎになる。
今回のミッションは、めいと王子の出会いのシーンを邪魔しないこと。
ならば次善の策は目立たないことだ。
しかしこのままアホな姉さんと一緒にいれば100パーセント悪目立ちする。
朝食の時とか異常にテンション上げるし。
「分かったよ。大人しくするから腕、離して」
抵抗する意志を捨てた風を装い、引きはがそうとしていた手を緩め、エントランスに置かれたソファに腰掛ける。
「くれぐれもお姉ちゃんの視界から居なくならないでね。これがかかってるから」
親指と人差し指で丸を作りながら淑女らしからぬ悪い笑みを浮かべる姉さん。
と、そこに今1番会いたくない金髪がホテルの入口にやってくるのが見えた。
めいだ。
幸い真っ直ぐ受付に親子揃って行ってくれたのでこちらには気がついていない。
バレたくない俺はそっと俯く。
声でバレるかもしれないから両親が来るまでじっと待つことにした。
「雅もしかして具合悪かったの?」
途中姉さんが心配して声を掛けてくれたので声を張った事で変に注目を集めてしまったが、それ以外は大きな問題もなくパーティー会場へと入れる事になった。
俺達がまず最初に通されたのはメインとなる会場の鳳凰の間と呼ばれる所だった。
メインの会場だけあってとても広く床一面にレッドカーペット敷かれている。
立食形式らしく、入口から入ってすぐの長いテーブルにはいくつもの料理が並べられていて、既に料理を楽しみにしている人達が列を作っている。
今にも駆け出して行きそうな姉の手をぐっと握り、ここで両親と別れる。
「じゃあ雅、美咲。私達は御門さんを探して挨拶してくるからここから出ちゃダメよ? どうしても出なきゃ行けない時はどこに行くかちゃんと報告し合ってから行くこと、いいわね?」
かなりの人数を招待したららしく、会場はここだけでは無いらしい。
世界にも名前が知られる大企業だけあって交流はかなり広いんだろう。
知り合って間もない家まで呼ばれるぐらいだし。
両親を見送ると、姉さんは人の間を縫うように料理の列に並んでしまった。
俺もその後を追ってひとまず並ぶ。
さすがに美味しそうな香りに食欲が刺激される。
並んでいる最中辺りを見回すと、パーティー会場には俺達みたいな子供姿も多くいた。
恐らくメイン会場であるここは子供を預けておけるスペースとしての役割もあるのではないだろうか。
ここの出入り口には常に二人以上監視がいるし。
料理もハンバーグとか子供か好きそうなものが揃ってる。
それから先程までいた大人の姿が半分以下にまで減っている。
適当に食べ物を見繕い空いているテーブルで姉さんと二人頂く。
「雅これ食べてみて!」
差し出されたのは何の変哲もない唐揚げ
「なにこれ?」
「分からない。でもみんな取ってたら流れで取ったんだけど、よく分からないから食べて」
毒味かよ。
なんてことがあったりしたが、美味しい食事とアホな姉さんの会話にすっかり油断し、俺が来るだけで、シーンぶち壊しになると思ってたけど、俺から動かないとあんまり変わらないのか。
なんて優雅にココアの飲みながらパーティーを楽しんでいた。
パーティーも中盤に差し掛かり、周囲にはなんとも緩やかな雰囲気が流れていると、尿意を感じた。
俺は姉さんに一言、言ってトイレに向かう。
子供に配慮されているのか、出入り口を出てすぐ近くにトイレがあり、そこで用を足していると、背中に変な視線を感じた。
ん? 隣は空いてるのになんで使わないんだ?
後ろを振り返りたくはあるが、手元が狂っても困るので、気持ち悪い視線に耐えて、終わらせる。
そしてようやく振り返ると、そこに金色のパーティードレスをまとった金髪の少女が、泣き出す寸前のような顔で俺の後ろに立っていた。
「何してるんだ? ここ男子トイレだぞ?」
突然の事に固まったもののここで驚き大きな声を出せばめいが泣くと思った俺は、ひとまず冷静な風を装い手を洗う。
鏡には、めいがしっかり映り込んでいるので、幻覚や見間違いではない。
そのはずなのだが、めいは後ろにいるだけで何も言わない。
ただ泣きそうな表情で俺の後ろにいる。
「男子トイレで何してるんだ?」
手を拭き終え、それでも何も言わないので、もう一度問う。
この時俺は内心とても焦っていた。
なぜめいがここにいるのか全く見当がつかないし、早くしなければパーティーが終わってしまう。
まだこの感じだと王子とは会ってないだろうからこのままここに居られると、あのシーンがないことになってしまう。
「黙ってちゃ分からないぞ?」
焦った俺は急かすように畳み掛ける。
あんまり遅くなると姉さんも心配するし。
こっちは騒ぎを起こしたくないんだ。
「はぁ、なんで男子トイレにいるか知らないが、なるべく早く両親の元に戻れよ? じゃあな」
3分程粘って見たが、めいは何も言わずこれ以上は限界と考えた俺は心苦しくあったが、もしかしたら王子がこの場をなんとかする可能性もあると、無理やり思考に区切りをつけその場を離れる決断をした。
ところがトイレの出口の方に足を向けてすぐ、タキシードの背中を引っ張られるような違和感とみちっという変な音がして立ち止まる。
振り返ると、めいが俺のタキシードの端を力強く掴んで、背中に張り付いていた。
至近距離にめい顔があって驚きその場で飛び上がりそうになったが、何とか堪える。
目に溜まった涙が今にも溢れそうになっていて、このまま会場に戻れば泣かれることは確実だ。
葛藤が心を揺らす。
王子が来ると信じて戻るか何があったか聞き出し解決するのか。
干渉すれば大事なシーンが無くなるかもしれないと思うと答えは出ない。
「お母様とはぐれた」
黙り悩み続けている所に聞こえて来たのは震える小さな声だった。
考えるまでもなくそれしかない事に今更ながら気づく。
普通自分の娘が男子トイレに入るのを容認する母親なんていない。
加えて泣きそうになっていて1人でいるならその可能性しかない。
聞いてしまえば、もう一緒に探す以外の選択肢はなくなった。
それにこのまま放って万が一誘拐でもされたら困る。
ひとまずトイレからでた俺は、状況把握をすることにした。
「どこではぐれた? 覚えている範囲でいい教えてくれ」
「分からないの」
しかしパニック寸前だっためいは、がむしゃらに探して来たのだろう。
首を横に振るだけでヒントは得られそうにない。
そうならやることは1つ手当たり次第に聴き込む。
それしかない。
聴き込むこと数分。
いっこうに成果は芳しくない。
というのもめいの人見知りが酷すぎてろくに聞き込みできなかったのだ。
話しかけ、この子の両親を探していますといえば特徴を聞かれるのだが、俺はあの時一目見ただけで俯いてしまったから覚えて居ないし、めいは喋らない。
なので聞き込みはまるで進展しなかった。
「あのなぁ。大人が怖いのは分かるが、少しぐらい喋ってくれないと、見つからないぞ?」
「ううっ。…………」
涙目になって睨まれてしまうとあまり強く言えないのだが。
「まぁいいよ。別に無理に喋ろうとしなくても」
トイレに行くと言ってからかなり時間が経ってしまっている。
むしろめいがいた方が怒られないで済むかもしれないなんて悪い考えが頭を過ぎってしまった。
「えっ?」
めいは驚いた顔で俺を見つめた。
まるでありえないものでも見たように目を見開いていた。
何かおかしなこと言っただろうかと思い返して見るが、不審な点も気分を害するような事も言ったつもりは無い。
予想外の反応に首を捻っていると、前から今は会いたくないやつナンバー2が駆けてきた。
「おう、雅探したぞ? お前こんな所で何してんだよ。両親といればお前に会えるって言うから待ってたのに全然来ねぇし」
「っ…………」
王子登場になぜかめいは俺の背中に隠れた。
タキシードをギュッと握り顔を背中に埋めるように密着した。
え? いや、めいさん?
何してるのこの子。
君今からこの人に惚れるんだよね?
なんでそんなに怖がってるの?
などとめいに言えるはずもなく、御門龍星に事情を話す。
「いえ、この子の両親を探すのを手伝ってまして」
「あぁ? おいお前今の聞いたか? 探してこいよ」
それを聞いた御門龍星は、近くにいたスーツの男を呼びつけそう命じた。
そこからはとても早い展開だった。
子供を探しているのは俺の両親とめいの両親しかおらず、あっさり見つかった。
めいは家に帰ってからお説教を食らう事になったが、俺はお咎めなしでむしろ褒められ大満足のなか家に帰る事になった。
着替えを済ませてベッドに潜りこむと途端に思い出したくない事を思い出し目が覚めていく。
「やべぇ。貴重な出会いのシーンぶち壊しちゃったよ。この先どうなるんだ一体?」
王子とめいをくっつけるサポート処ではなくなってしまった。
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