推薦試験2
御門龍星。
飾らない君にメインキャラの1人。
幼少の頃より英才教育を受け、あらゆる分野にでその才能を発揮する紫苑学院きってのモテ男。
作中では何度もテストで学年トップをとり、めいの仕業でデートを邪魔するためヒロインがひったくりにあった時もその足の速さで素早く捉えたりしていた。
そんな天才が推薦試験を受けないわけはない。
御門家は世界にその名前が知られている日本トップの名家。
いくつもの会社を長年経営している。
当然将来御門龍星は、そのトップに君臨することが決まっている。
となれば紫苑学院の推薦だって受けるに決まっている。
合格すれば箔がつくし、推薦されただけで自慢になる。
母さんのあの感じからして俺が思っているよりすごいことなのかもしれない。
そんな天才はモテに関してもとんでもない。
中等部時代のバレンタインデーには冗談抜きで学校中の女子からチョコを貰ったらしい。
高等部では学校外からも来る程に人気が高まり警備員が出てきていた。
原作でモブ達が口々に説明してくれたのを流し見しただけだが。
しかしなんとも腹立たしいのは、この男それだけの数を貰っておいてヒロインからチョコを貰った時だけ、お前からのチョコが1番嬉しいとか言いやがったんだ。
恐らくめいからも貰っていたはずなのに。
まぁ3歳上の幼なじみにこっぴどく振られる未来を知っているからそれなりに平常心を保って居られる。
本来なら未来への布石も兼ねて会話のひとつぐらい弾ませたい所だが、ここでは私語厳禁。
既に試験が始まっているので、静かにやつが座っている窓際から遠く離れた廊下側の入ってすぐの椅子に腰掛けた。
教室自体は前世で通っていたものと作りはそう変わらないので、そういう部分でも心を乱されなくて済むのはありがたい。
時計すらないこの部屋では、基本聞こえてくる音は、俺か御門龍星から発生するものなのだが、先程からなんども布の擦れる音が聞こえて来る。
少し気になって音のする方向を見るも、御門龍星は凛々しく顔を引き締め座っている。
背筋をピンと伸ばし、椅子の座り方の見本のように身じろぎすることなくだ。
つまり音の正体はこいつでは無い。
となればいったい誰がこの音をさせているのか気になる所ではあるが、私語厳禁と言われたからには一言たりとも喋る気はない。
今の俺は試験合格のみを目指している。
すごく気になるがここはぐっと我慢。
怪しげな布の音に耐えていること体感10分程。
今度は校内のスピーカーから音が流れ出した。
微かに聞こえて来たのは水たまりを歩くようなぴちゃぴちゃという音。
ついでうめき声のような低い声。
だんだんと大きくなる。
そして遠くで子供の悲鳴のような声が聞こえた。
もしかして、この待機時間も試験ってことか?
どこかで試験官が見ているのかを確認しようと辺りを見回すと、先程まであれほど凛々しく座っていた御門龍星が、耳を塞ぎガタガタと震え始めていた。
あっ、そういえばヒロインとの初デートで遊園地に行った時、頑なにお化け屋敷に入ろうとしてなかったな、こいつ。
お化けが怖いのか。
これは使える時が来るかもしれないから覚えておこう。
などと悪い思考を巡らせていると、ついに恐怖の限界を迎えた御門龍星が俺の近くに寄ってきた。
そして聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で囁いた。
「助けて、トイレ行きたい。付いてきてくれ」
恐怖で漏れそうになったが今1人でトイレに行くのは勇気がいる。
そういうことらしい。
流石の天才も尿意と恐怖に勝てないようだ。
俺はここで考えねばならない。
もしここで2人揃ってこの教室を抜け出した場合どうなるか。
試験中無断席をたてばもちろん途中退席で0点扱いになる可能性が高い。
これはペーパーテストの場合だが。
今回のこの謎が多いこのテストは何を見られているか。
恐らく子供たちの自分で考えられる力を見ているのではないかと予想している。
ひとつは親と切り離して子供1人の状態を作った状況。
もう1つは中途半端なあの案内だ。
分からない事がちゃんと人に聞けるかどうかを問われている。
つまりこの場が試験会場であるなら、どこかに試験官がいるのは間違いない。
ここで勝手にトイレに行けば恐らく二人とも失格になる。
そう考え、教室の扉を開け廊下を見た。
すると、廊下に椅子を構えて座っているスーツ姿のおじさんと目が合った。
あとは簡単、おじさんを呼び寄せて御門龍星を預けるだけ。
2人が戻って来る頃には変な放送も止み、おじさんから一言。
「うん。これでここでの試験は終了です。1階でご両親と合流してください」
「ありがとうございます」
形式的に頭を下げて階段を下る。
半分程まで降りた所で肩を掴まれた。
子供の握力ってこんな強いの?
肩が外れるかと思ったぜ。
「おい、助かった。それから済まなかった。あのままお前を連れ出していたら二人とも不合格になってたらしいな。あのジジイが言ってた」
とても礼を言う態度には思えないが、御門龍星はこんなキャラなのだ。
俺様系? とか言うんだっけ、てかよく知らないけどそういう感じのキャラらしく、言動のそこかしこに威圧感を感じる。
さて、どう返すべきか。
今回の試験も原作にはない出来事だが、今後ここでの会話がどんな影響をもたらすか全く分からない以上迂闊なことは言えない。
「いえ。ではこれで失礼します」
無難にこんな感じで立ち去ることにしようと頭を下げ再度階段を降り始めると、その俊足をフルに活用して隣に並んできた。
「どうせ目的地は同じだろ? 一緒に行こうぜ」
下手に断って機嫌を損ねられても困るので少しだけ歩調を緩めた。
「そういや、お前名前は?」
「綾小路雅」
「雅か。俺は御門龍星だ」
廊下を歩く間に何故か自己紹介をさせられ、家の自慢を聞かされた。
俺の家は会社のあるビルの上から3階なんだとか姉がいて、乙女心がどうとか訳分からんこと言ってきてムカつくとか、その姉と友達の静華さんが姉なら良かったのになど、まぁ愚痴だな。
あっ、ちなみにこの数年後恋心を自覚した御門龍星はこの静華さんに思いっきり振られます。
しかも、りゅー君は弟みたいな感じでそういうのじゃないの、ごめんねぇと言う男としては割と最悪なセリフで。
回想シーンではあったのだが、俺としてはここはツボだった。
ようやく御門龍星から解放され両親の元に戻り一息ついていると、何やら煌びやかなご婦人が、御門龍星を連れてこちらにやってきた。
全身がエネルギーに満ちあるれているような感じがして1歩引いてしまった。
しかし向こうはそんな事は気にしていないようで足元にいる俺を見つめ、
「そちらが綾小路雅さんですね?」
「はい、雅はうちの息子です」
「先程は私の息子が大変お世話になりました。なんでも不合格になりそうな所を救われたと」
「いえいえ」
金持ちでも主婦みたいなやり取りするんだなぁとか他人事のように眺めていると、両親と御門さんが何やら話し込はじめた。
それは親子面接が始まる少し前まで続いた。
親子面接も大きな問題なく終了してしまった。
まぁ精神年齢で考えれば大人3人での面接だ。
負けるわけがない。
聞かれたこともほぼテンプレそのもの。
住所や家族構成、普段何をして遊んでいるか、習い事のことなどなど。
特に不審がられた様子も面白みもなく、淡々と答えたおかけで割と早く終わることが出来た。
試験はこれで全て終了ですと言われ、安心しながら廊下を歩いていると、運動着を着た同じぐらいの年の子とその親らしき人達が続々と面接の待合室の教室に雪崩れ込んで来た。
さっと、血の気が引いたのが分かる。
「雅、あなた運動考察受けた?」
抑揚のない母の声が耳に抜ける。
そりゃ受けた覚えはない。
練習はそれなりにしていたが、御門龍星が目の前に現れた衝撃で全部吹き飛んでたわ。
黙っていることを肯定と捉えた母さんはその場に崩れ落ちそうになっていた。
父が支えてくれなければ頭を打っていたのではないだろうか?
しばらく腰の抜けた母さんを支えていると、再び御門さんがやってきた。
「あら、綾小路さん。まだいらっしゃったの? 」
「それが運動考察を受けていない事に気がつきまして、どうしたものかと」
まだ動かない母に変わりに父が答える。
「ぷっ。オッサン知らないのか? あの運動考察を受けるのは1次に落ちた連中だけなんだぜ? なぁ母さん」
「えぇ。そうですよ。でも龍星、綾小路さんになんて失礼な態度を。本当ならあなたもあそこにいたんですよ。謝りなさい」
「すいませんでした」
うわぁ御門母怖ぇ。
あの未来の暴君を子犬の如く飼い慣らしてるよ。
「そうなんですか。教えて下さりありがとうございます。さぁ雅、帰るわよ!」
問題がないと分かった事で安心した母さんが見事に復活して歩き出す。
ほんとわかりやすい人だな。
一応御門親子に挨拶を済ませて母さんのあとを追う。
「御門さん。では、また近いうちに」
「えぇ。お待ちしております」
紫苑学院の敷地から出るとすっと肩が軽くなった気がした。
次会うのは入学式だろうな。
ぼんやりそんな事を考えながら迎えの車に乗り込んだ。
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