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チョコは万能薬?

 家庭教師が変わって1ヶ月ほどが過ぎ、姉が学校に行ったのを見届け、いつものようにリビングで習い事の先生が来るのを待っていると、母さんがリビングにやってきた。


 「雅、めいちゃんの所に行くから今日は習い事はなしよ」


 そうお達しがあった。

 用意のために母さんが引っ込んだのを確認してチョコをそっとポケットに入れる。

 我が家の冷蔵庫は2台あり、ひとつは普通に、野菜などの食料が入っていて、もう1つにはチョコレートのみが入っている。

 こっちは姉以外あまり開ける事が起こらないが、今日は別だ。

 約束の日が来たわけだし、破る訳には行かない。

 というか待ち望んでいた。

 そろそろ渡しておかないと嘘つき扱いされかねない。

 そうなれば今後めいに対しての発言力が弱くなる。

 それは目的を達成するうえで避けなければいけない。

 今はとにかく信頼を勝ち取ることが最優先。


 まぁあれからすぐにまた来ることになると思ってあぁいう提案をしたものの、お金持ちって思ったより暇がないんだよぁ。

 基本毎日習い事がはいっているし、ない日も母が忙しくしている。

 その暇な時間をゲームに当てていた結果3つほど世界を救ってしまった。

 うちがゲーム禁止の厳しい家だったらとっくに暇死していた自信がある。

 外で無邪気に公園を駆け回っていた前世が懐かしいぜ。

 まぁこの辺公園とかないですが。

 


 よそ行きの服に着替える途中で先ほど冷蔵庫から盗み出しておいたチョコをその服に移し替え、用意を済ませると家の前に止まっていた車に乗り込み、城ヶ崎家に向かう。

 うちにも一応専属の運転手なる存在がいるので母と2人後ろに乗り込む。


 城ヶ崎家と我が家はあまり距離が離れていないので車で約15分。

 高級住宅地であり豪邸が立ち並ぶその中でもとびきり豪華で存在感のある家だ。

 割りと最近建てられたようで外観から真新しさが見て取れる。

 眩しいほどに白い外壁が一際よく目立つ。

 近づくとそこに高いホテルをそのまま住めるように改造したと思えるほど、デザイン性と高級感に溢れる家の中が隙間から注意深く覗くと見える。

 この家の1番の目玉はなんと言ってもこの門。

 自動で開閉出来るらしい。

 ハイテクだな。

 うちは昔に建てたものらしく広いだけでこういうスタイリッシュなものはあまり無い。

 インターフォンにカメラついてるぐらいだし。


 母がインターフォンを鳴らして2、3会話をすると、音を立てて開く。

 初めて来た時は、アニメに出てくるヤバめの遺跡みたいだと感想をいだいたもんだ。

 門が開いたのを確認すると、運転手に連絡したらここに迎えに来るように伝えてようやく中へと入っていく。



 門をくぐり、家政婦さんに出迎えてもらい、そのままリビングに通される。

 

 「少々お待ちください。今、恵里香様を呼んでまいります」

 

 お茶を2つ用意すると家政婦はそれだけ言い残し2階へ登って行った。

 城ヶ崎家はうちのような屋敷ではなく、現代チックな一軒家だ。

 うちの屋敷の方が広いそれは、城ヶ崎父の趣味でいくつも別荘があり、そちらに金を掛けているんだと母が言っていた。

 それをネタにうちの父に別荘をねだってたな。

 うちも別荘あるのだろうか?

 今度機会があれば聞いてみるか。


 時計の音を聞きながら家を観察していると、2階から階段を降りる音が2つ重なって聞こえた。

 見れば家政婦さんと、恵里香さんが降りて来ていた。

 恵里香さんは1階に降りるなり、駆け寄り手を振りながら挨拶。


 「1ヶ月ぶりね美沙。それから雅くんも」


 「あらぁ? ちょっと痩せた恵里香」


 「ううん。やつれただけよ、最近めいがピアノを張り切っちゃって。他の習い事も火がついたみたいに頑張っちゃってもー凄いのよあの子」


 確かに恵里香さんの顔には、大きな隈があって痩せたと言うよりはやつれたという表現が当てはまる。

 しかもそれがめいによるものというのがなんか怖い。

 この後、チョコを渡すために1度会わなければならないのだが、ちょっと気後れしてしまう。

 チョコどんだけ好きなんだめい。

 なんか原作にはない反応なんでちょっと怖い。

 

 「へー、めいちゃん。そんなに頑張ってるんだ。うちの雅なんて全然よ。この前の家庭教師にもう彼には教えられないので、辞めさせて下さいって土下座されたのよ。もー嫌になっちゃう」


 おいおい。

 なんて話してくれてんだ。

 それこの世界に来て1番恥ずかしいやらかしなんですが。

 女子がよくやる自分を下げる事で相対的に相手を褒めるやつなのか?

 女の社会は大変そうだな。

 

 母達がそんな女社会の気の遣い合いをしながら会話とお茶を楽しみながら会話をしているのを黙って聞き流していると、恵里香さんが何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。


 「あっ、そうだ雅くん。めいが少ししたら雅くんを部屋に向かわせて欲しいって言ってたの。行ってあげてくれる? あの子と何か約束があるんでしょ?」


 パチリとウインクを決め何か致命的な勘違いをしているような笑顔を向けられた。

 確かにめいの姿が見えなったのは、さっきから気になってはいたが、そのうち出てくると思ってたんだけどまさか呼び出してくるとはな。

 うん。悪役令嬢の片鱗出てるわ。

 原作でも、人を使って何かをさせるようないじめが多かったし。

 まぁ今はそこまで気にしなくてもいいか。

 

 「はい。では失礼します」


 申し出をありがたく受け、一礼して2階続く階段へと足を向けた。


 「ねぇ、美沙。雅くん――」


 だんだん遠ざかる会話を聞き流してめいの部屋の前まで来た。

 ううっ。

 なんか無性に緊張するな。

 前回は転生していた事が発覚した衝撃でアドレナリン的なのが出ていたおかげで逆に冷静でいられたんだけど、冷静な今は緊張がやばい。

 例えるなら憧れのアイドルとこれから二人っきりなるみたいなもんだからなこれ。

 とりあえず深呼吸を。


 3回ほどしっかり深呼吸をして意を決して扉をノックして1歩下がった。

 俺が1歩きる直前、勢いよく扉が開かれた。

 分厚い木の板が鼻先を微かに掠めた気がする。

 どうやら俺は反射神経はいいらしい。


 「あぶねぇ」


 抗議の声を上げるもめいは何も言わず俺を部屋に引きずり込む。

 顔に似合わず俊敏な動きに、どんだけチョコに飢えてたんだと軽く引きながらも、なすがままに部屋の中へ。

 扉を閉めカチャと鍵をかけると振り返り一言。


 「例のものを」


 その目は危ない薬を売人からせびる人のように血走り、せっかくの可愛らしい顔が台無しとまでは行かなくとも魅力半減だ。

 ゴクッと唾を飲んだ。

 なんだかよく分からないけど緊張から緊迫に状況が変わった気がする。

 そんなはずはないのに命が危ないと身体のそこから訴えかけてくる。

 俺は素早くポケットから板チョコを2枚取り出し床に置いた。


 「これが約束の品だ」


 雰囲気に飲まれ、出たセリフも取引のそれだった。

 めいはそれを広い上げ、外の紙のパッケージを破る。

 それからクルクルと板チョコを回して、眺めていたが、突然くわっと目を見開き詰め寄ってきた。


 「嘘つき。匂いはチョコだけど、こんな銀色はチョコじゃない! 騙したなぁ!!」


 銀紙に包まれたままのチョコを何処ぞの印籠のように突き出し今にも襲いかからんとさらに詰め寄るめい。


 「まてまて。それも破るんだよ」 


 「嘘つきの話は信じない!」


 説明するも、もはや聞く耳を持ってくれず、止まる気配はない。

 何とかしなければチョコで撲殺されそうだ。

 焦った俺はめいの持っているチョコの上部分を持ってへし折り銀紙を引きちぎり一欠片のチョコを眼前に突きつける。

 するとこれまで恐ろしい殺気を発していためいの動きが止まる。


 「ほら、チョコだぞ?」


 めいの口が開きそのまま止まる。

 

 「食べさせろって事か?」


 口を開いたらまま動かないので勝手にそういう事だと解釈して口にチョコを放り込む。

 ポリポリ音を立てながら咀嚼して飲み混むと、血走っていた目がすっと戻り、前回会った時と同じ、大人しそうな少女に戻っていた。


 「美味しいっ。もっと」


 また口を開けるめい。

 もしかしてめいはチョコを自分で開けた事がないのか。

 だから騙されたと怒ったのか。

 まぁそこは俺の配慮不足だし、長らく渡しに来なかったのも悪いし、食べてる姿は可愛いしまぁいいか。

 それにこうしてるとなんか野良猫に餌付けしてる気分だな。


 チョコ切れるとキレやすくなるとかどんな漫画のキャラだよ。

 いや、漫画のキャラだからありなのか。

 現実だと相当危険だけど。

 もしかしてめいの両親はこれを知っててチョコを与えないようにしてたのか?

 だとしたらとんでもない事をしてしまった気がする。


 持ってきたチョコをすべて食べさせ終え、そそくさと退散しようと、部屋の鍵を開け扉に手をかけると背後まで駆け寄ってきためいが、俺の背中を引っ張る。


 「なんだ?」


 そうも露骨に掴まれては無視も出来ないので振り返ると、そこには、ちょっと寂しそうな表情をしためいが立っていた。


 「その、もし私が合格出来たら、もっとチョコくれる?」


 合格とは恐らく小学校受験の事を指しているのだろう。

 めいが習い事に対して異常なやる気を見せているのは、恐らくこの約束を取り付けるためだったのではないだろうか。

 めいが頑張れば未来で幸せになれる可能性が上がる。

 どこかでやる気を出させるつもりではあったしチョコでコントロール出来るならこの先もやりやすくなる。


 「あぁ、もし合格出来たらもっと持って来てやるよ」


 色々な打算込でその約束をOKした。

 学校は別々になるだろうし、会う口実としてもちょうどいい。

 

 「うん。絶対だよ!」


 前回同様小指を絡ませそう約束した。

 

 無事任務を済ませ迎えの車に乗り込み快調に道を進む車内。

 城ヶ崎家を出てからずっと無言だった母が突然こちら向いた。

 窓の外を見ていたがガラス越しに目が合う。

 長い事城ヶ崎家にいたので辺りはすっかり夕暮れ。

 茜色の夕日も沈みかけ、紫混じりの空となっていた。


 「雅。もし良かったらなんだけど、めいちゃんと同じ学校行く気はない?」


 何気ない会話を切り出すように発せられた言葉は恐らくこの世界を揺るがすそんな、発言だった。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


『面白いよ』


『続きが気になるよ』


『更新頑張れ!』



と思っていただけた方は、


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[良い点] めいちゃん可愛い [気になる点] 他の家の育児に口を出すのは難しいけど子供の純粋な意見としてめいちゃんのお母さんにめいちゃんを褒めさせるよう誘導できるといいなぁ・・ [一言] 更新を楽しみ…
[一言] めいちゃんかわいいです。 これからも更新楽しみにして読ませて頂きます。
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