不正な誠実
Q 腕使えるの?使えないの?
A パンチに「は」使えない
死の避けられぬ熱量弾が溜められている。〈キテル〉等の行った太陽顕現を、遥かに越す退魔性。スルトはイレギュラー〈魔王〉対処『Lv4』でもある存在なのだ。
「ゼル…」
二度目の喪失感を味わいたくないシュアは、考えを巡らせる。手を……手を……と思考の波に呑まれる内に、自身の内面に目を向け始める。
内側の底、そこにはゼノムとの繋がりがある。これを使えば、遠くからでも彼の助けになる。という考えだ。
考えは甘く、彼女の魂は余りにも深かった。
(これは……誰の記憶?)
外で虫に噛まれる奴隷、女性初の院生、星々を巡る、大海を常に泳ぐ………何度の生を享けていたのか。
訳の分からないまま、より深く入り始め。
「うぅ」
体に痛みが走る。背中の方から何かが飛び立とうするような、体の引っ張られ具合。
『妹達よそれで良いのか』
シュアは察した。進めば戻れない事を。自分の種族が変化するのだろうと。彼のお気に入りの存在から、一旦、外れる事になるのだろうと。
だからこそ彼女は止まらない。愛する存在の為に、魂の深淵へと身を投げ続ける。
『我等は僕、主の下で動くもの』
背中が割れた。耳や尻尾が無理矢理、押し込まれた。胸に力が収束された。
『我はミカエル』
『我はガブリエル』
『我はウリエル』
「我はラファエル」
力が全身へ駆け、波動が周囲へ漏れる。人格が掘り起こされ、同時に〈集合令〉が出されていることを知った。
『イレギュラー〈魔王〉へ〈天使軍〉の発令。最近辺基地の〈月〉に集合』
「あぁ…」
この場で彼を助けるべきなのか? より強い退魔が待ち構えているのに。
助けないのか? 隔てない癒しの権能を、与えられた自身が。
助けるのは? 愛すべき夫? 同じく神の僕である火の巨人?
「………彼は……そう……発令された〈天使軍〉にてすべき」
彼女は拡大解釈を行った。天使の行いの不履行を目指す存在は、神の敵だと。
「主よ。御心の邪魔を排除いたします」
三対六翼でゼノムの元へと、ラファエルは向かった。
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シュアとの回路から力が流れ込む。癒しを主にした力が。ボロボロの体は万全を通り越し、成長している。
シュアがいる方から何かが飛んでくる。そう理解した瞬間。
ギュウゥゥ
凄くいい匂いの何かに抱き締められ、戸惑いしかない。
「大丈夫? 怪我してるとこない?」
シュアの白い翼で包まれた上に抱擁。白い翼となればアレだ。とにかく無事を伝えよう。
「無いぞシュ」
彼女の指が俺の口を押さえる。名前を呼ばれたくないらしい。
「今の私はラファエル、癒しの権化………好きなだけ吸って」
話を聞きながら指を吸っていたら、そう言われた。ついでに胸の強調をしてきたので、目が行く。
[最後から2cmアップ……これが天の威か]
「んー………魔力による身体構造の変化だから、ゼルと同じだよ?」
まじめに彼女は対応してる。
自分の呼び方は変えさせて、俺の呼び方は変えない。実際に上だが驕りをやられるのは嫌いなので。
「ひゃっ! そこは駄目…めっ!」
翼の付け根を撫でたら怒られた。獣成分が別方面に行ったが、愛くるしさが相変わらずなので全然大丈夫。
『答えよ、天使』
「既に〈魔王〉は〈天使軍〉による討伐が確定している。貴方は相手してはいけない」
遠回しな嫁からの殺害予告を受けた。《内対》が大爆笑しているのがよく分かる。俺だって笑うしかないのだから。
とりあえず距離を空ける。
『我の任の中に』
「天使の決定より優先されると思いで?」
ここまでの強気は初めてだ。あぁ、踏まれたい。
『しかし背任するわけには』
「簡単です」
彼女はスルトと俺に向かって何か放つ。効果は。
「互いに治癒能力を下げての決闘なら」
さらりと〈巨人〉の、それも星と繋がった存在の回復能力を下げる。これが嫁か、誇らしいものである。
「はい、開始」
宣言は唐突だった。
回復能力を下げたとして、依然、体力の多さは変わらない。これまでより無茶な動きがしにくくなったので、削りにくさも上がっている。
基本は回避を優先して逃げ回る。しかしスルトの攻撃は通常で高範囲、高威力。地上じゃ地震どころか、断層だらけになっていそうだ。
[あれ? 弱火じゃね?]
《内対》に言われて剣を見る。後から取り出した方の火が、弱まっているのが分かる。もしや剣が本体? 次の好機では武器破壊を狙う事にした。
聞いていたのか、遠距離か下賜の剣でしか来なくなる。いや、これは下賜を先に折ろう。
「〈雷化〉」
急速接近で意表を突く。勿論、狙うのは本体剣だが。
『ぅぬ!』
下賜を差し出しにくる。遠慮なく折らせていただこう。
「〈刀死〉」
見覚えのある特殊な刀の折り方を真似る。勿論、自分の身体では無理なので変化させた体で挟み。折る。
『馬鹿な?!』
まさか本当に折れるとは思っていなかった。これはどういう事だろうか。
[知らなくて良いこともある]
絶対、訳が分かってる。教える気がないのはどうしてだろうか。
『〈炉心解放〉』
相手の手札を全て見た訳ではなかったからか。ならば仕方ない。
本体剣から炎が吹き上がり、また消える。いや剣に収斂しただけか。
『〈緋線〉』
実質、光刃と化した大剣が振られる。狙って紙一重で避け、剣先と刀身の根元を掴み、軸を根元に回転させる。
スルトはバランスを崩し、剣から手を離す。
離れた剣が暴れるように爆発と灼熱を繰り返すが無問題。そのまま剣を上に掲げて、手放し。
「〈羅拳弐之打〉」
鍔と刀身に拳を入れると剣より光が漏れる。大爆発の前兆だ。




