突入5
ブクマが地味に増えてらぁ
荘厳な神殿。然れどそれは見た目でしかない。正面の柱の間を通れば、液晶画面から離れただけのゼノム達の、前世界の家の様である。
「はぁ……〈臍輪部〉にダンジョンねぇ。深度は最終。しかも〈原初球防衛者〉は〈天使軍〉発動により半休止。ダンジョンは寄生を選んでるし……」
そう言いながらヴェラドは、狂喜でダンジョンを攻略するゼノム達を眺めていた。一度は仲間割れを起こしたようだが、その後は非常に生き生きと協力し、ほぼ笑顔で階をかけ降りる。
闇、雷、土のゼノム。それ以外の属性も扱うが、特に強みとなるのはこの三つ。全容が掴みにくく、疾く、堅い。これが揃って、あの星の神代遺物以外の何に負けようか。
光と斬撃のサイフィ。常識の範疇だったのは、周りが常識だったからのようで、まさしく殻が打ち破られた。ゼノムとの戦いでは当代〈勇者〉とみなして良い位の活躍だった。
水、氷、回復のシュア。ゼノムとの繋がりがあるせいか、回復力がとんでもなくある。死が確実と思われたサイフィを、一時間程度で元に戻す驚異の回復。〈原初球〉には破格過ぎる。回復だけでなく、戦闘まで行えてしまうのも、可笑し過ぎる。
それらに、何でもないように添えられた忍者。しかし〈雷化〉したゼノム以外の速さに合わせる事が可能で、何より脱落していない事が特筆される。緊張からの発狂も大怪我もなく、彼らに付いて行ける事だけで、人類最高峰と行っていいだろう。
『しっかし、露骨に現れんな』
『格……いや贄が足りないんだよ。蜥蜴と魚と亀と蝙蝠と牛や山羊、土と逆十字を掲げる人、ゴリラと像と人……そう言うのが集まらないと』
『そうなんだが、やっぱお前〈魔王〉だな』
ゼノムは生体実験型の〈竜〉〈吸血鬼〉〈巨人〉の事を特に考えずに言っていた。種族的には〈混成生物〉しか生まれないが、要素の抜き取りだけは的確だった。
ヴェラドは感心と畏怖が同時に沸いた。
「どうなると思われます?」
手伝いとして神殿に残された天使より、先についての予測を求められる。
〈万象庫〉外存在と説明しても、予測不能を露にする事はない。すなわち。
「どれだけ低く見積もろうが〈星系崩級〉は越えて来るだろうね」
幅の広い言葉を出すしかないのだ。
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「バカナァ……?!」
「ご丁寧に種族を教えるから、そうなるんだよ」
見た目から悪魔系統と推測した存在。30分は戦い、アプローチを間違えてる気がした。
瞬間〈思考加速〉での〈念話〉会議。シュアの回復をかけてから、サイフィの光刃で切り裂くと、想定通りに核が出てきた。間髪を入れず俺が握り潰す。
道連れ狙いの自爆をされるが、身体的にノーダメージ。精神では。
[アクマ=サンはしめやかに爆裂四散]
と、いつものように感染した《内対》がネタを披露する。何のネタが飛び出すか分からないのが特徴な、ガチャシステムである。
(今、何階?)
地味に気になった事を《内対》に聞く。ハイテンション維持の為に、現在階層を聞かないでいた。
途中、溶岩地帯もあったのでかなり深く潜ったはずなのだ。そしてこの階段からは、これまでの階層とは比べものにならない、濃く重い気配が漂っている。次がキリのよい数字になれば良いが。
[119だ]
丁度な階数だ。しかし、このダンジョンもこれで終わりとなると、寂しくなる。
宝箱を中身ごと粉砕し、サイフィに〈輪戦車・三型〉で突っ込ませ、粘液トラップにかかったシュアを激写した。そんな思い出のある空間を、制覇という形で消し去るのだから。
「分かってるとは思うが、次が大詰めか大分岐だ。気を引き締めろ」
「行けるよ! 攻略出来る!」
「伝説の一部になれそうです」
「なぁ? 飲み物ない?」
締める気が水分補給に負けたか、サイフィが腰を折る。微妙にキレ。
「そうだね。私も喉渇いた」
「一時、休憩ですね」
他二人の賛同が飛び、飲み休憩を始める。
「では、海の店にあったココアをお願いいたします」
「私、ソーダ」
「レモン」
持っているもので注文がはいる。サイフィの短さにキレたので。
「はいよ、ココアとソーダとクエン酸ですね」
「ハァ"?!」
サイフィには抽出率99.9%を差し出す。しかし芸人魂でもあったのか。
「ぐぁぁ! すっぺぇぇぇぇぇ!!」
謎に飲んでしまう。一番のダメージかと思う位に、じたばたしている。リアクションが単純に楽しい。
[これが肥大化してあれやこれや]
《内対》から感想が届く。全くもって違いない。
「大丈夫? これ、飲む?」
なので、シュアと間接キスになり得るイベントを授けよう。チラチラと此方を見ず、ありがたく受け取るがいい。
[超ひねくれた嫁への評価ですね……酔ってますわ……]
「さて、休憩は終わりだ。征くぞ、諸君」
「ん」
「はっ!」
「あぁ」
俺、シュア、忍者、サイフィの順で階段を降りる。階段の壁はこれまでと違い、炬が灯され何かの顔を型どった模様が続く。
「まるで裏ボス部屋だな」
「フッ、DLCがよく言うわ」
俺の呟きにサイフィが反応する。確かにその見方はありだ。この世界にとってのDLCであれば、性能が高かろうと客観的に見れば『ままあること』である。
「いい発想だな」
「「???」」
シュアと忍者は首を傾げるだけだ。忍者はともかく、シュアが知らないとなると《内対》はかなり浅く見せていたようである。
階段はかなり長く、降り始めて10分後にやっと大広間……。
「ほぉ」
暗黒に生えたかのような巨大な円柱、意味深に置かれた灯台。石盤を一枚一枚重ねただけの階段。炬も無しにそれらが見え、中央には黒の……棺。
「……」
シュアが無言で俺の腰に手を回す。恐怖しているのだろう、円柱と石盤以外に足場と呼べるものがないのだから。
歩を進め、棺の前に来る。棺に文字がかかれてある。
[灯せ。回せ。さらば、我は現れん]
成る程、決められた通りにするあるいは、灯した順番で強さが変わる仕掛けのものか。形を悩んでいると
「おい、ゼノム。俺らにも説明してくれや」
「この文字が見えないの?」
「……らしいな」
パーティーリーダーにしか見えないタイプでもあったのか、サイフィから疑問の声があがる。一応の説明と推測は伝える。
「で? どうする気だ?」
「何芒星かにしようと思ってる」
理解が早いサイフィから、次を求められる。そして俺は方面は決まったが、確定ではない。
う~と唸りつつ、20分かけて決定した。
「八芒星だ」
決まってからは早く《内対》の指示通りに灯して行く。
[勿論、東からだよな?]
全てを灯し終わると、棺が音を立てて少し形を変えた。ファンタジーより、SFに出てきそうな回転ロック式の棒が飛び出ている。これを差し込んだら、間違いなく戦闘開始だろう。
「そろそろ来るぞ。準備しておけ」
そう言って、ゆっくりと回し押し込む。
ガゴン
棺の中から音がして、急激に棺が姿を変える。正しく変形が似合うそれ。完成形は。
「「そう来たか」」
サイフィと声が重なる。来ないと思いきやラストで来る粋さ。本物ではなく偽物であるが、場合によっては越えるもの。
「ガガガガガガガガガ」
___〈機竜〉___
《内対》「リスペクト?」
ゼノム「耐えられなかったんだ……買ったし」




