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全天録  作者: AX-02
第二章 昼
92/261

突入5

ブクマが地味に増えてらぁ

 荘厳な神殿。然れどそれは見た目でしかない。正面の柱の間を通れば、液晶画面から離れただけのゼノム達の、前世界の家の様である。


「はぁ……〈臍輪部(トレス)〉にダンジョンねぇ。深度は最終。しかも〈原初球(エデン)防衛者(ガーディアン)〉は〈天使軍(キリエ)〉発動により半休止。ダンジョンは寄生を選んでるし……」


 そう言いながらヴェラドは、狂喜でダンジョンを攻略するゼノム達を眺めていた。一度は仲間割れを起こしたようだが、その後は非常に生き生きと協力し、ほぼ笑顔で階をかけ降りる。


 闇、雷、土のゼノム。それ以外の属性も扱うが、特に強みとなるのはこの三つ。全容が掴みにくく、疾く、堅い。これが揃って、あの星の神代遺物以外の何に負けようか。

 光と斬撃のサイフィ。常識の範疇だったのは、周りが常識だったからのようで、まさしく殻が打ち破られた。ゼノムとの戦いでは当代〈勇者〉とみなして良い位の活躍だった。

 水、氷、回復のシュア。ゼノムとの繋がりがあるせいか、回復力がとんでもなくある。死が確実と思われたサイフィを、一時間程度で元に戻す驚異の回復。〈原初球〉には破格過ぎる。回復だけでなく、戦闘まで行えてしまうのも、可笑し過ぎる。

 それらに、何でもないように添えられた忍者。しかし〈雷化(スパーキング)〉したゼノム以外の速さに合わせる事が可能で、何より脱落していない事が特筆される。緊張からの発狂も大怪我もなく、彼らに付いて行ける事だけで、人類最高峰と行っていいだろう。


『しっかし、露骨に現れんな』

『格……いや贄が足りないんだよ。蜥蜴と魚と亀と蝙蝠と牛や山羊、土と逆十字を掲げる人、ゴリラと像と人……そう言うのが集まらないと』

『そうなんだが、やっぱお前〈魔王(ゼノ)〉だな』


 ゼノムは生体実験型の〈(ドラゴン)〉〈吸血鬼(ヴァンパイア)〉〈巨人(ティタン)〉の事を特に考えずに言っていた。種族的には〈混成生物(キメラ)〉しか生まれないが、要素の抜き取りだけは的確だった。

 ヴェラドは感心と畏怖が同時に沸いた。


「どうなると思われます?」


 手伝いとして神殿に残された天使より、先についての予測を求められる。

 〈万象庫(アカシックレコード)〉外存在と説明しても、予測不能を露にする事はない。すなわち。


「どれだけ低く見積もろうが〈星系崩級(スターズ)〉は越えて来るだろうね」


 幅の広い言葉を出すしかないのだ。

_______________________________________________



「バカナァ……?!」

「ご丁寧に種族を教えるから、そうなるんだよ」


 見た目から悪魔系統と推測した存在。30分は戦い、アプローチを間違えてる気がした。

 瞬間〈思考加速(インテリアクセル)〉での〈念話(テレパス)〉会議。シュアの回復をかけてから、サイフィの光刃で切り裂くと、想定通りに核が出てきた。間髪を入れず俺が握り潰す。


 道連れ狙いの自爆をされるが、身体的にノーダメージ。精神では。


[アクマ=サンはしめやかに爆裂四散]

 

 と、いつものように感染した《内対(げんちじん)》がネタを披露する。何のネタが飛び出すか分からないのが特徴な、ガチャシステムである。


(今、何階?)


 地味に気になった事を《内対》に聞く。ハイテンション維持の為に、現在階層を聞かないでいた。

 途中、溶岩地帯もあったのでかなり深く潜ったはずなのだ。そしてこの階段からは、これまでの階層とは比べものにならない、濃く重い気配が漂っている。次がキリのよい数字になれば良いが。


[119だ]


 丁度な階数だ。しかし、このダンジョンもこれで終わりとなると、寂しくなる。


 宝箱を中身ごと粉砕し、サイフィに〈輪戦車(パンジャンドラム)・三型〉で突っ込ませ、粘液トラップにかかったシュアを激写した。そんな思い出のある空間を、制覇という形で消し去るのだから。


「分かってるとは思うが、次が大詰めか大分岐だ。気を引き締めろ」

「行けるよ! 攻略出来る!」

「伝説の一部になれそうです」

「なぁ? 飲み物ない?」


 締める気が水分補給に負けたか、サイフィが腰を折る。微妙にキレ。


「そうだね。私も喉渇いた」

「一時、休憩ですね」


 他二人の賛同が飛び、飲み休憩を始める。


「では、海の店にあったココアをお願いいたします」

「私、ソーダ」

「レモン」


 持っているもので注文がはいる。サイフィの短さにキレたので。


「はいよ、ココアとソーダとクエン酸ですね」

「ハァ"?!」


 サイフィには抽出率99.9%を差し出す。しかし芸人魂でもあったのか。


「ぐぁぁ! すっぺぇぇぇぇぇ!!」


 謎に飲んでしまう。一番のダメージかと思う位に、じたばたしている。リアクションが単純に楽しい。


[これが肥大化してあれやこれや]


 《内対》から感想が届く。全くもって違いない。


「大丈夫? これ、飲む?」


 なので、シュアと間接キスになり得るイベントを授けよう。チラチラと此方を見ず、ありがたく受け取るがいい。


[超ひねくれた嫁への評価ですね……酔ってますわ……]




「さて、休憩は終わりだ。征くぞ、諸君」

「ん」

「はっ!」

「あぁ」


 俺、シュア、忍者、サイフィの順で階段を降りる。階段の壁はこれまでと違い、炬が灯され何かの顔を型どった模様が続く。


「まるで裏ボス部屋だな」

「フッ、DLCがよく言うわ」


 俺の呟きにサイフィが反応する。確かにその見方はありだ。この世界にとってのDLCであれば、性能が高かろうと客観(ネット)的に見れば『ままあること』である。


「いい発想だな」

「「???」」


 シュアと忍者は首を傾げるだけだ。忍者はともかく、シュアが知らないとなると《内対》はかなり浅く見せていたようである。


 階段はかなり長く、降り始めて10分後にやっと大広間……。


「ほぉ」


 暗黒に生えたかのような巨大な円柱、意味深に置かれた灯台。石盤を一枚一枚重ねただけの階段。炬も無しにそれらが見え、中央には黒の……棺。


「……」


 シュアが無言で俺の腰に手を回す。恐怖しているのだろう、円柱と石盤以外に足場と呼べるものがないのだから。


 歩を進め、棺の前に来る。棺に文字がかかれてある。


[灯せ。回せ。さらば、我は現れん]


 成る程、決められた通りにするあるいは、灯した順番で強さが変わる仕掛けのものか。形を悩んでいると


「おい、ゼノム。俺らにも説明してくれや」

「この文字が見えないの?」

「……らしいな」


 パーティーリーダーにしか見えないタイプでもあったのか、サイフィから疑問の声があがる。一応の説明と推測は伝える。


「で? どうする気だ?」

「何芒星かにしようと思ってる」


 理解が早いサイフィから、次を求められる。そして俺は方面は決まったが、確定ではない。


 う~と唸りつつ、20分かけて決定した。


「八芒星だ」


 決まってからは早く《内対》の指示通りに灯して行く。


[勿論、東からだよな?]


 全てを灯し終わると、棺が音を立てて少し形を変えた。ファンタジーより、SFに出てきそうな回転ロック式の棒が飛び出ている。これを差し込んだら、間違いなく戦闘開始だろう。


「そろそろ来るぞ。準備しておけ」


 そう言って、ゆっくりと回し押し込む。


ガゴン


 棺の中から音がして、急激に棺が姿を変える。正しく変形が似合うそれ。完成形は。


「「そう来たか」」


 サイフィと声が重なる。来ないと思いきやラストで来る粋さ。本物ではなく偽物であるが、場合によっては越えるもの。


「ガガガガガガガガガ」


     ___〈機竜(ドラゴウェポン)〉___    

《内対》「リスペクト?」


ゼノム「耐えられなかったんだ……買ったし」

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